第333話「M6-13」
「さて……」
戦いは一進一退の状況を呈していた。
いやまあ、俺と少女『守護者』の戦いに限れば、少女『守護者』が先程の物騒な性質の魔力を込めた攻撃を撃ってこない分だけ、俺の方が若干押し込むような形で進んではいる。
「そう甘くはないみたいだな」
ただ、俺としては少女『守護者』への攻撃を行いながら、球体『守護者』との距離を詰めたり、他の『守護者』が何処に居るのかを探りたいと思っていたのだが……うん、その点については厳しいな。
少女『守護者』が後退した分だけ球体『守護者』も後退し、距離が縮まないようにしている。
おまけに、少女『守護者』が後退する方向も、かなり緩くではあるが、弧を描くように調整しているようなので、この分ではどれほどの時間をかけて押し込んでも、他の『守護者』を見つける事も出来ず、同じラインをグルグルと回る事になるだろう。
「ネガティブ。隙が無い」
「手がかりも無しに崩すわけにはいかないしな」
勿論、俺がもっと積極的に攻勢に出れば、この状況を崩せる可能性はある。
が、俺が変態から及第点を受けたのは防御面のみで、その後『神喰らい』の造った物品で攻撃面の強化も行われたとはいえ、目の前の『守護者』を一瞬で倒せるほどに強化されたわけでもない。
となれば当然、俺が攻勢に出れば出るほど、俺の後ろに居て少女『守護者』を時折牽制してくれているトトリたちが危険に晒す可能性は高くなる。
うん、この場で攻勢に出る選択肢は無いな。
リスクしか存在しない。
『黒ドラゴン!聞くのね!』
「エイリアスか!」
それに、こちらには時間を稼ぐ意味がきちんと存在している。
エイリアスの『真眼』だ。
『退いてくださいエイリアス様。ハル様、今から『守護者』について分かった事を出来る限り簡潔に説明させていただきます』
と、無線にナイチェルが割り込んでくる。
ああうん、あのままエイリアスに任せていたら、きっと抽象的な説明が飛んでくるところだったんだろうな。
この状況でそれは困る。
説明の解読に割けるほどの余裕はないし。
『では……』
で、ナイチェルがまとめたエイリアスの説明によればだ。
・少女『守護者』の身体からは三本、魔力の糸のような物が出ている
・球体『守護者』からも同様の糸が出ており、うち一本は少女『守護者』と繋がっている
・二体の『守護者』から出ている糸のうち、それぞれ一本が同じ方向に向かって伸びている
・残りの一本は途中で空間に溶け込み、『真眼』でも行方が追えなくなっている
との事だった。
そこから分かるのは?
「やっぱり『守護者』は複数居るんだな」
「数は……四人か……まあ、五人だろうね」
「だろうな」
まず『守護者』の総数は四人か五人。
変態の座学で教わった知識……立体を形成するのに最低限必要な点の数が四であり、その数で結界を構成すると強度が高くなると言う話からも考えれば、『守護者』は四人である可能性が高いだろう。
「ナイチェル。三人目の『守護者』の位置は?」
『正確な位置は分かりませんが、糸が伸びている方向と角度からして、三時方向に100km以上行ったところでは無いかと考えられています』
「100kmか……」
三人目の『守護者』が居る位置は最低でも100km先か……流石に遠いな。
この暗黒の空間で100km先を探るのは流石に無理だし、目の前の少女『守護者』が向かわせてくれるとは思えないし、今は放置する他ないな。
ただ、それだけ離れた場所に居て、しかもこちらの戦いに加わる様子が無いと言う事は……その『守護者』は例の物を直接守っている『守護者』の可能性が高そうだな。
うん、やっぱり後回しにした方が良さそうだ。
「ネガティブ。変化は見られない」
で、残る問題はまず間違いなく居るであろう四人目の『守護者』についてだが……
「エイリアス。三本目の糸はまるで関係ない方向に伸びているんだな」
『その通りなのね。で、途中で消えてしまっているのね』
「なるほどな」
それぞれの『守護者』から出ている魔力の糸が、他の『守護者』と繋がっており、その糸によって繋がりのような物を維持しているのであれば、当然途中で消えてしまっている糸の先にも別の『守護者』が居るはずである。
だが、エイリアスの説明によれば、少女『守護者』から出ている糸も、球体『守護者』から出ている糸も、途中で消えてしまっている上に、全く別の方向に向けて出ているらしい。
「ふんっ!」
「となるとだ」
俺は少女『守護者』の拳を弾き、球体『守護者』の砲撃を力場で防ぎながら、周囲の空間へと目をやる。
うん、これは間違いなさそうだな。
「ふんっ!」
「!?」
俺は地面に【苛烈なる右】の爪を突き立てる。
そうだ。
よくよく考えてみなくても、ここは『守護者』の造った空間なのだ。
つまり四人目の『守護者』は、その役割が牽制の少女『守護者』と攻撃の球体『守護者』の補助であろう事も合せて考えて……あらゆる場所に居るべきなのだ。
だから……
「消し飛べ!」
俺は【シンなる央】から得た魔力を両肩の珠で強化し……その全てを【苛烈なる右】の力場へと変換。
地面に向けて流し込む。
その結果……
「ーーーーーーーーーーーー!?」
声にならない何者かの叫びと共に周囲が光に包まれた。
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