第302話「ノクスソークス-1」
「で……」
俺がワザと発生させた『虚空還し』によって片目の蛇を葬り去った後、ノクスソークス内の状況は一気に動き出した。
まず、ノクスソークスに同化したロノヲニトがノクスソークスと外とを繋ぐ全ゲートと空港を制圧。
それに合わせて、ノクスソークス周辺に待機していた各都市の部隊がノクスソークスの内部に突入した。
「どうして……」
その後、ノクスソークスの現王サルファー・ソークスの身柄を抑えると同時に、都市の各所で抵抗を続けていた現政権側の勢力を一掃。
聞くところによれば、圧勝と言う他ない戦果を挙げたらしい。
まあ、ただでさえ劣勢だったところに、ロノヲニトの支援とガッチガチに対策を固めた専門部隊が来たのだから、抵抗など出来るはずがないのだが。
「あんな事を……」
でまあ、俺個人については外から突入しようとしていた部隊の一つに拾われてノクスソークスの中に入った後、例の施設に移動。
そこで突入部隊としてやってきたトトリたちダイオークス26番塔外勤部隊第32小隊の面々と合流したのだが……
「したのかなああぁぁ?」
「……」
他の人たちが施設内の探索を進めている中、俺だけは金属製の床に正座させられて、どす黒いオーラを放っているトトリを筆頭として、何故か皆から尋問されていた。
いや本当にどうしてこうなった?
「ハルくううぅぅん?聞いてるのかなぁ?」
「聞いてます!ごめんなさい!すみませんでした!!」
ただ、これ以上トトリを怒らせるのは拙い。
そう判断して、俺は正座の姿勢からそのまま土下座の体勢に移行する。
うん、これ以上は本当に拙い。
仮に【シンなるオウ】が俺の手元にあって、完全な状態であっても勝てるとは思えない。
「ふうん……じゃあ、なんで私が怒っているのか答えてくれる?謝るってことは分かっているんだよね?」
「……」
あ、詰んだ。
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「ハル君。次からはこんなことやっちゃ駄目だからね」
「はい……」
結局、説教は一時間ほどの長さに及びました。
まさか、トトリだけでなく、ロノヲニトを含めた全員から怒られるとは……。
ああうん、『虚空還し』をワザと発生させると言う危険な行為に対して皆怒ってたのね。
ついでに言えば、この一時間の間に、俺がノクスソークスの中でしていた事も全て吐かされました。はい。
「ただ、戦術としてはそんなに間違ってなかったと思うんだけどなぁ……」
「ハル君?」
「!?」
俺の呟きにトトリの目が鋭く光ったので、俺は慌てて反省していますと言うポーズをとる。
あ、危ない。
本気で危ない。
「それにしても、この施設はだいぶヒドイ施設だったようだな」
「ああ、我とハルハノイが突入した時もそう感じた」
で、話は切り替わって……うん、俺は正座のままだけど、話は切り替わって、今後について話し合われることとなった。
「報告書の方には……」
「この施設についてはありのままに書くしかないだろう。ただ、無理矢理働かされていた研究員が居た事だけは忘れないように、但し書きを付けた上でだが」
まず、俺たちが今居るこの施設について。
中を見た人間百人中九十九人が不快そうな表情を浮かべ、残りの一人も呆れ果てるような表情をする施設と研究内容だったので、わざわざ言うまでも無く施設そのものは廃棄される。
で、施設で働いていた人間については……御咎めなしの人間と、裁判にかけられる人間に分けられることになる。
なにせ、働いていた人間の中には灰汁シュウの特異体質によって、無理やり働かされていた人間が相当数居るのだから。
「問題は、研究の中核を担い、自らの意思で働いていた人間の大半が死んでしまっている事だが……」
「まあ、仕方がないだろう。【シンなるオウ】の化け物が出て来なければ、何名かは捕えられたかもしれないが、今となっては後の祭りだ」
「そうだな。ハルに捕えるつもりがあったかどうかはともかく、あの状況では捕縛は無理だったと言う他ないだろう」
シーザとロノヲニトの二人に思いっきり睨まれてます。
ごめんなさい。
捕えるとか、気絶で済ませるとか、あの時はまるで考えてませんでした。
全員殺す気で動いてました。
ま、まあ、そこら辺は報告書の書き方をちょっと工夫すればいいよね。
「【シンなるオウ】とやらのついでに、『虚空還し』についてはどう記述しておくんだい?アレをハルがワザと発生させたって事が知られれば、色々と面倒な事になるよ?」
「確かにそうだな。が、書かないわけにはいかないだろう。目撃者が多すぎる」
全員の視線が俺に集中する。
うーん、俺が『虚空還し』を誘発させた件か……その件については……。
「心配しなくても、あんなことはもう出来ないって」
「ハル君?」
そこまで心配しなくてもいいと思う。
「どういう事だ?」
「いやな……」
と言うわけで、俺が『虚空還し』を発動させるに至った経緯と、何故同じことが出来ないのかの説明を皆に対してする。
で、経緯については省くとして、何故出来ないのかだが……単純な音の響きだけでなく、そこに含まれている魔力なども利用して、『虚空還し』はこちらの事を感知している可能性が高いからだ。
なので、もしも同じことをもう一度やろうとしたら……うん、魔力を使ってどこか遠くで発生させたとしても、その大本である俺を狙って『虚空還し』を放ってくる可能性は非常に高いだろう。
「と言うわけで、自殺覚悟でもなければ、もう一度やるのは無理」
「なるほどな」
「なら大丈夫かな?」
「まあ、そう言う事なら、ハルの身を守る事にはつながっても、傷つける事には繋がらないだろうね」
「良かった良かった」
「まあ、我もこうしてここに居られるわけだしな……知っているだけなら問題ないだろう」
「……」
俺の説明に皆も納得したのか、ほっとしたような顔をしている。
「それでハルハノイ。【シンなるオウ】のデータについてはどうするつもりだ?『虚空還し』に巻き込まれてオリジナルは消えてしまったぞ?」
で、残る問題は失われてしまった【シンなるオウ】のデータ入りUSBメモリについてだが……。
「そっちについては……ちょっと考えがある」
「ほう」
勿論考えてはある。