第325話「M6-5」
『じゃあ、ちょっと見てみるのね』
「さて、俺とロノヲニトでもやれる事はやっておくか」
『そうだな。そうするとしよう』
さて、エイリアスの『真眼』による解析は始まったが、エイリアスに頼りきりと言うのもどうかと思うし、解析の間何もしないと言うのも芸が無い。
と言うわけで、俺とロノヲニトの二人でもって、眼下に広がる灰色の門について見てみる事とする。
勿論、周囲の警戒を第一優先事項としてだが。
『んー、フィーファとナイチェルを呼んでほしいのね』
『分かった』
ふむ。フィーファとナイチェルの二人を呼んだと言う事は、エイリアスにはどういう仕組みかは分かっても、答えが導けないような複雑な暗号が組まれているぽいな。
となると、やはり触ったり近づいたりするのは止めた方が良いらしい。
「んー……」
で、肝心の門だが、直径700m程の円形で、その中央には一本の線が走っている。
また、円の縁は円の内側に比べて、少々盛り上がっているようだった。
となると……その線を分割点として、門が左右にスライドする構造になっていると考えてよさそうだな。
『微妙に凹凸があるようだな』
「そうみたいだな」
ロノヲニトの言うとおり、門の表面には僅かな凹凸が存在している。
それも不規則な凹凸では無く何かしらの規則性……いや、模様を描くように凹凸が存在しているようだ。
『そんなのあるの?』
「凹凸と言っても、小石一個分ぐらいの凹凸だからな。この距離で分かるのは探索系の能力持ちぐらいだと思う」
で、そんな僅かな凹凸を用いて何を描いているのか思ったんだが……これは絵だな。
「六角、六腕、六翼の龍……か」
『竜?』
「所謂西洋竜じゃなくて、東洋龍って言われるような奴に近いけどな」
『ああ、我にもそう見える』
灰色の門の表面に描かれていたのは、逆さ十字を取り囲むように身体を伸ばし、自らの尾を咥える龍。
ただ、その姿は俺……は元々普通のドラゴンからは大きく外れた姿をしているので除くとして、吠竜としての姿を持っていたロノヲニトとも、一般的な細長い胴体を持つ東洋の龍とも大きく違うものだ。
細長い胴体からは六本の腕が生え、腕の付け根からは翼のようなものが一本ずつ生えている。
その尾は棘が何本も生えているようだったし、頭部も普通の龍が一対二本の角が生えているのに対して、六本の角が生えている。
一言でまとめてしまうのならば……異形の竜と言うのが正しいだろう。
「しかし、この場にこんなものが有るってことは……」
『『虚空還し』の象徴か紋章と言ったところなのだろう』
『まあ、意味もなく、こんな物を作る必要は無いよね』
ロノヲニトが画像に調整を加えたのか、トトリも門に刻まれた模様を確認したような言葉を呟く。
ま、二人の言うとおりだな。
わざわざこんな場所にある門に、こんな絵を描いているんだ。
最低でも『守護者』が使っている紋章ぐらいの関わりが有って然るべきだし、もしかしたらこの門を守るための仕掛けが組み込まれている可能性もある。
もしかしたら、『守護者』が守っているものを封じ込めるための仕掛けの一部と言う可能性だってあり得るだろう。
『ハル。その絵とやらが、そのまま『虚空還し』の姿を描いたものだって可能性は?』
「いや、それは有り得ないな」
なお、ワンスが懸念するようなことは有り得ない。
なにせ、相手が龍の姿をしているのだと言うなら、あの変態がそれを知らない事は有り得なく、変態は絶対に対人用の訓練では無く、対竜用の訓練を俺に積ませていたはずだからだ。
あの変態なら竜の姿を取るぐらいは出来るに決まっているしな。
本来の姿は海月だとか言っていた気もするし。
『そうかい。ならよかったよ』
「と、そうだ。ワンス」
『なんだい?』
さて、無線機からブツブツと聞こえてくる声からして、エイリアスたちによる門の解析はもうしばらく時間がかかりそうではある。
と言うわけで、この先も考えてやれるべきことはやっておくとしよう。
「今の内に俺の中に移動しておいてもらっていいか?この先安全に乗り移れる時間と場所があるとも限らないしな」
『んー……そうだね。そうしておいた方が良さそうだね』
俺は腕を伸ばして『トリコテセン』の甲板に置くと、【堂々たる前】の能力でもって腕内部の構造を少々変える。
そして、『トリコテセン』の甲板上に防護服を着て出てきたワンスが俺の腕の中に入ると、俺の身体の中心部……【シンなる央】の力もあって、俺の体内で最も安全な場所へと搬送する。
「どうだ?」
「んー……ちょうどいいぐらいの大きさだね」
「じゃあ、そのサイズで固定しておく」
「よろしく、ハル。ああ、今のところは問題ないみたいだね」
「分かった」
ふむ。ワンスが入るスペースの大きさは問題なしと。
で、俺の方も異常なしと。
もしかしなくても『守護者』は現状、そこまで積極的に何かを仕掛けて来るような真似はしていないらしい。
『解析終ったのね。球ドラゴン、鳥。頼むね』
『分かった』
『はいはい、っと』
と、エイリアスたちにしては珍しく時間がかかったようだが、解析が終わったらしい。
何かしらのデータを受け取ったのであろうトトリたちが乗った『シクスティ』はゆっくりと門に向けて降下していく。
「ハル」
「言われなくても」
俺は『シクスティ』に向けて何時でも【威風なる後】を使えるように準備しておく。
そして『シクスティ』が無事に門に触れた時。
それは始まった。