第329話「M6-9」
『崩落猿』との戦いで先手を取ったのは?
『全門斉射!』
セブの指揮する『トリコテセン』だった。
船体の全面から副砲の魔力弾が放たれ、数十条の光芒を残しながら『崩落猿』へと殺到する。
『全機射出!』
続けてトトリの操る『シクスティ』から六本のブレードが射出され、それぞれに全く異なる軌道を描きながら『崩落猿』へと向かって行く。
そして、それと同時に『トリコテセン』の周囲に居る瘴巨人たちもそれぞれの兵装でもって『崩落猿』へと攻撃を放つ。
『ヴボアアァァ!』
「へぇ……突っ込んでくるか」
対する『崩落猿』の行動は?
今の俺の体長が500mぐらいだが、それと同程度の巨体を以て、まるでセブたちの攻撃など気にしたそぶりも無く、真っ直ぐこちらへと向かってくる。
それで俺は今『崩落猿』が操る機体の特性を理解する。
「だったら……」
『崩落猿』の肉体に息着く暇も無く無数の攻撃が命中し、爆炎と粉塵によって『崩落猿』の巨体が見えなくなる。
その中で、俺は両腕を前に構え、【苛烈なる右】の力場へと【シンなる央】のエネルギーを注ぎ込み、強化を行う。
『ヴボオオォォ!!』
「相手をしてやるよ!」
そして、粉塵の中から表皮の一部が焦げた程度の状態で、両腕を振り上げた『崩落猿』が現れた瞬間、俺は『崩落猿』の両手に向けて手を伸ばし、掴み取り、【不抜なる下】の力によって身体の位置を固定し、組み合う。
さて、本来ならばこの時点で『崩落猿』の肉体は【苛烈なる右】の力場に浸食されて分解され始めるわけだが……
「ちっ、予想通りか……」
『グググ……』
『崩落猿』の肉体は分解されず、俺と張り合う力でもって競り合い続けている。
「ハル……これは……」
「もしかしなくても、今の機体は防御に特化して作られているんだろうよ」
俺は『崩落猿』の力に押し負けないように、技術によって崩されないように、力の掛け方を調節しつつ『崩落猿』の肉体を細かく観察する。
表皮は『トリコテセン』の副砲や普通の瘴巨人たちの攻撃で僅かに焦げているが、有効なダメージはないようだった。
『シクスティ』のアンテナを兼ねたブレードも六本全て突き刺さっているが、トトリとロノヲニトの制御下に置き、操れているのはブレードの周辺、ごく僅かな範囲に留まっているようだった。
俺の【苛烈なる右】が掴んでいる『崩落猿』の左手は、爪こそ『崩落猿』の身体に食い込んでいるが、肝心の力場による分解は行えていない。
どうやら、今の『崩落猿』は魔力に関わるものについて高い耐性を誇っているらしいな。
それならばこの結果にも納得がいく。
「つまりは、こいつが『崩落猿』の本命ってわけだ……」
『ブゴゴゴ……』
俺はどうすれば、見せる手を最小限にとどめて、『崩落猿』の守りを突破し、次の機体を出させることなく倒す事が出来るかを考える。
うん、口では本命と言ったが、『崩落猿』と『守護者』なら、絶対にもう数機、同レベルの機体を用意しているはずだ。
それぐらいは予想できる。
『ヴゥゥ……』
「っつ!?」
と、そうして俺が今後の対応を考えている時だった。
『崩落猿』の周囲で突如、崩落猿の背中に流れ込むような水流が発生し始める。
「全員、俺から離れておけ!」
『『『!?』』』
その行動が示すのは?
決まっている。
『崩落猿』の名の由来に関わるそれを放とうとしていると言う事だ。
『ガアア……』
「来いっ!」
『崩落猿』の口が開き、身体の奥へと繋がる穴が俺の視界に飛び込んでくる。
と同時に、俺は【威風なる後】【苛烈なる右】【堅牢なる左】【不抜なる下】が有する力場を全て俺と『崩落猿』の間に展開する。
そして展開が終わった次の瞬間……
『アアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!』
『崩落猿』の口から大量の水が俺に向けて放出され始める。
だがその勢いと量は、受けた側からすれば、もはや水では無い別の何かであり、力場は難なく破られる。
そして、水が身体に当たると同時に大量の熱が生じ、力場の影響によって大量に生じた水素や酸素も利用して十数度の爆発を起こし、俺たちが居る空間全体に向けて衝撃波を撒き散らしていた。
『ブボボボボボ』
『崩落猿』の笑い声が周囲に響き渡る。
俺を倒したと思ったからだろう。
「ちっ、また情報が漏れるな」
『ヴボッ!?』
俺は『崩落猿』の両手を逃げられないように握りしめ直す。
その事で、俺がまだ生きている事に気づいた『崩落猿』が慌てて暴れ出すが……遅い。
「だがまあ、仕方が無いな……」
俺は【シンなる央】からエネルギーを引きずり出すと、それを体内で増幅しつつ頭の方へと持って行く。
そして……
「消し飛べ」
『ッ!?』
俺の口から『崩落猿』の両手以外全てを巻き込むほどに広い角度でもって白い光が放出され、『崩落猿』の全身を包み込み……
『『『!?』』』
立坑全てを揺るがすような衝撃と、俺以外には音として認識できないような衝撃波。
そして膨大な量の光がこの空間全体に向けて放出され……
「お前らしくも無い慢心だったな。『崩落猿』」
普通の人間にも状況が確認できるほどに落ち着いた後には、『崩落猿』の肉体は両手以外何も残っていなかった。
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