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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第6章【シンなる央】
337/343

第337話「MEx-2」

「ハルハノイ。ワンス・バルバロ。この先は一瞬も気を抜くなよ。一瞬あれば、何が起きてもおかしくないからな」

「言われなくても……」

「分かってるよ……」

 変態(チラリズム)たちは赤い水晶を囲むように散開していく。

 その間に俺も【シンなる央】から得た魔力を全身に巡らせ、限界まで鱗を強化しておき、ワンスも自身の魔力を俺の全身に巡らせ、いつ何が起きても良いように備えておく。


『ほう……猿芝居はもう止めるのか……』

 何処からか不気味で狂気的な響きを伴った声が響いてくる。


「あの接触の後にチーさんが追って来なかった時点で疑われていただろうしね」

「まあ、あの時に計画を聞いて、こっちの計画を修正する都合もあったしな」

「いずれにしても、これ以上の演技はやるだけ無駄と言う他ないでしょう」

 だが、聞くだけで不快になるどころか精神に害を及ぼしそうな声を聞いても、エブリラも変態もウスヤミさんもまるで気にしたそぶりは見せない。


「それにだ。お前にしても都合が良かったのは確かだろう」

 まあ、それも当然か。


「インサニティ」

 俺も含めて、この場に居る存在は全員あの水晶の中に居るものを滅ぼす為に居るのだから。


『確かにそうだな……』

 赤い水晶の表面にひび割れが走る。


『おかげで、面倒な(『守護者』)を排除して、身体(『箱舟』)を取り戻すことが出来た』

 そこから突き出てきたのは人間のものによく似た右腕の骨。

 ただし、指の先は鉤爪になっている。


『おまけに身体を保持していた(『虚無』)の力も取り込めた』

 水晶のひび割れが広がり、水晶の中から途中から肉の付いた腕の続きが、蘇芳色の簡素な衣が、フードを目深に被った人影が出てくる。


『都合が良かったのは確かであるし、他の私の要素(エッセンス)を集めて復活を助けてくれた娘共々、貴様等にも感謝をしてやっていいぐらいではある』

 やがて、赤い水晶の中から一体の人型の存在が這い出してきた。


『だがしかしだ』

 這い出してきた存在は少女『守護者』によく似た、けれど普通のサイズの女性。

 その身に纏うのは蘇芳色の衣一枚。

 四肢は白骨化した骨。

 フードの下から現れたのは芸術品のように美しい顔に、藁を思わせる綺麗で長い茶髪。

 だが、瞳は黒い目に黄金色の虹彩が輝き、瞳孔は縦に裂けており、歯は獰猛な獣……いや、竜を思わせる様な鋭い牙が生え揃っていた。


「っつ!?」

『貴様等は私を滅ぼしに来たのだろう。ならば感謝をする意味など無いな』

 女性……インサニティの顔が歪む。

 敵意、殺意、害意、かつて訓練で変態が放って見せたものとは明らかに異なる、あらゆる悪意を凝縮したかのような気配に、一時たりとも性質が定まらない狂気としか称しようのない魔力と共に。


『さて……』

「来いよ」

 インサニティがゆっくりと手を伸ばす。


『まずは慣らし運転と行こうか!』

「やばっ!?」

 次の瞬間、俺は本能的に身体のサイズを縮めることによって、自分の位置を大きく変えていた。

 そして、俺の行動と同時に、先程まで俺が居た場所を含め、インサニティの手から無数の雷が四方八方に向けて放たれ、天地が割けるような雷鳴と閃光で空間が満たされる。


「なんだいこりゃあ……」

「これがインサニティの能力ってこったろ」

 だが問題はそんな事では無かった。

 放たれたのは確かに雷だった。

 にも関わらず……


「ふう。やっぱりヤベエな」

「本当だねー」

 空間のそこかしこで雷とは明らかに関係のない現象……巨大な氷や炎、空間の裂け目、虹色の泡、不穏な気配だけの何か、棘の生えた蔓植物などが無数に発生しており、カオスとしか言いようのない空間が生じていた。


「それでもこの空間のおかげでだいぶマシになっていますね」

『ちっ、(『守護者』)め。自分が滅びてもしばらくは大丈夫なように力を貯蓄しておいたか』

 これがインサニティの力……いや、インサニティの力の一欠片。

 全てを狂わせると言う力。

 正しく次元が違うとしか評しようのない力だった。


『まあいい、ならまずはこの空間。それにこの外に広がっている世界を狂わせ、破壊するとしよう』

「ハル!」

「分かってる!」

 ワンスに言われるまでも無かった。

 今すぐにインサニティを止めなければならない。

 でなければ、『クラーレ』ごと、この空間には居ないトトリたちが全員揃って死ぬことになるからだ。

 そして俺がインサニティに向かって接近し始めた瞬間だった。


「『千羅理頭无曼荼羅』」

 インサニティの広げた両手から先程と同じように無数の雷が放たれ……


『なにっ?』

 突如として空中に生じた無数の文字列に触れた所で霧散。

 何の効果も発揮することなく、消滅する。


『どうなって……』

 何が起きているかは分からない。

 分からないが……


「ふんっ!」

『いぎゅ!?』

 インサニティの顔面に俺の右拳を叩きつける絶好の機会であることだけは確かであり、見た目から想像できるものとは明らかに異なる感触を伴いつつも俺は拳を振り抜いた。


『ぐっ……がっ……くそっ……どうなって……』

「説明しよう!」

 そして、吹き飛んだインサニティが何も無い空間に手をついて立ち上がる中で、変態が無数の文字列を背景に、際どい部分が見えそうで見えないと言う妙なポーズを取って宣言して見せた。


「これが対『森羅狂象』用結界。その名も『千羅理頭无(チラリズム)曼荼羅(マンダラ)』だ!」

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