第331話「M6-11」
「そうかい」
その動きを見た瞬間、俺も動き出す。
【堂々たる前】の能力でもって移動に向いた竜形態から、近接での戦闘に向いた竜人形態へと移行。
【不抜なる下】の能力も含めて大地をしっかりと踏みしめながら、【堅牢なる左】を前に出し、構える。
「ふんっ!」
「それは好都合……」
『守護者』の右拳と俺の左腕がぶつかり合い、周囲の空間を振るわせる。
が、それだけだ。
『守護者』の拳は確かに重いが、問題なく受けられるレベルの物であるし、何か特別な力が付与されているわけでもない。
「だっ!」
やがて振動が止み、お互いの動きが止まったところで俺は左腕を振り、『守護者』を吹き飛ばす。
が、『守護者』は重さと言うものも、粘度の高い水の影響も感じさせないようなふわりとした動きでもって難なく着地し、俺の方を油断なく睨み付けている。
「今、敵性存在は力場による防御をしたか?」
「ああん?」
「え?」
『守護者』が突然誰かに向かって話しかける様に言葉を紡ぐ。
独り言かとも一瞬思ったが、そう言う気配はない。
この空間の状態からして『守護者』が仲間のような存在を置いておくのは考えづらいんだが……どういう事だ?
「他の有象無象への法則干渉は?」
「……。全員、事前の通達通りの範囲に留まっておけよ……。何か嫌な予感がする」
『分かってます。ハル様。私には相手が何を言っているのかよく分かりませんけど、それでもハル様から今離れたら拙い事ぐらいは分かりますから』
俺は『守護者』の言葉に何か嫌な物を感じながらも、その様子を窺い、いつ何が起きても対応できるように構えておく。
「最優先で排除すべき対象は?」
その時だった。
『守護者』の後方……10km程離れたところで何かが一瞬瞬き、次の瞬間には俺たちに向けて黄金色に輝く光線が数え切れないほどの数で飛んできていた。
その狙いは?
俺を仕留める事ではない。
俺へと向かって来ているのはせいぜい目くらましと思しき十数本程度だ。
つまり狙っているのは……
「させるか!」
『全機対ショック態勢!』
俺の後ろに控えている『トリコテセン』とその周囲の瘴巨人たちだ。
そう判断した俺は構えておいた【堅牢なる左】【苛烈なる右】【不抜なる下】【威風なる後】の力場を後ろに居る全員を守るように展開。
【竜頭なる上】の力でもって万近い光線の位置と微妙にそれぞれ違う性質を把握すると、その全てに対応、残らず防ぎ、霧散させる。
「ふんっ!」
「ハル!」
「分かってる!」
そして、光線の陰に隠れるように飛び込んできた『守護者』の攻撃をいなし、カウンターでその顔を殴ろうとする。
「攻撃に失敗。原因は?」
が、こちらの攻撃が当たる前に『守護者』は遠くに離れ、再び独り言を呟きながら、攻撃前に居た位置へとゆっくり戻っていく。
「まったく、あの変態の訓練が無かったら、今ので確実に壊滅させられてたぞ……」
俺は『守護者』の次の攻撃を警戒しつつ、先程の光線による攻撃を思い返し、分析する。
光線の数はだいたい一万弱、こちらの障壁などを警戒してか、細かい性質は一本一本違っていた。
威力は……だいたい『トリコテセン』の副砲と同じぐらいか。
数の桁が違うせいで、総合的な破壊力が跳ね上がり、『トリコテセン』の副砲とは比べようも無い威力になっているが。
いずれにしても、光線自体は防げる。
問題はどいつが何処から放ったかだが……。
『黒ドラゴン。ゴスロリ『守護者』の後方に、もう一人金玉『守護者』が居るのね!』
「金た……ああいや、そう言う事か」
エイリアスの発言に一瞬集中が乱れそうになるが、その発言で俺は光線を放った者の正体を捉え、同時に理解もする。
「ポジティブ。次の行動に移行する」
「来い!」
『守護者』が再び突っ込んでくる。
そして繰り出してきたのは大振りのストレートではなく、素早いジャブ。
俺はそれを両腕でガードしながら、『守護者』のはるか後方へと【竜頭なる上】で視力を限界まで強化した上で視線を向ける。
「なるほど……二人で一人……いや、複数で一人ってわけか」
そこに浮かんでいたのはエイリアスの言うとおり、巨大な黄金の球体。
だが、その球体は自身がただの器物でない事を示すように、自らの意思で高速回転をし、周囲に向けて目の前に居る『守護者』と同じ魔力を撒き散らしていた。
それが指し示すのは、目の前に居るゴシックな服を着た少女も、後方に控える黄金の球体も『守護者』であると言う事実だった。
「敵性存在が私の存在を感知した。どう対応する?」
「ハル、それってつまり……」
「役割に合わせて自分を増やし、分業させているってことだろうな」
『守護者』が蹴りを放ち、俺がそれをガードすると、蹴りの勢いを利用して『守護者』は大きく距離を取る。
さて、どうしたものかな……『守護者』が自分を分裂させて分業させているとなると、今確認できている二人以外にも『守護者』が居る可能性は決して低くない。
と言うか、確実に用意してあるはずだ。
なにせ……
「近接専門と砲撃専門。コイツ等はそんな所だろう。なら、何処かに門を専門的に守っている奴も居るはずだ。でなければ、こいつらがここに来て良いはずがない」
こいつらは『守護者』。
最も重要なのは守ることであって、俺たちを排除することではないのだから。




