第46話「M1-7」
俺たちが辿り着いた場所は事前のミーティング通り、住宅街のような場所だった。
ただ、住宅街であると言う事は、道路はビル街のように片側三車線もあるのではなく、普通の自動車がギリギリすれ違える程度しかない為、まずはキャリアーを目的地である半地下シェルターに比較的近い場所に有る広場に駐車する事になった。
「よっと。まずは瘴巨人だな」
「さて、とりあえず周囲にミアズマントはいないようだね」
「じゃ、急いで起動しちゃうね」
で、停車した後は周囲を警戒する為にも、防護服を身に着けた上で素早く降車して、俺たちの場合は俺とワンスがトトリが自分の瘴巨人を起動させるまでのわずかな間の護衛をする。
「瘴巨人テンテスツ起動します」
トトリは瘴巨人に乗り込んで起動させると、トトリの瘴巨人はゆっくり立ち上がり、キャリアーから降りて広場に立つ。
そして、その頃には第1小隊ではオルガさんが、第3小隊ではダスパさんが同じように瘴巨人を起動させ、この後の行動に備えて俺たちの近くにやって来ていた。
「トトリ。調子はどうだい?」
「大丈夫です。むしろ中で練習していた時より調子が良いぐらいです」
さて、オルガさんの瘴巨人だが、トトリやダスパさんの瘴巨人と比べると、腕や足が全体的に太く、胸や頭を守る装甲にしてもかなり厚めに感じた。
何と言うか、見るからに戦闘用と言った感じの瘴巨人だった。
なお、オルガさんの瘴巨人は腰や腿、背中など、何処を見回しても武器のような物が付いておらず、代わりに指の一個一個にしっかり装甲が施されているので、どうやら徒手空拳で戦うタイプらしい。
「調子が良いか。まあ、中では瘴液庫内の瘴気をガンガン消費しているのに対して、外では大気中に瘴気が満ちているおかげで、消費した端から補給されるし、そう感じるのも当然と言えば当然か」
ダスパさんの瘴巨人は以前見た時とさほど変わりない。
右手にはサスマタの様な物を持ち、左手には円形の盾が備え付けられた鎧の巨人と言った感じである。
まあ、オルガさんの瘴巨人に比べたら、腕などは若干細めな感じもするが、どちらかと言えばダスパさんの方が基準としては相応しいのだろう。
トトリの瘴巨人も似たような物だし。
「さてと、話はそれぐらいにして、シェルターの調査班とキャリアーの護衛班にそろそろ分かれるっすよ」
「確かにその方が良さそうだ。さっきから鼠級のミアズマントが妙に騒がしい」
ライさんとレッドさんの防護服に関しては、ニースさんとコルチさんが身に着けている物とそこまで差は無さそうだった。
ただ身に着けている物からして、ライさんは複数の短剣を、レッドさんは普通の剣並に刃が長い、薙刀にも似た槍を使うらしい。
まあ、どっちの武器にしても見た目通りの物ではないんだろうな。
「シェルターの調査班はハル君たちにライとコルチの二人を加える形でしたか」
「で、キャリアーの方は残りの面々が担当する。と」
ニースさんとコルチさんの防護服については以前見た時と全く同じだった。
とりあえず、ニースさんの剣の電撃は二度と喰らいたくないです。はい。
で、本来の予定ではニースさんとコルチさんの言うとおり、二つの班に分かれてシェルターを調べる予定だったのだが……。
「カツカツ……」
「ん?」
「ハル君?」
「ハル?」
その前に俺の耳が微かな足音……それも獣が四足で駆けるような音を複数捉える。
「ちっ、早速か」
「みたいだね」
「あっ!?」
俺に続く形で、瘴巨人に備えられた高精度の聴覚センサーによってダスパさんとオルガさんの二人が、二人に僅かに遅れてトトリが俺の聞いた音と同じ音を捉える。
『周囲に複数のミアズマントの反応有り。反応の大きさからして狼級と思われます。数は十。既に囲まれています』
第1小隊のキャリアーから聞き慣れない男性の声が聞こえてくる。
確か第1小隊のキャリアー運転手で、ピス・アブソールさんだったかな。
第1小隊では唯一二十歳を過ぎている寡黙だけれども、優しそうな人だったはずだ。
まあ、それはともかくとして、どうやら第1小隊のキャリアーにはかなり高性能なレーダーのような物が積まれていて、その信頼性はかなり高いらしい。
事実、俺、ワンス、トトリの三人以外は今の言葉だけで既に円陣のような陣形に移行し始めており、それぞれの得物に至っては既に構え終えている。
「ハル!お前はワンスと組んで一体相手にしろ!トトリ!お前は単独で一体だ!」
「了解!」
「は、はい!」
「分かったよ!」
そして、ダスパさんの指示を受けて、武器だけ構えていた俺たち三人もようやく動き出し、円陣の中で誰も守っていなかった方に移動する。
『『『グルルルル……』』』
「「「……」」」
やがて、瘴気の中からゆっくりと足音の主たちがその姿を現してくる。
現れたのは、様々な種類の瓦礫によって肉体を構築した体高50~60cm程度の狼……狼級ミアズマント・タイプ:ウルフの群。
狼級ミアズマントの中でも最も一般的な種類のミアズマントである。
『『『……』』』
「「「……」」」
ウルフたちは模している生物の名に相応しく、獲物として見定めた俺たちの様子を窺うように、ゆっくりと周囲を回り始める。
俺たちも隙を晒さないように注意しつつ、ウルフたちの事を睨み付け続ける。
そして、焦れたのか、はたまた別の理由が有るのかは分からないが、一匹のウルフが俺に向かって駆けだしてきた時、場が動き出した。
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