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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第3話「廃墟-2」

「っつ!これは……」

 ドアが開くと同時に、ドアの向こう側からこちら側に流れ込んできたものを見て、俺は思わずその場から飛び退くのと同時に、左手で自分の鼻と口を覆う。


「煙?いや霧か。だけど、こんな紅い霧なんてあり得るのか?」

 部屋の中に流れ込んできたのは、血のような紅さを持つ霧だった。

 霧は瞬く間に部屋の中を覆い尽くし、それに合わせるように今まで部屋の中に存在していた照明も消え失せる。

 ただ、照明が消え、霧も出ていて数十m先になるとまるで見えないが、それでも行動に支障を来さない程度には周囲の明るさは保たれている。


「ああなるほど。天井が崩れていて、そこから自然の光が差し込んでいるのか」

 その事に疑問を抱いた俺は部屋の外に一歩出て、直ぐにその答えを察する。

 部屋の外は床も壁もコンクリートがむき出しになっていて、壁と天井の一部が崩れており、崩れた天井の隙間から空を見上げると、霧のせいで非常に見づらくは有るが、太陽らしきものが空に有るのが確認できたからだ。


『カサッ』

「ん?」

 と、視界の端で何かが動いた気がした。

 鼠か何かだろうか?

 いずれにしてもまあ、俺が今居る場所が廃墟のような物である上に、何かしらの生物が居ると言う事を考えると、何時までも左手で口と鼻を覆っていてもしょうがないか。

 いざという時に左手が使えないのは拙い。

 仮に人間にだけ効果がある毒ガスだったとしても、目と耳を防御していない以上は無意味だろうし、本当に危険な毒ガスは触れただけでアウトらしいしな。


「とりあえず足場の安全性を確かめつつ、近くの部屋から順に手がかりか何か無いか調べていくか」

 そうして俺は腰の短剣をいつでも抜けるように構えると、手近な部屋から順に調べていくことにした。


----------


「一応水と食料は見つかったが……やっぱり誘導されてる感じが否めないな」

 それが最初に居た階から下に三階分ほど調べた俺の感想だった。

 とりあえず見つかった物についてまとめておくなら、乾パンとペットボトル入りの飲料水が一日分と俺の運動靴が入ったリュックサックが一つだけ見つかった。

 少々不安は覚えるが、文字通り着の身着のまま飛ばされた身としては非常に有り難い事だと思っておく。

 なお、上については元々居た階が最上階だったうえに、屋上に上がる階段が崩れ落ちていたので諦めた。


「で、まだ地面は見えない。と」

 俺は崩れた壁から慎重に身を乗り出して下の方を見る。

 が、霧に阻まれて地面は見えないため、後どれだけの階段を降りればいいのかは分からない。

 向かいのビルが朧気ながらも一応見えている事を考えると、まだまだありそうな気がしなくともないが。


「とりあえず、とっとと一階まで降りるか」

 まだまだ階がある事を確認した俺は一部屋ずつ探索する事は止め、とにかく階段を下りて、一階に行く事にした。

 今まで調べた場所の所々で壁や床が崩れている事を考えると、何時この建物が崩落してもおかしくは無いと判断したからだ。

 そうでなくともこの場に何時までも留まり続けるメリットは薄いと言うか無いしな。

 なにせ、一日分の食料が尽きるまでに人に出会えなければ、待っているのは餓死と言う未来だし。

 そんな未来は断固として拒否させてもらう。

 と言うかあのスピーカーの声の主も、どうせ俺たちを何処かに飛ばすんだったら、最初から人が居る場所に飛ばしてくれれば良いと言うのに、どうしてこんな廃墟に飛ばしたんだか。

 訳が分からん。


『グ……』

「ん?」

 と、そんな事を考えながらひたすら階段を下りている時だった。

 大きな動物の鳴き声に似た音と共に、何処かからこちらに向かって大きくて重たい物を地面に打ち付けるような音……いや、足音か?とにかく、そんな感じの音が地響きとともに迫ってくる感じがした。


「何の音だ?」

 俺は警戒感を露わにしつつも手近な階で通路の方に出ると、音源が在る方が見えそうな場所を探し始める。

 それからしばらく探したところで壁と床の一部が崩れ、その方向が見える場所を見つけた所で俺は音の主から一応身を隠すように柱の陰へ移動して、今もなおこちらに近づいてきている感じがする音源が何なのかを窺う。


『グオオオオォォォォォ!!』

「っつ!?」

 そして聞こえてきた咆哮と、その咆哮を放った存在の姿に、その存在の行動に俺は思わず柱の陰で体を抱え、出来るはずもないのに呼吸も心臓の鼓動も何もかもを止めようとしてしまった。


『ガギッ、グジャ、ムジャ……ゴリッゴリッ』

「…………」

 その存在は簡単に表すのならば、翼の生えた巨大な蜥蜴と言う物であり、その身体は様々な瓦礫で作られていた。

 その存在は長い首と大きな口を動かすと、俺が最初に居た部屋を含めたこの建物の上層部を齧りとり、口の端から瓦礫の一部を零しながら食べていく。

 その存在と同じ姿をした生物が一般的にどう言われるのかを俺は知っている。

 それは現実には居ないとされてきたもの。

 お伽噺や物語、ゲームの中でだけ存在が語られてきたもの。

 恐怖や厄災の象徴であり、悪魔とも同一視される幻想上の存在の中でも最強の一角を占めるとされる化け物。


『グオオオオォォォォォ!!』

 ドラゴンだった。

02/25誤字訂正

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