第299話「M5-16」
「……」
ロノヲニトの作った通路は、正確に言えば巨大なパイプの中と言った方が正しかった。
尤も、ただ真っ直ぐでなだらかなパイプが続くだけなら、【竜頭なる上】による地形把握と【威風なる後】による飛行に集中する必要は無かっただろう。
「ーーーーーーー!」
はるか後方から片目の蛇の叫び声の様なものが聞こえてくる。
どうやら奴もこのパイプには苦戦させられているらしい。
まあ、それも当然の事だとは思う。
『ハルハノイ。大丈夫か?』
「今の所は……っと!」
「ーーーーー!?」
俺は【不抜なる下】の能力を片足だけ発動すると、その足を支点として無理矢理進行方向を変更し、直角に進行方向を変更する。
その直後に聞こえてくるのは激しい衝突音と、片目の蛇の声。
うん、本当に俺も片目の蛇も苦戦させられている。
「えーと、次は……」
『右に90°。その次はカーブだな。ああ、途中パイプ表面が波打っている場所もあるから気を付けろ』
と言うのも、ロノヲニトがこの通路を造る際の話だが、まずノクスソークスにこれ以上のダメージを与えないように注意して通路を作る必要が有った。
これ以上のダメージを与えると、場合によってはノクスソークス全体が自重を支えきれなくなって倒壊する恐れもあったからだ。
まあ、この点については最初の突撃でやり過ぎた俺が悪いので、とやかく言う事はない。
「りょうか……うおっ!危なっ!?」
「ーーーーーー!?」
俺は突如通路のスペースが半分ほどになった事に驚きつつも、何とかスピードを緩めずに、その後の蛇行した通路も含めて通過することに成功する。
その後に聞こえてきたのは?
当然、片目の蛇が発した音である。
『大丈夫か?』
「何とか……な!」
問題はこの通路の幅が途中で突然変わったり、平然と直角の曲がり角どころか、120°程度のカーブが用意されていたりすると言う点である。
その凶悪さたるや、事前にロノヲニトから地図を貰い、片目の蛇よりも小回りが利く俺でも、一切の油断が許されない程である。
だが、このように通路がなってしまっているのも、やむを得ない理由があっての事である。
『すまないな。ハルハノイ。我の力ではこれが限界だった』
「分かってるての」
と言うのも、ロノヲニトが出来るのはその場の近くに在る金属を取り込んで、成形する事までであり、無から物質を作る事ではないのだ。
なので、前述の理由に加えて、通路製作時の製作地周辺の状況、片目の蛇が逃げられないようにしっかりとした強度を有する通路を作り出すと言う事情も加味して考えると、必然このように複雑な通路を造らざるを得ないのだ。
「それに、この複雑さのおかげでアイツは俺に追いつけないしな」
『それは……そうだが』
ちなみに、現在ロノヲニトは俺の防護服から分離しており、この場には居ない。
今頃は最初の部屋に戻って、適当な体を作った後にこの通路に繋がる穴の閉鎖と、施設の被害者たちの保護をしているはずである。
本人は別れて行動することに対して抵抗があったようだが……俺がこの先やろうとしている事を考えたらな。
万が一を考えて手を打っておくことは必要だと思う。
『ああ、そこから先は完全な暗闇になるぞ。気を付けておけ』
「分かった」
なお、この通路には照明が殆ど存在しないのだが、その点についてはさほど問題はなかったりする。
【竜頭なる上】には暗視能力は勿論、赤外線や紫外線と言った可視光領域外の光を見る機能も一応はあるし、推進力に回していない分の【威風なる後】を前方に向ければ、通路の形状を把握することぐらいは出来る。
それでも移動する速さの問題で、かなり先の地形まで先に地図で確認して、身体の向きなどを予め調節しておく必要が有るわけだが。
「と、そろそろか」
やがて、ゴーグルに表示されている地図に通路の終わりが表示されるようになってくる。
正直やっとかと思う。
ただ……正直に言わせてもらいたい。
「上上下下左右左右ビ……じゃなくて宙返り!螺旋!急降下ああぁぁ!」
上下左右の感覚が怪しくなるほどに複雑な通路にする必要はあったのだろうか?
通路の終わりが近い事も併せて、少々疑問に思いたくなる。
後、何処か聞き覚えのある並びなのもちょっとツッコミを入れたくなる。
「ーーーーーーー!?」
後方に居るはずの片目の蛇は?
何となくだが、怒っている気もする。
まあ、暗視能力があるとは思えないしな。
「見えた!」
と、ここでようやく俺の視界に通路の終わりである壁が見えてくる。
「【苛烈なる右】!」
俺は前方に向かって伸ばす形で【苛烈なる右】を起動。
俺が要求した通り、通路の終わりの壁は難なく破壊され、その先にある大量の瘴気によって視界が埋め尽くされる。
「【不抜なる下】【堅牢なる左】【堂々たる前】」
そして、通路を僅かに抜けた瞬間、俺はその場で体の向きを反転させ、【不抜なる下】で身体の位置を固定。
続けて、【堅牢なる左】と【苛烈なる右】通路の出口を埋めるように配し、【堂々たる前】の力で両腕を一時的に融合させる。
体勢が整ったところで両腕の出力を上げ、【威風なる後】で周囲の瘴気を集めると同時に、両腕の力場と重ねあわせるように圧力場も展開。
「さあ……」
片目の蛇よ。【シンなるオウ】よ。
俺の準備は整ったぞ。
「来い!」
俺の事を食えるものなら食ってみるがいい!
「いてあつぁんdきlls!」
そして、俺の展開した力場と片目の蛇の頭がぶつかり合った。
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