表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
47/343

第47話「M1-8」

 俺に向かってウルフが駆け出す。

 が、そのウルフが二歩目を地面に着く事は無かった。


「甘い!」

『!?』

 その前にオルガさんの瘴巨人が拳を振り下ろし、先陣を切ろうとしたウルフを瓦礫が砕け散る音と共に、道路の舗装ごと叩き潰したからである。

 だが、仲間を跡形もなく粉砕されたにもかかわらず、ウルフたちはオルガさんの行動に触発され、一斉に俺たちに向かって駆け出し始める。


「おらぁ!」

『ギャッ……!?』

 状況は一気に進行し始める。

 ダスパさんの瘴巨人が手に持ったサスマタを突き出し、ウルフの首根っこを押さえると、そのままさらに押し込む。

 すると、サスマタから電撃が発せられ、それまで暴れ続けていたウルフはその動きを止める。

 しかし、オルガさんとダスパさん、二人の瘴巨人が動いて生じた隙を縫うように、残りのウルフたちは俺たちに大きく口を開きながら向かってくる。


「ほい、ほいっ」

『ギッ!?』『ガキャ!?』『ワグッ!?』

 ライさんとレッドさんの元には三体のウルフが向かって来ていた。

 だが、二人はまるで慌てた様子も無かった。

 ライさんが短剣をウルフの身体に存在している瓦礫と瓦礫の隙間のような部分に向かって正確に投擲し、短剣が突き刺さるとウルフたちの身体がほんの一瞬ではあるが、明らかに硬直する。


「ライ。よくやった」

『『『ギャイン!?』』』

 そして、その一瞬の間にレッドさんがウルフに近づき、刃が赤く輝くほど高熱になった槍を一閃。

 三体のウルフを一撃で切り捨てる。

 ライさんが動きを止め、レッドさんが仕留めると言う見事な連携だった。


「オラララララアァ!!」

『ギッ……ギャ……ワオ……!?』

 コルチさんの方にも一体のウルフが向かってきており、コルチさんに対して両足の爪を突き立て、牙を剥き出しにして噛み付こうとしていた。

 しかし、コルチさんは鉈を振り下ろしてウルフを叩き落すと、そのまま息を吐く暇も、反撃の機会もウルフに与えず、鉈と盾を叩きこみ続け、完璧に沈黙させる。

 それは傍目には完全なゴリ押しではあったが、実際には的確に相手の行動の基点を潰すと言う巧みな技に他ならなかった。


「……」

『アオオオオォォ……』

「ウルフならこれで十分です」

『ン!?』

 ニースさんに対しても一体のウルフが来ており、コルチさんの方に向かっていたウルフと同じ様に跳びかかってくる。

 しかし、ニースさんは冷静にウルフの口に向かって剣を突き入れると、ウルフの爪を紙一重で避けつつ電光を発する剣を一振りする。

 すると、ただそれだけでウルフの肉体は、繋ぎ合わせていた何かが無くなったかのように、瓦礫に還る。

 それは見事としか評しようの無い一撃だった。


『『『グルアアアァァ!!』』』

「ハル君!」

「ハル!」

「分かってる!」

 俺たちの方にも残りのウルフたちが向かって来ていた。

 俺はそれを見て、左手を上に上げながら、力を左手に集めていく。

 力が集まっていく時の感覚で分かった。

 トトリさんの言葉ではないが、明らかに中で訓練していた時よりも今の調子は良い。

 それは瘴気と言うエネルギー源が周囲の空間に満ち溢れているおかげだろう。

 今ならば、感情の高ぶり次第では本来の(・・・)【堅牢なる左】が発動できるかもしれない。


「【堅牢なる(フォートレス)(レフト)】!」

『ギャイン!?』

 だが、高すぎる破壊力は味方にも被害を与えると判断して、俺は敢えてダイオークス内で訓練していた時と同程度の出力に抑えて【堅牢なる左】を起動。

 手刀にした左手をウルフたちに向かって真っ直ぐに振り下ろし、それに合わせるように【堅牢なる左】も振り下ろされ、進路上に居た一体のウルフが瘴液と瓦礫を撒き散らしながら叩き潰される。

 が、残り二体のウルフは手刀にしていたために【堅牢なる左】の左右を通るように、そのまま俺たちの方に向かってくる。


 さて、この状況。

 俺一人ならば、対応出来ても片方だろうが……俺は一人ではない。


『グルアァ……』

「させないよ!」

『ギャイン!?』

 俺の右隣に居たワンスが銛を突き出して、ウルフの身体に突き刺す。

 すると、ニースさんの剣と同等か、それ以上の電光が銛から発せられ、ウルフの身体は一瞬にして四散する。


『グル……』

「私……だって!」

『ガっ……ぎっ……ギグギャ!?アアアァァァ!!?』

 同時に、俺の左隣に居たトトリが瘴巨人を操ってウルフを押さえつける。

 すると、ただそれだけの動作であるにも関わらず、何故かウルフが呻き出し、痙攣を起こしたかのように震え、やがて大きな叫び声を上げながら、その動きを完全に止める。


「ふぅ……終わったな」

「だね」

「はぁはぁ……やっぱり本番は違うね」

 そうして、十体のウルフが完全に動きを止められたところで、場に静寂が戻り、俺とトトリの初めての実戦は誰一人としてかすり傷一つ負わずに終わる事となった。


「さ、次が来ない内に、とっととやるべき事をやって帰るぞ!」

「う……」

「そうだった……」

 で、ああ、そう言えば、俺たちの目的はウルフを倒す事なんかじゃなかったな。うん。

 ダスパさんの言葉で一気に現実に戻されたわ。


「にしても……」

 俺は【堅牢なる左】を発動しようとした時のことを思い出す。

 あの時の俺はどうして……本来の【堅牢なる左】なんて思ったんだ?


「ん?どうしたんだい?ハル」

「どうしたのハル君?」

「ん、ああいや、何でもない」

 ワンスとトトリの俺が心配そうに声を掛けてくる。

 しかし、俺自身理由も何もわからなかったので、大丈夫だと返すしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ