第327話「M6-7」
「させるか!」
『崩落猿』の両手から無数の杭が放たれるのと同時に、俺はゲートの中に突入。
【威風なる後】と【不抜なる下】の力場を重ね合せた物を前方に向けて展開しつつ、【堅牢なる左】を前に出す。
そして、【堅牢なる左】のサイズだけを【堂々たる前】の力でもって変更。
ゲートの大きさと形に合わせて、左腕を円形の盾のようにする。
「っつ……!?」
俺の展開した力場と『崩落猿』の杭がぶつかり合い、力場を突破した杭が【堅牢なる左】に突き刺さる。
力場によって大幅に威力を削がれているはずなのにこの威力……杭打機の構造を応用して造られた武器であるだけあって、もしかしなくても、元々障壁に対して高い貫通能力が『崩落猿』の杭には含まれているのだろう。
だが、【堅牢なる左】が完全に破られることはなく、俺の後ろに居るトトリたちに向けて杭が飛ぶこともない。
『キエアアアァァァ!』
「だが……問題ない!」
加えて、力場によって威力が削がれている事も確かな事実。
【堅牢なる左】の鱗を突き破って刺さったと言っても、杭の先端は表皮の下にある層にまでは到達していない。
この程度ならば、【苛烈なる右】の力場を【堅牢なる左】に纏わせることによって刺さった杭を分解し、傷を【堂々たる前】によって治してしまえば何の問題も無い。
では、仮に『崩落猿』がこの結果を予想しているのならば?
「ワンス!」
「言われなくても!」
俺がワンスに向けて呼びかけると同時に、分解を始めた杭の中から何か……恐らくは瘴気が利かない俺にも対応しているであろう強力な毒が俺の身体に向けて流れ込み始める。
だがこの程度の仕込なら想定内だ。
「ハッ!」
ワンスが気合の乗った声を発しながら、俺の身体へと魔力を流し込む。
それだけで『崩落猿』が俺の身体に流し込もうとした毒は解毒され、体外へとはじき出されていく。
『ヴボッ!?』
そして、俺によって攻撃が防がれることは想定していても、ワンスによって毒が無効化されるのは想定外だったのか、『崩落猿』による杭の連射が一瞬止まる。
「今だ!やれっ!!」
『全門斉射!』
『全機突撃!』
そして、その瞬間を見逃すほど俺たちは甘くはない。
俺は一瞬だけ【堅牢なる左】のサイズを元に戻し、【不抜なる下】の力場を解除。
と同時に、セブの掛け声と共に『トリコテセン』の副砲が、トトリの声と共に『シクスティ』の背中から六本のブレードが発射され、俺の【威風なる後】の圧力場による加速を受けつつ『崩落猿』へと向かう。
『ヴボアアアァァァ!?』
こちらの攻撃は全て『崩落猿』に直撃した。
『トリコテセン』の副砲である魔力弾は、『崩落猿』に当たったタイミングで指向性を持って爆発することによって、相手の芯まで届くようなダメージを与えた。
トトリのブレードも『崩落猿』に突き刺さった直後、『崩落猿』の身体を構成する金属の支配権を一瞬だけ奪い取り、ロノヲニトの能力によってそれらを凶器化、『崩落猿』を体内から攻撃して見せた。
そして、これらの攻撃の結果として『崩落猿』の周囲では爆発が起こり、叫び声を上げながら『崩落猿』の姿が爆炎の中に消える。
『やったか!?』
「まだだ!」
だが『崩落猿』はまだ倒れていない。
俺の【竜頭なる上】は爆発によって巻き上げられ、水中に漂う土煙の向こう側で、何かが動く気配を感じ取っていた。
「突っ込むぞ!」
「分かったよ!」
『崩落猿』が何をする気なのかは分からない。
だが、このまま相手が行動するのを待っているのは悪手。
そう判断した俺は再び【堅牢なる左】のサイズを拡大すると、そのままの状態で『崩落猿』が居る場所に向けて突撃を仕掛ける。
「ちっ!そう言う事か!」
土煙の中で【堅牢なる左】と『崩落猿』の身体がぶつかり合い、トトリが支配権を握っていない部分の肉体が【苛烈なる右】の力場によって分解され始める。
だがそうして分解した肉体に『崩落猿』の気配はない。
俺が分解したのはただの瘴金属を組み合わせた塊に過ぎなかった。
では『崩落猿』は何処に?
『ウホォウ!』
「そっちか!」
「なるほど……アタシにも『崩落猿』が何をしていたのかが分かったよ」
『崩落猿』は両脚の裏から大量の水を噴出することによって、その大きさからは考えられない速さで洞窟の奥へと向かっていた。
そして、今の『崩落猿』の姿はファーティシド山脈で戦った時の姿の姿と殆ど変わりが無く、唯一の違いと言えば、俺が切り落とした左腕にアタッチメントのような物を付けている事だけだった。
それで全員が理解する。
『崩落猿』は左腕を繋げることによって、他のミアズマントや機械を自在に操作して見せていたのだと言う事を。
『ミアズマントが……瘴巨人を操ってみせるのか……』
『最早特異個体なんて次元ですらないかもしれないな……』
『桁違いにもほどがあるのじゃ……』
それは誰かが言ったように、ミアズマント言う枠を明らかに超えた別の何かでなければ為せない技と言うべきものであった。
『ヴボアアァァ!』
「ちっ、もう次のを出して来たか」
だが、『崩落猿』が全身にドリルのような物を付けた機体を持ち出してきても、怯むわけにはいかなかった。
なにせ此処はまだ目的地点に達するための道中に過ぎないのだから。




