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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第33話「基礎訓練-6」

 防護服に関してミスリさんと打ち合わせをしてからの三日間は俺も雪飛さんも基礎訓練を行う事になり、体力づくりや武器の選定、それにダイオークスの外に活動するにあたって必要な知識の取得などをした。

 内容が多岐にわたる基礎訓練は頭も体も酷使する事にはなったが、この三日間は新しい物事をどんどん学べると言う事で実に楽しい物だった。

 で、三日間の基礎訓練が終わった次の日。


「じゃ、訓練が終わったら家で」

「うん。私も頑張るから、ハル君も頑張ってね」

「おう」

 俺と雪飛さんはそれぞれの特異体質に合わせた特別訓練を行う事になり、26番塔第3層のそれぞれに指定された部屋にやって来ていた。


「ここか」

 俺の特別訓練の場所として指定されたのは、瘴巨人の適性試験を行った部屋だった。

 たぶん、強度的に多少暴れたり、不慮の事故が起きたりしても問題ないとか、そう言う理由からなんだろうな。

 まあ、そんな事を何時までも考えていたって意味は無いので、俺はとっとと部屋の中に入る。


「来たか。ハル」

「ジュル……ズル……グジュグジュ……」

「サルモさん。それに……ドクター?」

 だだっ広い部屋の中には、両手を組んで佇むサルモさんと納豆らしきものを藁束から直接啜り食っている水色毛玉……ドクターが居た。

 此処に居ると言う事はこの二人が俺の訓練を見てくれるって事か。


「そっちの納豆爺は気にしなくていい。色々と知っている癖に、何も話す気は無さそうだからな。いざと言う時以外は期待するな」

「はぁ……?」

 が、サルモさん曰く、どうやらドクターにやる気は無いらしい。

 まあ、確かに今のドクターは納豆を貪ること以外頭には無さそうではあるし、アドバイスは期待しない方が良いかもな。


「で、俺が担当になった理由としては、直接お前の【堅牢なる(フォートレス)(レフト)】を見ていて、特異体質の関係で特別な機器が無くても一応観測できるからだな」

「なるほど」

 言われてみれば確かに、初めて俺が【堅牢なる左】が発動した際にサルモさんは剣で受け止めようとしていたな。

 【堅牢なる左】は普通の人の目には見えなかったはずなので、今になって考えてみれば、サルモさんのあの動きは【堅牢なる左】の位置が分かっていたからこそなのか。

 まあ、仮にサルモさんに【堅牢なる左】が分からなくても、サルモさん程の実力者に指導してもらえるのは嬉しい事でしかないな。


「では、よろしくお願いします!」

「おう、良い返事だ」

 と言うわけで、俺はこの三日間で習った26番塔外勤部隊式の敬礼をサルモさんに向かって行い、特別訓練が始まる事となった。


「うし。それじゃあ、まずはお偉~い瘴気学の学者様たちが、俺とお前の模擬戦の録画画像を見て出して下さった、お前の【堅牢なる左】に関する一応の理論とやらについて話しておくぞ」

 のだが、まずは座学らしい。

 サルモさんが凄く機嫌の悪そうな顔と雰囲気で分厚い書類のような物を片手に持つ。


「なんか、凄く嫌そうな顔をしてますね。サルモさん」

「あいつ等は現場を知らないし、前例も無いしな。ドクターだってこの件に関しては、確証が無いからかノーコメントを貫いていやがるし。お前も話半分で聞いておけ。それで、合っていると思う部分だけ、しっかりと記憶しておけ」

「は、はあ……」

 そして、それを指摘したら、サルモさんがそんな身も蓋もないような事を言ってきた。

 サルモさん。流石にそれはどうかと思います。はい。


「じゃ、お前用の資料を渡すから、説明するぞ」

「分かりました」

 やがて、サルモさんから俺の【堅牢なる左】に関してまとめられた資料を受け取ったところで説明が始まった。

 で、その説明をまとめればだ。


・【堅牢なる左】は俺の特異体質と密接な関わり合いが有ると考えられる

・具体的なプロセスとしては、まず俺が呼吸などによって取り込んだ瘴気が血液や骨などに吸収された結果として、血液が瘴液化。骨が瘴金属化する

・それらの物体の形態性質は俺の特異体質が無効化するのだが、固有性質については発現する可能性が考えられる

・恐らくは俺の感情や意志に合わせて発せられた生体電流などによって、固有性質が起動

・その結果が【堅牢なる左】である


 との事だった。

 まあ、納得できなくもないかな。

 俺は瘴気学に詳しくないから何とも言えないが、【堅牢なる左】はこれまで誰も使った事が無い技術であるし、瘴気がエネルギー源として必要だって言うのも何となく納得できる。

 生体電流と言うのはよく分からないが、俺の感情や意志に呼応すると言うのも、何となく合っている気がするな。


「ついでに言えば、お前の妙なタフさについても、お前の血液や骨などが瘴気を吸った影響じゃないかって話だな。こっちについては俺もそう思っている」

「そうなんですか?」

「でなければ、模擬戦の時に俺があんだけ痛めつけたのに一瞬気絶する事も無い事への説明がつかないだろうが」

「なるほど」

 言われてみれば確かに、サルモさんとの模擬戦以前にも、ニースさんから人間なら致死レベルの電撃を受けたのに、身体が痺れて気絶する程度で済んでいるもんな。

 アレもそう言う理由からか。


「ま、細々とした理屈は俺たちには関係ない。重要なのは、それを扱えるかどうかだ」

「はい」

「此処には瘴巨人に瘴気を供給するために外気を取り込む部屋もある。まずは深呼吸でもして、たっぷり瘴気を吸って来い。それから、あの時のことを思い出し、再現し、今度は無我夢中ではなく、お前の意思でもって【堅牢なる左】を扱えるようになるぞ」

「はい!」

 そうして本格的に俺の特別訓練が始まった。

03/25誤字訂正

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