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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第6章【シンなる央】
320/343

第320話「???-12」

「おっ、帰って来たか」

「社長?」

 多次元間貿易会社コンプレックスの一室。

 秘書姿の女性を傍に控えさせ、書類仕事をこなしていたチラリズムが顔を上げる。


「おう、帰って来たぞ」

「帰ってきました」

 そこに居たのは、ウスヤミともう一人のチラリズム。


「そっちの調子はどうだ?」

「変わりなくってところだな。そっちは?」

「無事に訓練完了したぞ」

 同じ顔の人間がさも当然のように、顔を突き合わせ会話をする。

 それだけならばただ双子が会話をしているだけだが、この二人のチラリズムは双子では無く完全な同一人物である。

 なので、双子ならば僅かに存在している差異も無く、その差異を感知出来るような者にとっては非常に気色悪い光景が広がっていた。


「ああそう言えば、俺が送った補助輪についてはどうした?」

「それか?それなら……と、とっとと同期した方が良いな」

「……そうだな。俺の後ろで怖いお姉さんが睨んできてる」

 尤も、この場に居る存在にとっては同じ存在が複数居る程度は常識の範疇とも言えるため、この場においてチラリズムが二人いる程度で気味悪がるような存在はいない。


「と言うわけで……ほいっと」

「おう、同期開始!」

 ウスヤミと共に現れた方のチラリズムが紫色に発光する球体に変化し、席を立ったもう一人のチラリズムが伸ばした手の上に移動する。

 そして身に着けた衣服をはためかせ、際どい部分が見えそうで見えなさそうな状態になったところで……


「オウフッ!?」

 時間が勿体無いから無駄な変身バンクを入れるなと言わんばかりに、ウスヤミと秘書姿の女性が手に持ったハリセンでチラリズムの顔を前後からフルスイングし、強制的に同期を完了させる。


「お前ら……こういう時にツッコミをするのは無粋だと思わないのか?」

「社長。時間が押していますので、お急ぎください」

「的確に私が本気でキレる境界とキレない境界を見計らってふざける癖に何を言っているのですか。貴方は」

「ちっ」

 チラリズムを全開にした魅せシーンを妨害されたためなのか、チラリズムは若干不満げに席に着く。

 が、ウスヤミも秘書姿の女性もそんなチラリズムの不満げな姿を気にした様子は見せない。

 この辺りは長年の付き合いゆえの物だろう。


「それで、例の補助輪についてはどうしたのですか?」

「本人の望みもあって、AIとしてC21-R81-R05世界……『クラーレ』に送った。ウチの奴からの報告を聞く限りじゃ、中々に高評価みたいだな」

「なるほど」

 なお、チラリズムが同期を必要としたのは、普段チラリズムが使っている分体と違って、箱の中の世界に送り込んだ分体は独立し(スタンド)た個体(アローン)であったためである。

 これは『守護者』を始めとする諸存在に感知されないべく、あの箱の中の世界が完全に他の世界から隔絶された状態にあったための弊害であり、本来は半年以上分離し続けた個体など最早自分ではないと言ってもいいのだが……そこは神々の中でも特に力を持つ存在であるチラリズムの事である。

 半年程度の時間など何の問題も無いようである。


「ではもう一つ。ハルハノイが『守護者』に勝てる可能性はどのくらいですか?」

「そっちについては五分五分ってところだな。時間の都合で及第点までしか育ててないわけだしな」

「五分五分……ですか」

「五分五分だ。まあ、そもそもとしてあいつ等相手に確実な勝利なんてものを求める方が間違っているんだがな」

 チラリズムはいつも通りの笑顔で、ウスヤミは若干悩ましげな顔で会話を続ける。


「『森羅狂象』……『守護者』は使うと思いますか?」

「使わないな。あの場で『森羅狂象』を使ったら、その時点で『守護者』にとっては負けたも同然だ。仮に使えば……確実にアイツを目覚めさせることになる。そうなれば……まあ、想定している状況の中では最悪に近い状況にはなるだろうな」

「そうですか」

 ただ、『森羅狂象』と言う単語に若干チラリズムの表情が真剣みを帯びる。

 それは『森羅狂象』と言う存在がどれほど危険な物であるかを暗に示していた。


「では最後にもう一つ。ハルハノイが『守護者』に勝てるかは五分五分と言いましたが……仮にハルハノイが負けた場合にはどうなると思いますか?」

「そうだな……とりあえず『守護者』がローラー作戦を開始して、『クラーレ』に住んでいる人間が全滅するのは確定として……その後は、ウチに喧嘩を売ってくるか、『クラーレ』の完全閉鎖ぐらいの手は打ってくるだろうな。アレを封印するにあたっては悪手と言う他ないが」

「悪手……ですか。まるで『森羅狂象』の正体について知っているかのような口ぶりですね」

「正確なところまでは分からないが、予測ぐらいは流石に付くさ。ずっと調べ続けてたんだからな。ま、いずれにしてもだ。俺もエブリラも次の手は考えてあるから、状況はどんどん動くことになるだろうな」

「そうですか。なら私も打てる手は打っておくべきなのでしょうね」

「そうだな。やれる事はやっておいた方が良い。もう賽は振られているしな」

 だがチラリズムは既に打てる手は打っていると言わんばかりに書類仕事に戻り、ウスヤミも何処かに消える。


 状況は動く。

 当事者たちがそれを望む望まないにかかわらず。

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