第332話「M6-12」
「ポジティブ。攻撃を開始する」
「ワンス……」
「分かった」
『守護者』が飛び蹴りを基点として、拳と蹴り両方を織り交ぜた攻撃を俺に仕掛けてくる。
それに対して、俺はワンスに一つ頼みごとをした上で正面から対応。
隙を生まず、『トリコテセン』への攻撃がいかないようにする事を優先して捌いていく。
『黒ドラゴン。私の方で、他の『守護者』が何処に居るかを探してみるのね』
「頼む」
そして、目の前の少女『守護者』と遠方の球体『守護者』以外にも間違いなく居るであろう『守護者』についてはエイリアスに探してもらう。
と言うより、俺の【竜頭なる上】で感知できない以上、エイリアスの『真眼』に頼むしかない。
なにせ残りの『守護者』が【竜頭なる上】の範囲外に居るか、何かしらの方法でもってその身を隠しているのは確かなのだから、後者の可能性だけでも潰しておくべきだろう。
「しかし……一体何を狙っている?」
「……」
俺は少女『守護者』と殴り合いを行いつつ、その意図と性質を読もうとする。
意図は……俺を倒す事では無いな。
俺を倒すつもりにしては、攻撃が弱すぎる。
重くはあるが芯まで響くものではないし、相変わらず特別な性質が付与されていない攻撃ばかりだ。
これで俺を倒そうと言うのなら、舐められたものである。
つまり、少女『守護者』が今狙っているのは俺の撃破では無く、俺の足止めと陽動。
「ちっ、やりづらい」
そして、こうして殴り合っている内にこの少女『守護者』の性質についても少しわかって来たことがある。
まず少女『守護者』は格闘戦を仕掛けて来ているが、その攻撃力は体格や魔力から想像できる以上に高い。
恐らくは特殊な能力か、純粋な技術でもって拳撃の威力を上げているのだろう。
加えて、その能力や技術によってこちらの攻撃の威力を軽減している節もある。
先程から少女『守護者』の攻撃にカウンターを行い、何度か確実に攻撃を当てているにも関わらず、まるで手ごたえが無いからだ。
この感覚何なんだろうな。
空気の詰まっている人形を叩いているような、幻で姿だけがある相手を殴っているような……、ああうん、一瞬、幽霊とか言う単語も頭の中に出てきた気がする。
と言うか、少女『守護者』の性質を総まとめすれば、幽霊が一番近いかもしれない。
「来るか!」
と、ここで少女『守護者』の後方に居る球体『守護者』が突如砂場に落ちる。
力を失ったからではない、自らの意思でもってだ。
「セブ!まだなのかい!?」
『もう少しかかります!』
セブの方は……間に合わないか。
いや、この場合だと、むしろ好都合かもしれない。
「ポジティブ。離脱する」
少女『守護者』が俺への攻撃を行いつつ、その反動を利用して俺の前から飛び退き、一気に千m以上跳び上がると、その場で滞空する。
そして、それと同時に球体『守護者』周囲の砂地が大きく波打ち始め……
「敵性存在たちよ。滅びるがいい」
まるで津波のようになった砂の波が俺たちに向かって来た。
『なっ……マジか……』
『嘘だろ……』
『全くもって出鱈目なのじゃ……』
砂の津波の高さは……軽く見ても数百mってところだな。
巻き込まれれば『トリコテセン』や瘴巨人たちは勿論の事、俺でもただでは済まないだろう。
そして、今のタイミングではもう俺以外には逃げる事は叶わないだろう。
だがまあ、何の問題も無い。
「ふんっ!」
俺は先程の球体『守護者』の攻撃を防いだ時と同じように、四種類の力場の出力を上げ、周囲に張り巡らす。
「ポジティブ」
俺の力場と砂の津波がぶつかり合う。
重い……水ではなく砂で出来た津波なのだから、当然ではあるが、重い。
だが、ただそれだけだ。
相変わらず特別な力は何一つ付与されていない。
「始末する」
「ハル!」
つまりはこれも陽動。
気が付けば、砂の津波の影に隠れて少女『守護者』が俺の眼前にまで迫っており、その拳には特異な魔力が込められていた。
「抹消する」
「なるほど。これが本命か」
恐らく少女『守護者』の拳に込められた魔力の性質は、不死なる者すら殺して見せる、不滅なる者すら滅ぼして見せると言う凶悪極まりない物。
アレで心の臓……いや、核を潰されれば、例え俺だろうが、変態だろうが、消し飛ぶことになるだろう。
だが、ここで俺が少女『守護者』に対応すれば?
間違いなく砂の津波によってトトリたちは全員押し潰されるだろう。
つまりは俺の命かトトリたちの命かと言う究極の二択だ。
「だが……」
『チャージ完了!』
俺は力場を維持したまま、身を逸らす。
ただそれだけで、『トリコテセン』と少女『守護者』の間にあるものは何も無くなる。
「甘いな」
『『コムダマエ』発射!』
「っつ!?」
『トリコテセン』から『コムダマエ』が発射され、その光は狙い違わず少女『守護者』の胸の中心部に突き刺さり、爆発を起こす。
「がああああぁぁぁぁぁ!?」
ただし、最初に撃った時と違って無差別に爆発を広げたりはしない。
爆炎も衝撃波も何もかもを少女『守護者』の方向へと広がるように制御した上でだ。
「さて……」
これが『コムダマエ』の真価。
あの『神喰らい』が設計した主砲が、ただの砲撃を放つわけがないのである。
「どうせ大して効いてないんだろ。とっとと立てよ」
「ぐ……」
尤も、爆炎の向こう側から現れた少女『守護者』の皮膚と衣装が少し焦げているだけな辺りからして、『守護者』を倒すためにはまだ明かすべき謎があるようだが。
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