第342話「MEx-7」
「っつ!?」
「ああなるほど……」
『ハルハノイ式自立行動型対神用機動兵器黒竜鎧』
それは俺の兵器としての真の名だ。
「兵器は敵を倒す事が目的」
その名を俺の中に居るワンスが呟いたことによって、明確な変化が俺の身体に生じる。
一対の瞳がワンスの瞳と同じように黒く染まった。
全身の各部からワンスの髪の毛の色によく似た赤い布が飾布として生えてくる。
両手の爪がワンスの魔力の影響を受ける様に白く染まった。
「だが兵器とは使い手が居て、初めて真価を発揮するもの」
その姿はまさしくワンスと言う使い手に合わせて、俺が真価を発揮した瞬間だった。
そしてその力は……
「すごい……」
「でないと困るがな」
全てのパーツの力が大幅に強化され、『森羅狂象』の力が所構わずばら撒かれている今の状況でも十分に通用すると言える程の力だった。
「行くぞ。ワンス」
「行こうか。ハル」
俺とワンスは揃ってインサニティを睨み付ける。
既にインサニティの身体は全身にヒビが走り、血を流す事も無く、当たるを幸いに両腕をただ振り回し、『森羅狂象』の力を撒き散らしている。
その黄金の瞳は何も映していない。
口から上がるのは意味のない奇声。
誰の目から見ても哀れと言う他の無い、力に振り回されたものの末路としか言いようのない姿だった。
『あdひょおぽつぇうぇrtt!!』
「チーさん。『森羅狂象』のバラしは!?」
「心配しなくても、順調に進んでる。そのための『千羅理頭无曼荼羅』だからな」
「『森羅狂象』のバラ撒きは相手の世界には無許可ですけどね」
そんなインサニティに攻撃を仕掛けるエブリラたちは一斉に攻撃せず、順番に攻撃を仕掛けている。
エブリラは槍と黒い何かだけでなく、身体の一部を変形させて攻撃。
変態は身体を半透明……いや、陽炎のような物に変えつつ大剣を振るう。
ウスヤミさんは高速移動しつつ剣と結界を組み合わせて、一瞬で十数回の斬撃を行う。
それは相手に何もさせない事を前提とした動きだった。
ならば俺たちもそれに倣おう。
「ハル!」
「【苛烈なる右】!【堅牢なる左】!」
三人の攻撃の隙間を、インサニティの『森羅狂象』が薄い場所を狙って、俺とワンスは突撃を行う。
「ふんっ!」
『んhり!?』
そしてまずはその顔面に右の拳を。
「はっ!」
『くえrt!?』
続けて左の拳を胸に叩きつけ……
「「はああああぁぁぁぁぁ!」」
『くrうぇzひぃで!?』
そのまま、一息の間に何十度とインサニティへと攻撃を叩き込む!
「ワンス!」
「あいよ!」
そして、エブリラが攻撃の準備を整え、接近するのが見えた所で、俺は虚空から一本の黒い槍を生み出すと、ワンスに身体の主権を移譲。
ワンスの操作に従って俺の身体はインサニティに黒い槍を叩きつけ、ダメージを与えると同時にその反動でもってインサニティから距離を取る。
「ハル!」
「分かってる!」
そうして無事に距離を取り、『森羅狂象』の影響が薄くなっている場所に俺たちは出る。
だが、まだ戦いは終わっていない。
だから、もう一度……いや、戦いが終わるまで何度も攻撃を仕掛けられるように、俺とワンスはお互いが持っている相手の情報を参照、それに合わせて【堂々たる前】の力でもって肉体を調整。
その身に受けた『森羅狂象』の影響を肉体から排除……いや、逆に変化させることによって無かった事にする。
「うし、調整完了」
「それじゃあハル……」
「ああ、もう一度だ!」
やがて調整が完了した所で、俺とワンスはインサニティの隙を窺い、再度突撃を行う。
『おhらdyyrss……』
「これは……」
「もうちょっとみたいだね」
そうして俺とワンスが何十度と、エブリラたちが数百度と攻撃を加えた頃だった。
インサニティの頭と胸だけになった残り少ない肉体に異変が……妙な震えと色彩の変化のようなものが生じる。
それはつまり……
どちらが生き残るにしても、この戦いがもうすぐ終わる事を示していた。
『くrせきええああああぁぁぁぁぁ!!』
「全員一気に仕掛けるぞ!」
インサニティから今までとは比べ物にならない量の『森羅狂象』が吹き上がる。
最早、余力など残っておらず、誰もが死力を振り絞っているような状況だったが、それでも全員が今までと何ら変わりない動きでもってインサニティに接近する。
「おらあああぁぁぁぁぁ!」
陽炎のような姿のチラリズムが、同じように刀身が揺らいでいる大剣をインサニティの胸部に突き刺し、その身を空間に固定する。
「終わりにしましょう」
ウスヤミが夜明け前の空のような色合いの剣に自身の結界を纏わせ、インサニティの眉間に突き刺す事によって頭も動かないようにする。
「さようならですお母様」
エブリラが黒い何かを凝縮して槍の先の一点に集めると、インサニティの首に突き刺し、肉体を保持するための力へと影響を与える。
「これで最後だ!」
「行くよ!」
そして俺とワンスは持てる力の全てを右手に注ぎ込み……
「「【苛烈なる右】!」」
『!?』
白色に輝く右手をインサニティの残された肉体に叩きつけた。
決着です
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