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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第30話「基礎訓練-3」

 ブルムさんが各種書類を持ってきた次の日。

 俺と雪飛さんはブルムさんの指示と付添いの元、第1層に赴いて外勤部隊に入るための書類を提出。

 当然ながら、書類は何の問題も無く受理されて、俺と雪飛さんは正式に外勤部隊の一員となった。

 で、その日の内に装備を作るために必要な各種計測と打ち合わせを行うために第11層に行くことになった。


「此処が第11層なんですか」

「ええそうよ。貴方たちの家が有る第43層とはだいぶ違うでしょ」

「そうですね。何というか層一つで一つの施設みたいな感じです」

 で、俺たちがやってきた第11層だが、そこは住宅街となっている第43層や第51層とは大きく趣きが違い、層全体がまるでビルや事務所のような雰囲気を持った場所だった。

 ただ、入隊試験を行った第3層も雰囲気としては近い物が有ったが、一部を除いて、こちらの方が一つ一つの部屋や通路が多少狭いように感じた。

 その辺りについては恐らく用途の差なのだろう。


「第11層は他の塔に繋がる回廊が有るのに加えて、上の層には防護服を作るための各種設備が、下の層には瘴巨人を作るための施設が有ると言う、何を作るにしても便利な位置関係から、外勤部隊の装備品を始めとした各種物品製作について話し合うための場になっているの」

「つまり、第11層はダイオークスの工業関係における頭脳部みたいなものなんですね」

「ええ、外周十六塔についてはだいたいその認識で合っているわ」

 目的の部屋に向かう道中でブルムさんが第11層に関する簡単な説明をしてくれる。

 そして、その説明を聞いてから改めて周囲を見回してみれば、塔の中心にあるエレベーター群と、他の塔に繋がる回廊を繋いでいる通路などは、他の狭い通路よりも明らかに大きく、その気になれば瘴巨人でも動き回れるだけのスペースが確保されている事に気づく。

 たぶん、様々な物資を運び入れるのに、それだけのスペースが必要になると判断しての事なんだろうな。


「さて、着いたわね。じゃあ、後は向こうの指示に従っていればいいから、頑張ってね」

「分かりました」

「案内ありがとうございました」

 やがて俺たちは書類提出時に指示された部屋に辿り着き、そこでブルムさんは自分の仕事が有ると言う事で別れる事となり、俺と雪飛さんはブルムさんに礼を言った後に、部屋のドアを軽くノックする。


「ど、どうぞー」

「失礼します」

「し、失礼します」

 ノックに対して小さくではあるが、女性の声で返事が有ったため、俺と雪飛さんは静かにドアを開けて部屋の中に入る。

 部屋の中は何処かの企業の会議室のようにすっきりとしており、部屋の中心には一つの木製の机と、複数の椅子が置かれており、その椅子の一つには橙色の髪の女性が座っていた。

 で、部屋の隅の方までよく見れば、資料と思しき本や紙の束が大量に詰め込まれた本棚や、小さ目の観葉植物、ホワイトボードのような物が置かれており、まるでどこかの研究室のようだった。


「初めましてこんにちは。ハル・ハノイ様とトトリ・ユキトビ様ですね。私はミスリ・タクトスと申します」

「あ……はっ!?はい。そうです」

「…………」

 女性……ミスリさんが椅子から立ち上がり、俺たちに向かって小さくお辞儀をする。

 ミスリさんの特徴としては、橙色の髪をお団子状にして左耳の上でまとめている事や、目が綺麗な青い色をしている他、安全性や利便性を追求したようなツナギを着こなしている。

 で、その胸は……うん、思わず目が行ってしまう程度には主張しているだけでなく、ツナギにいくらか圧迫されているためにキツそうに見えた。

 本当に男って悲しい生き物だよな。

 本能には逆らえなかった。

 だから雪飛さん、そんなに睨まないで……ツラいから、自分でもアレだとは思っているから。


「では、そちらの椅子に腰かけてください。まずはお二人に対して色々と説明をしなければならない事が有りますから」

「分かりました」

「あ、はい……」

 ミスリさんに促され、俺と雪飛さんはミスリさんが座っている向かいの席に、二人並んで座る。


「それでえーと、まずはそうですね。私の自己紹介を改めてさせてもらいますね」

 ミスリさんはメモのような物に軽く目を通し、メモを閉じるとそう言って自身の胸に手をやる。


「私の名前はミスリ・タクトスと言い、この度は26番塔外勤部隊に所属されることとなったハル・ハノイ様とトトリ・ユキトビ様専属の工業員になります」

「専属の工業員?」

「はい。今後、外勤部隊として必要となる各種装備品……えと、武器、防護服、瘴巨人の整備や調整などにつきましては、私個人で行える物に関しては私個人で、人手が要るものについては、私がお二人と工業区の職人たちとの間に入って折衝を行う形で進めて行くことになります」

「なるほど」

「えーと、要するに今後必要なものが有ったら、ミスリさんに言えばいいと言う事ですか?」

「そうなりますね」

 そうして、ミスリさんは自分の立場についてゆっくりと、自分自身でも間違いが無いかを確かめるように言っていく。

 俺は一瞬、どうして折衝役のような者が必要になるのかとも思ったが、雪飛さんの言うように、何か有った時に相談するべき相手が分かっていると言うのは便利な話だと気づいて、納得をしておく。


「それでは、今日お二人にやっていただく事ですが……ボソッ(大丈夫。大丈夫よ私。あんなに練習してきたんだから)」

 ミスリさんは再びメモに目を通し始める。

 と、同時に俺の耳でも微かだと感じるほどに小さく聞こえてきた呟きからして、どうやらミスリさんは俺たちと同じで新人に近い立場らしい。

 そんなミスリさんが俺たちの専属に選ばれた理由については……雪飛さんに配慮しての事だと思っておこう。

 たぶん、スリーサイズどころじゃない量の情報を得る必要が有る立場なんだろうし。


「こほん。今日お二人にやっていただくのは、身体の各部の測定と、装備品の方針決定になります」

 そして、ミスリさんによる今日俺たちにやってもらう事の説明が始まった。

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