第39話「鳥と狼-3」
「朝……いや、もう昼前か」
俺は目を覚ますと上半身だけを上げて、部屋に備え付けられている時計を見る。
時刻は十一時。
休日なので問題は無いが、訓練が有る日なら大問題の時刻である。
「すぅ……」
「んん……」
そして、時計に続いて自分の両隣りで寝ているトトリとワンスの姿を見る。
すると昨日有った事を考えれば当然の話ではあるのだが、衣服を一切身に着けていない二人の身体と俺のベッドの上には、昨夜行われた情事の跡が見事に残っていた。
「……」
うんまあ、言い訳はしない。
求めてきたのが二人の方であっても、二人ともいただくと言う選択をしたのは俺なわけだし。
ただ、どっちの方が良かったとか、上だとか、そう言う事は言わないように気を付けていた。
それを言ってしまうと、後々厄介な事態が起きそうな気がしたし、そもそも現状だと甲乙付け難かったし。
「とりあえず、朝ごはん作ってくるか」
俺は二人を起こさないように気を付けながらベッドを降りると、適当な服を着てから部屋の外に出る。
さて、冷蔵庫の中にはどういう食材が残ってたっけなぁ……。
■■■■■
ハルが自分の部屋から出ていってから、多少の時間が経った頃。
「んー……朝?」
「……。朝と言うよりは昼前みたいだね……」
トトリとワンスの二人も目を覚ましていた。
「昨日は凄かったね……」
「それには同意する……」
「たぶん、今の私たち凄く匂ってるんだろうね」
「まあ、あれだけやればそうだろうねぇ」
二人の顔には若干疲れの色も見えるものの、それ以上に自身の思いを遂げたと言う事もあって、喜びの感情の方が大きい。
「それでだ。アタシたち二人ともハルには抱いてもらえたわけだが、どっちの方が上なのかについての決着はついてないよな」
「うん。ついてないよ。その辺りハル君はワザと濁してたし」
「まあ、しょうがないと言えばしょうがないか。アタシもアンタもいきなり告って、そのまま押し倒したのに近い状況だしね」
「そうだね。だから勝負はこれからって事になると思う」
「「…………」」
ハルのベッドの上で横になったまま、ワンスとトトリはお互いの顔を睨み付ける。
「ワンス・バルバロ。絶対に負けないから」
「それはアタシの台詞だよ。トトリ・ユキトビ」
だがそこには、目障りな相手を見るような陰湿な空気は無かった。
代わりに有ったのは、お互いの人生にとっての好敵手を見つけたと言う空気だった。
「ふふっ……」
「ははっ……」
そして二人は唐突に笑い始め……
「ふふふふふ。これからよろしくね。ワンス」
「ははははは。こちらこそだ。トトリ」
力強く握手を交わした。
「じゃ、ハル君も待っているだろうし、朝ごはん……と言うよりはちょっと早めの昼食にしようか」
「そうだね。そうしよう」
■■■■■
「うし、こんな所だな」
俺の前には朝食……と言うにはもう遅いので、お昼を兼ねた料理が三人分並べられている。
内容としてはトーストにスクランブルエッグ、トマトやキュウリなどを乗せたサラダにオレンジジュースであり、手がかかっているとは間違っても言えないが、家事を始めて一ヶ月程度の人間がこの状況で作ったのならば、まずまずと言えるだろう。
「さて、後は二人を起きてくるのを待つだけだけど……」
で、料理が出来上がり、二人が起きてくるのを待つと言う、多少考える時間が取れる状況になったので、俺が今日何をするべきなのかを考える。
考えたのだが……。
「とりあえず部屋の掃除と洗濯が第一優先事項だな」
うん。明日から外勤部隊として外に出る予定なのに、俺の部屋をあのまま放置しておくのは拙いな。
きちんと洗わないと、色々と残りそうだし。
とりあえず、ご飯を食べ終わったら早々に片付けよう。
「それにしても、二人とも起きてこないな……どうしたんだろ?」
そうして自分の部屋の事を考えていたためだろうか。
俺は二人が起きてくる気配が無い事が気になり、椅子から立ち上がると、廊下に繋がる方のドアに向かって歩き出す。
うーん、俺が起きた時の感覚から察するに、もうすぐ二人も起きそうな感じだったんだけど……見誤ったかな?
ただ、直ぐに俺は自分の判断が間違っていた事に気づかされた。
と言うのもだ。
「あ、ふた……」
廊下に出た俺の視界には、丁度自分の部屋のドアが開こうとしているのが見えた。
「ん?」
「!?」
「り……」
そして、俺の部屋から出てきたのは、最後に部屋の中で見た時と同じように、一糸まとわぬ姿の二人だった。
……。
恐らくは二人とも俺の部屋に有った前の日の衣服は着られないと判断し、それぞれの部屋に着替えを取りに行く途中だったのだろう。
で、俺としては昨日あれだけの事が有ったのだから、今更裸ぐらいでと思わなくもない。
「「……」」
「とも?」
が、それは男の側……しかもしっかりと衣服を着ている状態の俺だから言える事であり、そもそも自分から覚悟を決めて見せるのと、不意打ちで見られるのはまるで違うのだろう。
現にワンスもトトリも羞恥心からか、顔を真っ赤にすると同時に、肩を軽く振るわせながらこちらを睨み付けていた。
「キャアアアァァ!」
「見るなああぁぁ!!」
「ぐふぅ!?」
そして、トトリの叫び声が聞こえると同時に、俺の視界を埋め尽くすようにワンスの拳が飛んできて、俺は見事にノックアウトされた。
もしもし、壁殴り代行ですか?
はい。壁殴りを一時間分……
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