第300話「M5-17」
「ぐっ!?」
俺の力場と片目の蛇の頭がぶつかり合って最初に感じたのは?
力場が押し込まれる事によって生じた衝撃だ。
これは片目の蛇の質量と速度を考えれば、当然の事と言えた。
だから、多少キツくはあるが、予め身構えておけば十分に耐えうることが出来る。
「いtどえsうぁたんdれしsts?」
問題はここからだ。
片目の蛇の侵攻が止まらない。
己の血肉が【苛烈なる右】の力場によって分解され、【堅牢なる左】の斥力場と【威風なる後】の圧力場によって身体を穿ちながら後方に弾き飛ばされているにも関わらず、なお前進を続けている。
「くっ……」
力場を突破されればどうなる?
片目の蛇の能力を考えれば、一瞬にして俺と言う存在は飲み込み喰らわれるだろう。
つまり、死ぬのでもなく、滅びるのでもなく、片目の蛇の一部として取り込まれることになる。
「てぇもれいtれしsts、てぇもれいちそんlytろうbぇd」
そんなのは絶対に嫌だ。
断固として拒否する。
こちらに来てから、ミアズマント含めて多くの存在を手にかけている俺だから、自分の死に方を選べない事ぐらいは理解しているし、どんな無様な死に様を晒す事になっても仕方がないとは思っている。
だがしかし。
だがしかしだ。
「ふざ……」
「どんt7れしsts」
だからと言って、抵抗することを、生き延びることを諦める事は違う。
それは絶対に間違っている。
だから……
「けるなぁ!」
「!?」
全力で抵抗してやる。
周囲一帯の瘴気を集めて、その全てを攻撃に回してやる。
分解に伴う形で大量の熱が発生し、俺の両腕と片目の蛇の頭が焼け、周囲一帯に肉を含めた様々な物が焼ける匂いが立ち込めるが、知った事か。
「どえしっつrのうってゃてぇいさcちんがしょう!?」
「やかましい!」
片目の蛇が俺に向かって何かを語りかけてくるが、知った事か。
「俺の身体は俺の物だ!誰かによって作られ、作られた目的があったとしても、俺は自分自身の意思を持っている!だから、俺が何をするか、何をやるかは俺が決める!それを邪魔するお前はお呼びじゃ……ねえんだよ!」
「!?」
俺は俺だ。
俺の行く手を邪魔するものは排除する。
俺の安寧を乱すものは潰す。
俺を俺で無くそうとするものは……消し飛ばす。
どんな手段を使ってでもだ。
「どらああぁぁ!」
「th……」
俺の気合いに呼応するように、力場が強まり、片目の蛇を押し返し、分解し、消し飛ばそうとする力が強まる。
俺は一瞬このまま行けるかと思った。
「てぃsふぉおl!!」
「ぐっ!?」
だが、流石は膨大な量のエネルギーを肉体に供給する【シンなるオウ】を持っているだけの事は有った。
片目の蛇は今まで以上に大量のエネルギーを肉体に供給すると、そのエネルギーによって俺が肉体を分解する以上の速さでこちらに向かってくる。
「どようおっぽせ!?」
このまま行けば、そう遠くない内に片目の蛇は俺の身体に触れ、その場所を基点として一気に俺の身体を取り込もうとするだろう。
「とおうrぉrd!」
だが、先程感情を爆発させて一時的に押し戻した影響なのか、何かを叫び荒ぶっている片目の蛇に対して、俺の頭は異様なほどに落ち着き、冷静に考えを巡らせていた。
今の俺の手札を検討し、片目の蛇の能力を考え、周囲の状況を把握し、どうすれば確実に片目の蛇を始末することが出来るのかを考えていた。
「おねせlふぃさみっしおん!」
ああ、もしかしたら、これこそが俺の本質なのかもしれないな。
俺は『神喰らい』エブリラ=エクリプスによって作られた兵器だ。
兵器である以上は敵をいかに効率よく一方的に殺す事が最重要。
そこに感情が入る余地はあっても、それは人間らしさを表す為では無く、相手を惑わし、策を隠すために、敵を威圧するために用いるべき兵装の一つなのだ。
だからこれほど落ち着ける。
そして、敵を殺す事が最重要である以上は、自分の力だけにこだわる必要なんてものは無い。
だから今は……
「……」
今は全身の能力を解除する。
全身の能力を解除して、ノクスソークスの下に向かって落ち始める。
「!?」
そしてそれと同時に、突然自分の進路を遮っていた壁が消え去った事によって、宙に向けて全身が飛び出してしまった片目の蛇に向けて、歯が見えるような笑みを浮かべる。
「さて……どっちが勝つだろうな?」
「byのめあんs……」
俺は静かに【竜頭なる上】と【威風なる後】を起動。
【威風なる後】の圧力場によって落下速度を上昇させる。
と同時に、ノクスソークスの壁から既にだいぶ離れてしまっている片目の蛇の近くで、とある言葉を模倣するような圧力場を発生させ、大量の瘴気を含んだ空気を振動させる。
模倣した言葉の内容は?
『遂に全身のパーツが揃ったぞ!これなら『守護者』にも勝てる!』
「ようaaaaaaaaaaaa!」
反応は劇的だった。
言葉の意味とそれで何が起きるのかを察した片目の蛇は叫び声を上げ、着く場所も無いのに手足をばたつかせていた。
そんな片目の蛇を中心として、ノクスソークスの外壁に届きそうなほどに大きい球体状の境界が生じる。
「ははっ……」
やがて、片目の蛇が脱出する暇も無く、境界より内側は光すら捻じ曲げられ、黒く染まり、収縮していく。
後には……何も残らなかった。
「流石と言う他ないな」
『虚空還し』。
それが俺が生じさせた現象の名前。
そして、目の前に広がる圧倒的な力による光景に、ギリギリで範囲外に逃れた俺はそう呟く他なかった。
記念すべき三百話でこの卑怯っぷりである