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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
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第293話「M5-10」

「ヒハハハハ!力だ!力が漲って来るぞ!」

 灰汁の変化は直ぐに始まった。

 灰汁の全身から今までは桁違いの量と密度でもって魔力が噴き出してきたからだ。


「ハルハノイ!何故動かない!?」

 そして、灰汁が俺の能力を収めたデータを無理矢理読み込み始めたからだろうか、俺の視界にも若干の変化が生じる。


「動く必要が無いからだ」

 おぼろげに見えてきた……いや、感じ取ったのは、灰汁が読みこんでいる俺の能力の名称。

 その名は【シンなるオウ】。


「見ろ!羽井!こんれが俺のんぢからだ!!」

 能力は……灰汁の様子を見る限りでは、大量の魔力を全身に供給する事で正解だろうな。

 それならば、ここに来るまでに目を通した研究資料の内容……【シンなるオウ】の力の一部を手にした人間は全身の筋力が強化されたとか、異常なまでのタフさを手に入れたとか言う記述にも納得がいく。


「動く必要が無いだと!?ハルハノイ!それで何かが有ったら……」

「その何かもあり得ねえよ。今回に限っては間違いなくな」

 そして【シンなるオウ】の能力が理解できたからこそ、俺は更なる哀れみの目を灰汁に向ける。


「なるだその目うぇはあぁ!」

 どうやら、灰汁もようやく俺が向けている視線の意味を察したらしい。

 俺の事を非難する声を上げる。


「ロノヲニト。素直な感想を言ってくれ」

「……何だ?」

 だからワザと無視して、ロノヲニトに質問する。


「おっおでのごどをそそんな目で見るなぁ!見るんじゃあぁねえぇ!!」

「今のアイツは力を制御できていると思うか?」

 今の奴が【シンなるオウ】を御すことが出来ているのかという質問を。


「……そうは思えないな」

「折るでの事を……」

 そして、ロノヲニトが答えた通り、灰汁が【シンなるオウ】を御せているとは到底思えなかった。

 なにせ、灰汁が【シンなるオウ】を制御できるのであればだ。


「哀れむん用舐め目で見るウウじゃねえぇええぇぇ!」

 間違っても、過剰に与えられたエネルギーによって全身が醜く膨れ上がる事は無いだろう。

 全身の体毛を乱雑に伸ばし散らし、両手両足の爪が異常なスピードで伸びる事も無いだろう。

 口の端から涎を垂らし、油と唾に塗れた舌の為に呂律が回らないと言う事も無いだろう。

 制御しきれない魔力が勝手に変換されて電撃になる事も、膨れ上がった身体によって視線の高さが変化したことに気付かないと言う事も無いだろう。

 そして、本当に【シンなるオウ】を制御できているのであれば……


「真るねえええぇぇやあぁぁ!羽井いいぃぃ!」

「本当に哀れだな。灰汁」

 攻撃をしようとした際に……


「ひぎいやあああぁぁぁ!?」

 己の身体が攻撃の反動にすら耐えられないと言う致命的な状態に至ることなどありえないのだ。


「売るでガアあぁぁ!?折るでの売る出があぁぁ!?」

 己の腕から発した電撃によって、左腕の肘から先が吹き飛んだ灰汁が、真ん丸に膨らんだ巨体をゆすってその場でのた打ち回り始める。


「全くもって哀れと言うしかないな」

「そうだな」

 灰汁が放ったのは、強力な電撃による攻撃だった。

 しかもそこには、心臓と脳の働きを停止するような命令が含まれていた。

 決まれば、俺でもただでは済まなかっただろう。

 だが所詮は少々特殊な命令を含むだけの電気。

 灰汁が自爆したのもあるが、【威風なる後】で電気の通り道を予め作っておけば、なんという事も無く防げる程度のものでしかない。


「しかし、これで灰汁がどうやって他の人間を操っていたかは分かったな」

「ああ、今の命令付きの電気なら、ハルハノイの鱗と合わせれば色々できてもおかしくはないだろう」

 そして、今の攻撃で確定した。

 やはりコイツが今回の件の主犯であると。


「あぎいぃやぁぁ!?ひぎぃぃいやぁぁ!?」

 故に見逃すことなくこの場で確実に仕留めなければいけないのだが……、ここまで来たら、殺してやる方がよほど救いかもな。


「売る出があぁぁ!?ナンデ!?何で生えて端げるのぉ!?ぎい、ぎがあぁぁ!?」

 なにせ先程の攻撃で左腕が吹き飛んだ灰汁は今、傷口から複数の左腕が生えては弾け飛び、弾け飛んだ際に生じた新たな傷口からは全身の部位がランダムに生じては弾け飛ぶと言う、地獄の責め苦にも匹敵する様な状況に至ってしまっているのだから。


「ただまあ、こうなったら、殺す手段はそう多くないだろうな」

 俺は飛び散る肉片と血飛沫を【威風なる後】の圧力場で防ぎつつ、試しに灰汁の脳幹を直接叩き潰すように圧力を生じさせてみる。


「おぎょ!?ぐぎごげごここtrtsvんhkrvxふゅtれ」

「あ、駄目だなこりゃあ」

 間違いなく灰汁の脳みそは潰した。

 が、最早灰汁の意思など関係ないと言わんばかりに、灰汁だった肉塊は平然と再生と崩壊を続け、周囲に肉塊と血の雨を降らせ続ける。


「あー、こりゃあ、別の意味で失敗したかもな。ある意味では正解だったかもしれないが」

「ハルハノイ?」

 既に手足の数は十を超え、手から次の腕が生えるような状況になっている。

 口や耳、鼻、目と言った物も合計すれば百以上生じている。

 【竜頭なる上】の力で感知した限りでは、内臓……脳も含めて、全ての臓器が複数生じているようだ。

 だがまあ、そんなのは問題ではない。

 面倒ならば、【苛烈なる右】の力場で無理やり消し飛ばせばいいだけの事だ。

 問題は色とりどりの知性が欠片も存在しないような目の中に、二つだけ知性を感じられる目がある事。

 そして、その目の色が赤と青の二色であると言う事だ。


「さて……」

「あwsxcvfghっゆいjくytf……」

 俺の目とその二つの目が合う。


「予定調和が無くなった気分はどうだ?」

「gyてゅjきmbdrk;。、85fghdszせ!!」

 そして、その目の意思に応じるように、灰汁だった肉塊は俺に向かって跳びかかってきた。

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