第310話「箱の中の世界-7」
「よーし、何処からでもいいぞ」
「じゃあ、遠慮なく……死ねぇぇ!変態!!」
俺は殺意を込めて右手を振るう。
「おおっ、良い一撃だな」
「くっ」
が、変態は【苛烈なる右】の力場に平然と触れ、受け流すと、反撃の掌底を放ってくる。
その為、俺は【堅牢なる左】の力場によって、掌底を弾く。
「どんどん来い!」
そこから、俺と変態はお互いに攻撃を繰り出しては防御をすると言う事を繰り返す。
「ふっ、はっ、たぁ!」
「ふふふふふ」
そう、未だに俺の特訓は続いていた。
今やっているのは近接格闘技術の訓練ともう一つ……
「これはどうだ?」
「させるか!」
変態が俺の背後に立っている人形に向けて、魔力の弾丸を放つ。
俺はそれを【竜頭なる上】によって察知すると、【威風なる後】の圧力場で魔力弾の軌道を曲げ、【苛烈なる右】の力場で魔力弾を消滅させる。
「よーし、それでいい」
そう、今の俺は近接格闘技術の訓練と同時に、変態の攻撃から後衛を守ると言う訓練も行っていた。
これが訓練開始の頃から何故か魔力操作がしづらくなっている俺には、かなりキツいものになっていた。
だが、後衛の人形が誰を想定しているのかを考えれば、この訓練の有意性は疑いようが無かった。
『守護者』の攻撃が俺にだけ向けられるわけがないのだから。
「一つ訊いていいか?」
「なんだ?」
さて、そんな風に訓練を積んでいる中で、一つ気になった事が有る。
「ウスヤミさんは訓練前の話でこう言ってたよな。『守護者』が守っているものにアンタのように強過ぎる者が近づくと、何が起きるか分からないって」
「確かに言ってたな」
「じゃあ破壊する方法ってのは、『クラーレ』に入らずにやれるような物なのか?」
「いや、少なくとも壊す相手と同じ空間には居る必要はあるな」
俺と変態はお互いの拳を打ち合わせ、その衝撃を利用して俺は変態から距離を取る。
追撃は?来ない。
と言うより、一時的に戦いを止めた感じだな。
「なら矛盾してるな。それじゃあ壊す前に何が起きるか分かったものじゃない」
「まあ、確かにそのまま近づいて壊そうとしたら、そうなるだろうな」
「そのまま……か。つまり策があると?」
「ああ、何があるのか分からないのなら、その何かが起きるの傾向を弄ってやればいい」
「傾向を弄る?」
「そうだな……」
そう言って変態は少々考え込むと、説明を始めてくれる。
その説明によれば、今の『守護者』が守っているものは本当に何が起きるか分からないものらしい。
そのため、よくあるRPGのように言ってしまえば攻撃・防御・回復・補助・その他諸々が本当にランダムに発生するらしい。
なので、どれほどの対策をしても、その対策が意味を為さない可能性の方が圧倒的に高く、最悪の場合あらゆる種類の防御を無視して、即死する可能性も常に付き纏うそうだ。
「それは……確かにやりづらいな」
「やりづらいを通り越して、挑むのが無謀なレベルだな。まあ、それでもどうにかする方法は無くも無いが」
「……」
説明は続く。
何が起きるのか分からないのは危険すぎる。
ならばと言う事で、変態はその何かが起きるか分からない状態に偏りを持たせることによって、発生する現象に方向性を持たせようとしているらしい。
そうすれば、発生する現象は攻撃や防御など特定の物に縛られ、対策もある程度は可能になるそうだ。
「ん?」
「いや、何でもない」
と言うか、さっき変態はさりげなくそのままの状態でも戦えると言っていたような気が……うん、気にしたらダメだな。
これまでの特訓で、この変態がどれだけとんでもない存在なのかは散々理解させられたし。
でなければ、地面を振り回しての攻撃とか、爆破概念光線とか、吹っ飛ぶ方向のベクトルを操作しての攻撃とか、説明されても理解しがたい攻撃方法を無数に保有しているはずがない。
それにだ。
「そうか?」
「そうそう」
俺はどうしようもないと言う感じに頭を振る。
「ふん!」
そして、その頭の振りによって変態の注意が一瞬逸れたのを認めた瞬間に接近。
【堅牢なる左】で防御を崩した上に、【苛烈なる右】で殴り掛かろうとする。
「し……」
「甘いなハルハノイ」
が、【堅牢なる左】で変態の片手を撥ね上げた時だった。
変態が笑う。
それだけで万人が見惚れそうで、けれど中身が垣間見えて残念な気持ちになるような笑顔で。
「ねまっ!?」
「俺相手に不意討ちだなんて……」
俺は即座に不意討ちが失敗したことを悟る。
そして、そのカウンターとして放たれる攻撃が大規模かつ強力な物である事も。
「効くはずがないだろう」
変態の両腕が上がり、頭上で交差され、へそがチラリと見える。
両足も交差され、太ももがチラリと見える。
変態の魔力が爆発的に高まり、全身の皮膚が紫色の燐光を放ち始める。
あ、うん、これ、俺の想像よりももっとヤバいわ。
「喰らうがいい」
そうしている間にも変態の全身から紫色の光が放たれる。
その瞬間……
「にぎゃあああぁぁぁ!?」
俺の全身を衝撃が突き抜け、明らかにその衝撃の大きさに釣り合わない硬直が俺の身体に訪れ、そうしている間に次の衝撃波が到達し……最終的には数百度衝撃波が身体を突き抜けてきたところで俺は解放され、全身を痙攣させながら地面に転がるのだった。
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