第42話「M1-3」
「皆様の防護服はこちらになりますので、全員一度着てみて、不備が無いかを確認して下さい」
「分かりました」
「あいよ」
「はい」
ミスリさんの案内を受けてやってきた格納庫の隅には、この日に備えて職人たちが作ってくれた俺たちの装備品一式が置かれていた。
「じゃ、まずはアタシからだね」
「よろしく。ワンス」
と言うわけで、装備確認の仕方の手本を見せる意味も含めて、まずはワンスが防護服の裏表を一通り確認してから、慣れた手つきで身に着ける。
さて、素の防護服が同一の素材でもってただ全身を覆っていおるだけなのに対して、ワンスの防護服は手足の部分には金属による補強とゴムのような何かによるコーティングがされている。
で、背中の部分には屈んでも邪魔にならないように配置を工夫された金属板が設置されており、背後からの攻撃に備えているようだった。
恐らくこれがワンスの防護服の強化部分なのだろう。
「よっ、ほっ、とう」
そして、防護服に穴が開いていると言ったような基本的な問題が無い事を確認した所で、ワンスは武器である金属製の槍……と言うか穂先に返しが付いている事も考えれば銛と言った方が正しそうな物を何度か振り回して、動くのに支障が無いのかを確かめる。
なお、ワンスの脱瘴機構については胸に付けられているのだが、見た限りではそちらの動作についても問題ないようだった。
「うん。いい感じだね。設計図通りに仕上がってるよ」
「ありがとうございます」
「ハル。トトリ。アンタたちの目から見ても問題は無さそうかい?」
「大丈夫だ」
「問題なさそうだよ」
防護服の確認が終わったところで、ワンスは銛を収め、俺たちの目から見ても問題が無い事を確かめた上で防護服を脱いでいく。
「では、次はトトリ様お願いします」
「はい」
で、ワンスの防護服の確認が終わったところで、ワンスと交代で今度はトトリが防護服の確認を始める。
さて、トトリの防護服だが、こちらは素の防護服と比べた場合、やはり手足には金属による補強が行われている。
ただし、両手の指先を覆うように付けられている金属については、他の金属と種類が違うのか色が違っていた。
うーん……トトリの指先の金属と記憶の中で重なるのは、瘴巨人のコクピット内に在った金属製の球体かな?何に使うのかは分からないけど。
「うーん。問題は……無いかな?」
そうして、防護服の方に問題が無い事を確かめたところで、トトリは小さな声で呟きながら今度は刺突専用の短剣のようにも見える単一の金属……恐らくは指先の金属と同じ金属で作られたそれを何度か素振りし、動きが阻害されない事を確かめる。
「ハル君。ワンス。どう?」
「俺が見た限りでは問題なさそうだぞ」
「アタシの目から見ても大丈夫に見えるね」
目の前でゆっくり一回転して全身を余すところなく見せたトトリに対して、俺もワンスも素直にそう返し、俺たちの答えに安心感を得たのか、トトリは笑みを浮かべながら微妙に不慣れな手つきで防護服を脱ぐ。
「お疲れ様です」
「うん。ありがとう。じゃ、最後はハル君の番だね」
「だな」
そして、トトリと交代で今度は俺が防護服の確認を始める。
と言っても、俺のこれを防護服と言っていいのかという点にまずは疑問符が浮かぶのだが。
まあ、それはこれを作ってる時から散々言われていた事だし、今更か。
「さて……」
と言うわけで、俺はまずこれに不備が無いのかを見た目から確かめ、一通り確かめた所で着始める。
そのスピードは慣れとは無関係に、ワンスとトトリよりも早かった。
まあ、当然か。
なにせ普通の防護服がつなぎ目の無い一つの生地を基本に作っているのに対して、俺の防護服は小手や脚部、胸部に頭部等と、パーツごとに分けて着用できるようになっているのだから。
「こんな感じだな」
「変わってんなぁ……」
「うん。私も最初にそう言った」
「ハル様の特異体質を前提とした設計ですから」
「ははははは」
で、具体的に各パーツについて言ってしまうのならばだ。
まず各パーツの下に着けるインナーについては、普通の防護服と変わらない。
頭部については透明なフェイスガード付きのヘルメットとなっており、昔の兜のように垂れ布を付けることで首の部分も保護している。
四肢については、動きを阻害しないように気を付けつつ、ワンスとトトリの二人と同じく、手足を保護するように金属で補強をしてある。
胸部には脱瘴機構の代わりに、強度を優先とした金属板が設置され、背中の側にも同じ金属板が設置されている。
装備については、腰に例のアタッシュケースに入っていたベルトと短剣が調整を加えた上で付けられている他、模擬戦の時に使った盾よりも一回り大きな盾が提げられている。
それぞれのパーツに使われている瘴金属の固有性質については……機会が有った時でいいか。
なお、言うまでも無くこの防護服は完全に俺専用である。
瘴気の形態性質に対する備えが一切ないどころか、直接瘴気に身体を晒している部分もあるぐらいだからな。
「うん。問題なさそうだ」
「ほっ……で、では、続けて瘴巨人とキャリアーの確認に移りましょうか」
「はい」
「よろしく頼むよ」
「分かった」
そうして、俺の防護服についても問題が無い事を確認できたところで、防護服についての確認は終わり、ミスリさんの先導で俺たちは次の確認事項に移ることとなった。
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