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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第4話「廃墟-3」

『グオオオオオォォォォォ……』

「……」

 しばらくして、十分な量の瓦礫を食べて満足したのか、ドラゴンはやってきた時と同じように地響きを立てながら何処かに向かって去っていった。

 俺はそれを確認して隠れていた柱に寄りかかり、


「ははっ、マジか……」

 天井を見上げて震える身体から息を吐きだした。


「あんなのが居るなんてな……」

 そして、ここに来て俺は理解する。

 理解させられる。

 本当に俺たちの日常は終わらされたのだと。


「……」

 ああそうだ、あんな化け物は俺が元居た世界には間違っても居なかった。

 こんな真っ赤な霧なんて世界の何処にも発生しているわけが無かった。

 ここは……そう。


「異世界……なんだ」

 一度口に出してしまえば、すんなりその言葉の意味は心の中に入ってきた。

 そして、その言葉が指す意味も。


「…………」

 心が軽くなったような重くなったような不思議な感じがした。

 心が重くなったのは、人さえ見つかれば、そこから家に帰る手段が見つかるんじゃないかと言う内心ひそかに抱いていた淡い希望が打ち砕かれたから。

 心が軽くなったのは……何だろうな?こっちも俺自身理解はしていなかったのかもしれないが、もしかしたら今までの日常で不満を溜めていた部分が有ったのかもしれないな。


「いずれにしても俺がまずやるべき事は変わらない……か」

 俺は水と乾パンを少し食べると、立ち上がって階段の方へ向かう。

 さっきのドラゴンも含めて、ここに留まっている理由は更に無くなった。

 俺が今やるべき事は何かしらの安全な場所を探し出し、そこを拠点として恐らくは同じ世界に飛ばされているであろう他のクラスメイトの皆を探し出す事。

 そして、どうにかして元の世界に帰る方法を探り出す事だ。

 あのスピーカーの声の主がどういう意図をもって俺をこの世界に飛ばしたかなんてものは関係ない。

 俺はこの状況を生き残るためにやるべき事をやるだけだ。


「と、やっと地面が見えてきたな」

 そうしてどれだけ階段を下りたのかも分からないが、やっと崩れた壁の向こう側に地面と言うか、アスファルトに覆われた道路が見えてくる。

 さて、問題は此処からだな。

 どっちに向かったらいいのかと言う情報を俺は持っていない。

 とりあえず先程のドラゴンが向かった方向に関しては絶対に無いと言い切れるが。


「ん?エンジン音?」

 やがて俺が建物の外に出て、先程ドラゴンの食べ残しと言うには大き過ぎる瓦礫の山を抜けた時だった。

 俺の耳がドラゴンが去ったのとは別の方向からやってくる大型トラックのようなエンジン音と、それに伴う形で複数の足音のような物が聞こえてくる。


「…………」

 敵か……味方か……。

 音の動きからしてこちら側に近づいてきている事は分かるのだが、霧が深いせいで視覚による判断が効かず、それ以上の事は分からない。

 となれば、敵の可能性も考えて行動するべきだな。


「とりあえず隠れるか」

 俺は確認出来る範囲で、すぐさま倒壊する危険性は無さそうな建物を見つけると、その建物の中に入って二階に上がる。

 そして、外の様子は確認できるが、外からは出来る限り見つかり辛そうな位置を探して身を隠す。


「ミアズマントが来たぞ!」

「分かってます!」

「おらぁ!!」

『『『!?』』』

 唐突にエンジン音が聞こえていた方から堅いもの同士がぶつかり合う音と、人と獣の叫び声のような物が聞こえてくる。

 その音と、音を出している存在たちは少しずつこちらに近づいてきている。


「…………」

「よし、やったな」

「ああ、問題ない」

「では、回収します」

 やがて堅いもの同士がぶつかり合う音は止み、足音が三つ……大きな物が一つに、小さな物が二つ、俺が隠れている建物の前に向かって近づいてくるのが聞こえる。


「!?」

 そして、大きな足音の主が見えた所で俺は驚きのあまり思わず声を上げそうになり、すんでのところで声は上げずに済んだが、それでも大きく目を見開く事にはなってしまった。

 だがそれもしょうがない事だろう。

 霧の中から現れたのは、一見すれば鋼鉄の鎧を全身に纏った身長4mから5m程の大男……いや、巨人か?まあ、とにかくデカい人間型の何かだった。

 ただ、右手にはサスマタの様な物を、左手には直径1m程であろう円形の盾を持っている事はともかくとして、鎧の隙間から見えたのは肌や布ではなく、金属製の配線らしきものである事や、先程の身体の大きさに見合わない声の高さを考えるとロボットかパワードスーツに近い何かなのかもしれない。


「……」

 彼らが敵か味方かの判断が付かない俺は、物陰からその人型の何かの観察を続ける。

 人型の何かはしきりに首を動かし、目の役目を果たしているであろうレンズも一緒に左右に動かしている。

 その挙動は、何と言うか酷く人間臭かった。

 うん、これはほぼ間違いないな。

 あれはどういう形式なのかはともかくとして、人が操っている何かだ。

 となれば、この場から安全な場所、そうでなくとも人が集まっている場所に行くなら彼らに接触を図るのが最良なわけだが……さて、どう接触するべきか。

 と、俺がそうやって悩み始めた時だった。


「さて、ドクターの話じゃ、ここら辺に面白いものが有るかもしれないって話だが……お前らどんなものだと思うよ?」

「一目見れば面白いと分かると言っていましたね」

「一目見ればねぇ……」

 人型の何かが口を動かさずに発した言葉に応えるように、人型の何かの足元辺りから二人分の声がする。

 その会話の内容に俺は疑問を抱きつつも、もっと話が良く聞こえるように耳を澄まし、足を少し横にずらそうとする。

 勿論、俺としては音を立てるつもりは無かった。

 が、足をずらした先には小さな石が在り、足に当たった小石は俺の予想外に大きな音を立てて転がり、


「しまっ!?」

「敵か!」

 次の瞬間には人型の何かが動き出していた。

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