第296話「M5-13」
「「gyhぢょおjg!!」」
二つの肉片がそれぞれ別の方向から俺に跳びかかってくる。
「まずは……お前だ!」
対して、俺は二つの肉片の攻撃を避けると、【威風なる後】の圧力場を発生させる。
ただし俺に跳びかかってきた肉片では無く、既に体を動かすためのエネルギーも尽きて、本当にただの肉片になっている肉に対して、周囲にある空気ごと圧力をかける。
「よしっ」
すると、空気が圧縮されることによって熱が発生し、その熱によって肉片が燃え始める。
そして、燃え始めても維持されている【威風なる後】の圧力場によって、発生した炎に大量の空気が送り込まれ……肉片は瞬く間に焼け焦げ、燃え尽きる。
「gじょういftr!」
「hぎゅいうdr!」
「次は……お前だ!」
再び二つの肉片が飛びかかってくる。
が、【シンなるオウ】入りの奴含めて、コイツらは後回しだ。
俺は同様の方法でもってまだ活動している肉片を焼くと、【苛烈なる右】を床の上で黒こげになっている肉片に向けて伸ばす。
当然、直接触れることはせず、爪の上に展開されている力場だけで肉片に触れるようにしてだ。
「おらぁ!」
そして、二つの肉片の攻撃を避けつつ、【苛烈なる右】を支点として回転。
黒こげになった肉片を【苛烈なる右】の力場によって分解、粉になるまで磨り潰す。
「体に異常は……」
「ぎょおrrzsr!」
「げあえっいぉp!」
「ないっ!」
ただ、力場だけでとは言え、【苛烈なる右】で肉片に触れた事は確か。
と言うわけで、俺は念のために【堂々たる前】の効果で、体に異常がないかを調べ、今のところは異常が無い事を確認する。
「だったら、どんどん分解させてもらおうか!」
「「んhkmdれええ!!」」
さて、これで普通の肉片については問題ないことが出来た。
ならばまずは、奴らが保有している武装含めて、全てを分解することとしよう。
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「さて、そろそろ頃合いか。ロノヲニト、きっちり防御しておけよ」
「分かった」
「きydrrわえt!」
「あdhyrづいt!」
【苛烈なる右】と【威風なる後】の能力による肉片の分解を始めてからしばらく経った。
相変わらず、青い目と赤い目を持った二つの肉片は元気に攻撃を仕掛けて来ている。
が、他の肉片は【シンなるオウ】を含んだもの以外は悉く分解済みであり、部屋の中には所々黒い粉のような物が散らばっている。
「さて、どうなる……」
「「!?」」
俺は【威風なる後】の能力でもって、部屋中の粉を滞空させるように巻き上げる。
「かな!」
そして、全能力を開放することによって防御力を高めると同時に、【威風なる後】を自前の魔力で通常出力に引き上げる。
で、【威風なる後】の圧力場によってほんの僅かな量の火を一瞬だけ空中に発生させる。
「「「ーーーーーーーーーー!?」」」
視界が爆炎で、聴覚が爆音で埋め尽くされる。
全身の皮膚に少なくない量の熱が襲い掛かり、体中の空気が吸い尽くされるように空気が消費され尽くされる。
そうして残るのは……
「ゲホッ……ちょっとやり過ぎたな」
「無茶をする……」
まずは俺とロノヲニト。
まあ、自分の攻撃で死んでいたら世話ないので、当然なのだが。
「で、アレは当然残ってると」
次に【シンなるオウ】を含む肉片。
こちらはほんの僅かな間だけ黒焦げていたが、直ぐに内側から新鮮な肉が溢れだしてきて、元の姿に戻ってしまった。
まあ、本来の俺を維持できるだけのエネルギーを供給できるような何かだからな。
このぐらいの攻撃に耐えられるのは想定の範囲内だ。
「アチラは……どうなのだ?」
「さあな。しばらく様子を見ない限りは何とも言えないと思う」
で、赤の目と青の目を持つ肉片についても、全身黒こげになっており、今のところは動く気配はない。
出来れば、これで終わってもらいたい所ではあるな。
「しかし粉塵爆発か……」
「ああ、威力は見ての通りだ」
で、俺が何をやったかと言えば、ロノヲニトの言うとおり、粉塵爆発を起こしただけである。
ただし、普通の粉塵爆発と違って、【苛烈なる右】の分解と【威風なる後】の圧力場によって異常とも言える量の水素、炭素、酸素、その他諸々の人間の肉体を構成するために必要な原子を部屋中に配置した上でだが。
と言うか、厄介極まりない事に、ただ肉片を分解するだけだと、アイツ等は普通に呼吸に合せて空気中の原子を吸い込んで、自分の肉体にするんだよな。
出来ても違和感はないが。
「さて……」
でまあ、それならばと言う事で。
空気中の原子を吸い込む行動を逆に利用させてもらって、身体の中まで確実に焼くべく粉塵爆発と言う手段を俺を取った。
言ってしまえばただそれだけの事だ。
「ぎぃljj……」
「kぃrわs……」
俺は二つの肉塊の方に目を向ける。
するとそこには、卵の殻のようになった黒い肉を脱ぎ捨て、中からあふれ出してきた二つの肉片が居た。
その中心部には、しっかりとあの目が存在し続けている。
「やっぱり終わらなかったか」
恐らくは、爆発の直前に体内奥深くに目を潜らせることによって、回避したのだろう。
「ただまあ……」
だがそれは一つの事実を示している。
「お前らの本体はその目だってことだな」
わざわざ爆発から守ったと言う事は、その意思の核になっているのは赤い目と青い目。
その二つが無ければ奴らは存在できないと言う事である。