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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第45話「M1-6」

 目的地への移動そのものは、ただ第1小隊のキャリアーに付いて行く形で運転するだけだったので、今のところは至極順調だった。

 ただ……


「うおっ!?」

「きゃっ!?」

「おっと」

 頻繁に俺の運転するキャリアーが何かを踏みつけ、空気が弾けるような音と共にキャリアー全体が大きく揺れるのが問題だった。

 おかげで、今リビングに居るトトリとワンスは、出来るだけ立って移動はせずに這って移動するようにしているし、俺もハンドルが変な方向に切れたりしないように注意を払う事になっている。

 せめてもの救いはリビングの家具はきちんと固定されているので、これだけ大きく揺れても色んな物が飛び出したりしないと言う点か。


「と言うか、この揺れってもしかしなくても……」

『大量の鼠級のミアズマントを轢き潰しているからでやんすよ』

「ライさん」

 通信装置からライさんの声が聞こえてくる。

 それにしても大量の鼠級ミアズマントって……ミーティングの時に言われていた事か。

 基礎訓練で習った限りでは鼠級ミアズマントは臆病だって話だったんだけどなぁ……。

 まあ、それはさておいてだ。


「えと、大丈夫なんですよね?」

『轢いたところでただ揺れるだけでやんすから、心配する必要は無いっすよ。数が異常なのは確かっすけどね』

「なるほど」

 どうやら今のところは問題ないらしい。

 まあ、キャリアーは元々狼級ミアズマントまでだったら、真正面からぶつかったり、轢いたりしても大丈夫なように、バンパーとタイヤに強い衝撃が加わったら電撃を発する瘴金属が仕込まれているって話だし、想定の範囲内か。


『でまあ、目的地に着くまで暇でやんすし。きちんと基礎訓練の内容が頭に入っているのかを確かめる為に、そっちのキャリアーに乗っている三人に問題でも出すっすよ』

「え!?」

「へっ!?」

「アタシもかい!?」

『きゅっきゅっきゅー、護衛に近い補佐役と言えども、しっかりとした知識は必要でやんすからねー』

 と、ここで突然ライさんが俺たちに向けて問題を出す事を提案してきた。

 どう考えてもライさんの暇つぶしが目的だろ、これ……。

 まあ、目的地に着くまでやる事が殆ど無いのは事実だし、通信装置の周波数を勝手に変えるわけにも行かないから、運転に支障が出ない程度に付き合うしかないな。


『じゃ、一問目はトトリに問題っす』

「は、はい……!」

『ミアズマントがどう言う存在で、何故人や都市を襲うかを答えるっす』

「えーと、ミアズマントは瘴気を吸収した無機物を肉体の主用構成物とする模倣生命体であり、人や都市を襲うのは自己防衛、または自身の成長に必要な無機物を得る為だと言われています」

『うん。正解でやんす』

 ライさんの質問にトトリは淀みなく答える。

 ちなみに、ミアズマントが瘴気を吸収した無機物……特に様々な電子機器に使われている電子回路を核としている事までは間違いないそうだが、どうして生物を模すのかなどまでは分かっていないらしい。


『二問目はワンスに行くっすよー』

「はいはい……」

『ミアズマントの等級区分を下から順に、分け方と一緒に答えるっす』

「ミアズマントの等級区分は大きさ……体長もしくは体高に基づいたものだね。等級は下から順に30cm未満が(ラット)(クラス)。30cmから1m未満が(ウルフ)(クラス)。1mから3m未満が(グリズリー)(クラス)。3mから10m未満が悪魔(デーモン)(クラス)。10m以上が(ドラゴン)(クラス)だね」

『ふむ。正解っすね』

「まあ、噂じゃあ、100mを超すような巨大ミアズマントに関しては、巨人(ジャイアント)(クラス)とする。なんて区分も聞いたことが有るけど、これについてはそもそも確認された事が無いって話だね」

『きゅっきゅっきゅ。良く知っているでやんすねー』

 次の質問にはワンスが自らの言葉に自信を滲ませながら答える。

 それにしても巨人級か……それについては基礎訓練の中では習わなかったな。

 たぶん、今までに一度も確認された事が無いから、教えても意味が無いと判断されたんだろうけど。


『それじゃあ、三問目はハルっす』

「運転に支障が無い程度でお願いします」

『分かっているっすよ。三問目はさっきワンスが言った等級区分は殆どそのままミアズマントの戦闘能力に繋がるっすけど、その区分の平均的なミアズマントの戦闘能力と比較して、段違いの戦闘能力を有するミアズマントの事をなんて言うっすか?』

「えーと……」

 俺は頭の中で基礎訓練中に習ったミアズマントに関する知識を掘り返していく。


「名称は特異個体(イレギュラー)。実際にどれだけ通常のミアズマントとの間に差が有るのかは個体差が激しいので、一様に表す事は不可能。ただ、交戦の際には、最低でも一階級は上に見ると同時に、電撃や火炎など、特殊な攻撃手段を有している可能性を考慮しつつ対応するべきである。でしたっけ」

『その通りっす。まあ、ここ数年は目撃すらされて無いっすけどね』

 どうやら俺の答えは間違っていなかったらしい。

 良かった良かった。

 と言うか俺の【堅牢なる左】に他の人の特異体質も、ぶっちゃけ、人間と言う種族内でのイレギュラーと考えるべきだよな。

 普通の人間には有り得ない能力なんだし。


『と、そろそろ着く頃っすね。こっちのキャリアーの動きに合わせるっすよ』

「分かりました」

 と、いつの間にか目的地の近くにまで来ていたのか、第1小隊のキャリアーが徐々に減速していく。

 さて、元の世界に帰るための手掛かりが無事に見つかるといいんだがな……。

 俺はブレーキをかけて、キャリアーのスピードを落としながら、そう思った。

04/07誤字訂正

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