第306話「箱の中の世界-3」
「難しい……質問ですね」
「難しい?」
俺の質問に、ウスヤミさんは初めて何かを悩むようなそぶりを見せる。
うん、これは悩んでいるフリだな。
この質問が来ない事をウスヤミさんが予測していないはずがない。
「私と『神喰らい』は経緯こそ異なりますが、元々は同じ主に仕えています。なので、その主の望むとおりに動いているのであるならば……私と『神喰らい』は協力関係にあると言えます」
「ふむ」
ウスヤミさんと『神喰らい』は同じ主に仕えている……か。
その話が本当なら、俺を作ったのが『神喰らい』である以上、間接的に俺とその主とやらの間にも繋がりがある事になるが……まあ、そこは『神喰らい』次第か。
「そして、つい先日そこの変態が『神喰らい』から渡された情報通りであるのなら、『神喰らい』は主の望むとおりに動いている。と言えます」
「つまり、『神喰らい』は貴女の仲間である。と言う事でいいんですか?」
「『神喰らい』が本当の事を言っているのならば……ですね。貴方も彼女の息子ならば知っているかもしれませんが、彼女は必要ならば平然と嘘を吐きます。それも嘘を見破る事を専門とした神を相手にしても五分五分の確率でばれない程の錬度でもって」
「……」
ああなるほど。
こりゃあ、ウスヤミさんも悩むはずだ。
『神喰らい』が本当の事を言っているように見えても、実は嘘でしたって事が普通に有り得るのだから。
「更に言えば、彼女は本当の事だけを言って、相手を自分にとって都合のいいように誘導する事もあります」
「ええぇぇ……」
しかも本当の事を言っていても信用できないとか……幾らなんでも酷過ぎないか?
おまけにさっきの発言からして、ウスヤミさんは『神喰らい』から直接情報を貰ったわけでは無く、変た……チラリズム経由で情報を得たみたいだし。
と言うわけで、その辺りの事情を訊くべく変態の方に視線を向けるが……。
「一応、俺の情報網と能力でもって確認した限りでは、アイツの話した情報は真実だぞ。ついでに言えばアイツらしいとも思ったがな」
うーん、変態の言葉だからなのか、どうにも信頼感に欠ける気がしてしょうがない。
いやまあ、変態がしているドヤ顔になるかならないかぐらいの表情から察するに、それなりに確度は高いんだろうけどな。
「まあ、アイツが自分の手の内を全部明かしたわけじゃないしな。警戒するのは当然の反応だし、警戒し過ぎても損にはならないと思うぞ」
で、結局のところ、保証は出来ない。と。
何かもう何を信じていいのかも分からないような状況だな。
「ま、『守護者』を倒した後についてまでお前たちが今心配する必要はねえよ。そこについては俺の方で十分な対抗策を練っているからな。それこそ、エブリラの奴が敵に回っても問題ないように……な」
「……」
『神喰らい』が敵に回っても問題はない……か。
今の俺たちとは能力の次元が違いすぎるから、実力の比較も出来ないんだよなぁ……。
「はぁ……」
ただ、チラリズムの言う事にも一理ある。
正直に言って、目の前の二人も、『神喰らい』も、『守護者』も、その『守護者』が守っているものにしても、俺よりもはるかに格上の存在なのだ。
となれば、今俺が集中するべきは『守護者』を倒す事。
ただそれだけなのかもしれない。
「ちなみに、この箱はかなり特殊だから例外扱いだが、基本的に今の『クラーレ』から別の世界に移動するのは無理だぞ。『守護者』の奴がかなり強力な結界を張っているからな」
「ああなるほど。だからハルの能力は細かく分けられていたんじゃな」
「そして、仮に私たち人類が異世界転移技術を確立しても、その結界とやらの為に『クラーレ』からは出られない……と」
「そう言う事だな」
後ここで今更、俺の身体がパーツごとに分けられてこの世界に入れられた原因が判明と。
きっと、迂闊に世界と世界の境界を越えようとすれば、その瞬間に『守護者』に感知されて、装置ごと『虚空還し』の対象にされるんだろうな。
だから『クラーレ』から出る事は出来ないし、『クラーレ』に入る時も特殊な方法を用いる必要が有ると。
はぁ……つまりどう足掻いても、『守護者』と戦う事は不可避なんだな。
「さて、質問はこれで終わりか?」
「えーと?」
俺は周囲に居る皆に目を向ける。
どうやら、皆これ以上の質問は出ないらしい。
「ちなみに『守護者』が守っている物とか、どういう手順でそれを破壊するとかについて具体的に教えてもらうとかは……」
「俺は教えても構わないが、その場合は絶対に特訓を受けてもらうし、『守護者』とも戦ってもらうぞ。でないと教える意味が無いし、教えておきながら計画から外すのは色々と拙い」
「ですよねー」
で、これ以上の情報が欲しいなら、俺たちで『守護者』と戦う事は確定と。
さてどうしたものかな……?
「ま、俺の特訓を受ければ、『守護者』と戦える程度の実力は確実に付くから安心しろ。これもあるしな」
「それは!?」
そうやって俺が悩んでいた時だった。
チラリズムが何処からともなく取り出したのは一本のUSBメモリ。
その中から漂って来ていたのは、不純物の混ざっていない本物の【シンなるオウ】の気配だった。
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