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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第6章【シンなる央】
303/343

第303話「ノクスソークス-2」

「具体的にはどうするつもりだ?ハルハノイ」

 皆の代表としてなのか、ロノヲニトが俺に質問を投げかけてくる。


「簡単な話だよ。【シンなるオウ】は諦める。仮にこの先ノクスソークス内でコピーされて保存されていたデータが見つかってもだ」

「理由は?お前とロノヲニトの話を聞く限りでは、【シンなるオウ】とやらは相当強力な能力のようだが?」

 俺の【シンなるオウ】を諦めると言う言葉に全員が何処かほっとしたような表情を浮かべるが、直ぐにシーザがその理由について尋ねてくる。

 理由か。

 まあ、至極単純な話だ。


「確かに【シンなるオウ】のエネルギー供給能力は喉から手が出るほどに欲しくはある。アレが有れば、周囲の瘴気濃度に気を使う必要も、出力不足に頭を悩まされる必要も無くなるからな。ただ……」

「ただ?」

「あのデータにはいっそ不純物と言ってもいいような、データが混ざっていた」

 俺の言葉に全員が静かに頷く。

 そう、【シンなるオウ】には不純物としか言いようのない、本来ならば必要のないデータが混ざっていた。

 これが特に意味のないダミーのデータであれば、俺もそこまで気にはしなかっただろう。

 だがしかしだ。


「その不純物のデータが原因で、灰汁シュウはあんな化け物になった。そして、直接対峙した身としてはアレは俺の人格や自我を塗りつぶして、身体を乗っ取る事を目的としているように感じた」

 アレは明らかに悪意に満ちた危険なデータだった。

 正直に言って、一時の力を得る為に致死毒と分かっている薬を飲むなどと言うのは絶対にゴメンである。


「それは……拙いね」

「そうなると、本当に間一髪だったんだね」

「加えて言うなら、アレからはエブリラ様の意思は感じなかった。だから、恐らくあの不純物についてはエブリラ様にとっても好ましくないものではないかと思う」

「つまり、イヴ・リブラ博士とはまた異なる目的を持った何者かが仕込んだものと言う事か」

「でもイヴ・リブラ博士がそれを見逃したって事は……見逃さざるを得ない相手って事なのかな?」

「何と言うか、頭が痛くなってきそうな話だ」

「まあ、アイツの性格上、面白そうだからという理由で見逃した可能性もあるけどな」

 と言うわけで、【シンなるオウ】を諦める事への同意を貰いつつ、残る問題である件の不純物を混ぜた人物……セブ曰くイヴ・リブラ博士が見逃さざるを得なかった人物についてだが……少しだけなら手がかりは有るな。


「ただそう言う事なら、メラルドの描いたイクス・リープスの絵。あの絵の影の中に潜んでいた何者かが、【シンなるオウ】の中に不純物を混ぜた当人なのかもな」

「その可能性は……十分に有り得るな」

「後でちょっと確認してみようか」

「そうだね。今ならもっと多くの事があの絵から読み取れるかもしれないわけだし」

「と言うか、今なら俺が全部教えてやってもいいけどな」

 と言うわけで、この件についてはダイオークスに帰ってから、フィーファとエイリアスの二人に相談して、もう一度あの絵を見てみようと言う事で……ん?


「だがハルハノイ。【シンなるオウ】が得られない事によって生じた穴はどうするつもりだ?」

「それは……って、ロノヲニト、それに皆もちょっと待ってくれ」

「ん?」

「ハル?」

「どうしたのハル君?」

「どうしました?ハル様」

「おいおい、いったいどうしたんだ?」

 俺は妙な違和感を覚えて、一度会話を止める。

 そして思い出してみる。

 この場に居る面子は?

 ダイオークス26番塔外勤部隊第32小隊の面々だ。

 ただ、より正確に言えば、俺、トトリ、ワンス、シーザ、セブ、ロノヲニトと言う戦闘が可能な六人だけである。

 これは、今回の作戦が行われる場所であるノクスソークスでは戦闘が発生するからだ。


「……」

 で、会話が始まった時、この部屋にはその六人しか居なかった。

 これは間違いない。

 そして、説教の時間含めて、この部屋の中に他の人間は一切出入りしていない。

 これも間違いない。

 気を抜いているプライベートな時間ならともかく、任務中に周囲への警戒を怠るほど緩んでいたら、冗談抜きに命に関わるからだ。

 なのに……


「なんで、七人居るんだ?」

「「「……」」」

 俺の言葉に全員が固まる。


「俺、参上!」

 そして、いつの間にか部屋の中に増えていた水色の髪に紫色の瞳を持つ、特徴的な男性が倒れそうで倒れない絶妙な仰け反り具合でそう言った瞬間。


「【苛烈なる(アサルト)(ライト)】!」

 俺は【苛烈なる右】を男性の胸に向けて突き出し、


「『ソードビット・テスツ』!」

 トトリは『ソードビット・テスツ』で男性の首に向けて複数の方向から攻撃を仕掛け、


「はっ!」

「ふんっ!」

 ワンスとシーザはそれぞれの得物を振るい、


「やっ!」

 セブはナイフを投げつつその場から飛び退き、


「縛り上げろ!」

 ロノヲニトは床を分解してワイヤーを生成し、男性の両足を縛り上げようとした。

 だが……


「なっ!?」

 いずれの攻撃も男性に届く事は無かった。

 俺たちの放った全ての攻撃が男性に触れる直前で止まってしまっている。

 いや、止められたと言う表現は正しくない。

 俺の手に伝わってくるのは、見えない何かにぶつかって止まったような感触では無く、攻撃が空ぶったような届いていないと言う感触だったのだから。


「やれやれ、揃いも揃って血気盛んな連中だなぁ。いやー、青春真っ盛りと言う感じだな」

 だが、次の瞬間に起きた現象は、最早理解不能な現象と言う他なかった。


「ただ、今は全員席に着いて、ゆっくりお茶でも飲むとしよう」

「「「!?」」」

 なにせ、気が付けば俺たち全員が白塗りの椅子に座らせられ、目の前には程よい温度の昆布茶の入ったカップが置かれた白塗りのテーブルが置かれており、周囲は何処かの温室のように緑溢れる空間になっていたのだから。

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