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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第6章【シンなる央】
340/343

第340話「MEx-5」

「ハル!」

「分かってる!」

 俺の左腕はインサニティの刃を突き刺したまま、まるで棍棒のようにインサニティを結界の境界に叩きつけた。

 が、俺もワンスもこの程度でインサニティが終わると思っていなかった。

 それどころか、インサニティの武器にも身体にも直接触れているこの状態は酷く危険な物であると認識していた。


『この……』

「【苛烈なる右】!」

 だからインサニティの力によって汚染された可能性のある部位を……【堅牢なる左】を二の腕の半分ほどから切り離し、切り離した部分の再生を進めながら、インサニティからも腕からも距離を取るように飛び退く。


『三下風情がぁ!』

 直後。

 インサニティを叩き潰していた左腕が内側から弾け飛ぶ。

 いや、ただ弾け飛んだだけではない。

 炎が、氷が、雷が、あらゆるものが俺の左腕だったものからあふれ出し、左腕だったもの自身も部分ごとに土くれ、鋼鉄、黒い気体等に変化し、変化した何かがさらに別のものに変わる事によって原型も何も無くなっていき、混沌の坩堝のようなものが形成されていく。

 そして、形成された何かは自分で自分を喰らうように虚空へと消え去っていった。

 こりゃあ、切り離すのが一瞬でも遅れていたら防ぐも何も無かったな。


「その三下に既に二発もクリーンヒットを喰らってるのは何処のどいつだよ。痴呆症か?」

『!?』

 とりあえず、人の左腕を気持ち悪い物に変えてくれたお礼に挑発と言うか悪口の一つでも言っておこう。

 顔に青筋が走るのが見えるほどに、頭に来るようだしな。


「要介護……痴呆症……ぶふぅ」

「的確に相手の心を抉るあたり、やはり貴女の息子ですね……」

「わ、私はちゃんと育つように色々手を回したよ!?」

 後そこの三人、談笑している暇があるなら攻撃してください。

 いやまあ、何かをしている気配はあるから、攻撃の準備は整えているんだろうが。


『狂い死ね!』

「っつ!?」

 インサニティの手から無数の雷撃が放たれる。

 雷は周囲の空間に干渉をし、炎や氷、風に土、得体の知れない呪いのような何かなどを生み出し、生み出したそれらと一緒に俺の方に向かってくる。

 避けると言う選択肢はない。

 速度が違いすぎる。

 だがただ受ければ、先程の刃より酷い事になるのは目に見えている。


「ハル!尻尾を!」

「分かった!」

 だからワンスの求めに応じる形で、俺は尻尾を振るう。

 ただし、ただ尻尾を振るうのではなく、俺とワンス両方の魔力を込められるだけ尻尾に込めてだ。


「ふんっ!」

『何っ!?』

 尻尾と雷がぶつかり合い、雷と各種現象は散らされる。

 と同時に尻尾の先端部分を【堂々たる前】の能力でもって自切、汚染が身体に届かないようする。

 うん、ワンスの魔力のおかげだからなのか、先程よりも汚染されるスピードが緩かった気がするな。


「何にしてもいい囮役だ」

『チ……』

 そしてこの結果はインサニティにとっても想定外だったらしい。

 インサニティは変態がその背中に触れるまで、変態の接近に気づくことが出来なかった。


「『刹那の再現』」

『ラリャ!?』

 凄まじい轟音と共にインサニティの胸部が消し飛び、頭と四肢が切り離される。


「俺が過去に受けた傷全てを一度に再現したものだ。流石に効くだろう」

『ガ……』

「そして攻撃するのはチラリズムだけではありません。『狂夜結界・スライサー』」

 続けて四方八方から糸状になったウスヤミさんの結界が飛んできて、残されたインサニティの身体を切り刻む。


「全門一斉射!」

 そこへ、エブリラの背後に現れた数百門の砲口から何かが発射され、その全てがインサニティが居る場所に降り注ぐ。


「被せるぞ」

「これで終わらせるつもりで行きましょう」

「術式展開、起動」

 だが三人の攻撃はそれで止まず、更に追撃が……最早俺には認識する事も出来ないような速さであらゆる方向から、あらゆる付加を加えて降り注ぐ。

 辛うじて見えたのは……変態が生み出した幻影による攻撃……剣を持った男性の魔法とか、狼頭のメイスとか、頭が妙にデカい奴のビームとか、バイクに乗った女性の氷塊などぐらいのものだった。

 そして当然の話ではあるが、これだけの攻撃が極狭い空間に集中したのだ。

 となればその極狭い空間には凄まじい量のエネルギーが蓄えられる事になる。

 では、その蓄えられたエネルギーが何処に行くのか。

 それは当然……


「あ、ヤバいのニャ」

「えーと、危なそうで安全な場所は」

「……」

「ワンス構えてろ!」

「言われなくても!」

 攻撃と言う圧力が無くなった瞬間に全方位に向けて解放される。


「っつ!?」

 超新星爆発(スーパーノヴァ)

 そんな単語が一瞬頭の中に浮かぶような熱と衝撃が襲い掛かってくる。


「はぁはぁ……」

 やがて熱が無くなり、空間が当初の状態に戻った時、俺の全身の鱗はドロドロに溶け、その下の肉の部分にまで少なくない被害が及んでいた。

 四種の力場を全力展開し、爆発中から【堂々たる前】による再生を始めておいてこれとは……まったく、桁違いにもほどがある。


「ハル、大丈夫かい?」

「何とかな……ワンスはどうだ?」

「多少熱くはなったけど、何とか大丈夫だよ」

「そうか……完全に防げなくて悪い」

 だがなんとかワンスは守れたし、俺自身も耐えきった。


「ふう。流石は私の息子」

「盾としての性能はやはり確かですね」

 ついでに、いつの間にか俺の背後にエブリラとウスヤミさんの二人が居るが、この二人も怪我らしい怪我は無い。

 ウスヤミさんはともかく、エブリラは自分で防げよと思わなくもないが。

 なお、変態は……気にするまでも無いな。

 また妙なポージングを取っている影がチラリと見えた気がするし。


「さて、構えておきましょうか」

「ん?」

「そうだね。これで終わったとも限らないし」

「え?」

 ウスヤミさんとエブリラが俺の背後から出て、爆発の中心点に向けて武器を構える。

 まさか、あれだけの攻撃を加えても、まだ終わらないのか?

 そんな馬鹿な事が……


「いや、終わるはずがないんだよね」

 その時だった。

 爆発の中心点の空間が僅かに歪む。


「『森羅狂象』ってのはそう言うものなんだからさ」

 そして歪みの中から現れたのは……


『ふしゅるるるるる……』

 全身の皮膚が焼け爛れ、部分的にはその下の肉どころか骨まで見える状態になってもなお呼吸をし、血を流し、その場に立つインサニティの姿だった。

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