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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】

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第292話「M5-9」

「こ、殺せええぇぇ!」

 奴が叫ぶと同時に兵士たちが銃の引き金を引く。


「そんなものが効くか」

 放たれた弾丸の数は百を超える……が、何の問題も無いな。


「「「ぎゃっ!?」」」

「「「がっ!?」」」

「「「いぎやあぁ!?」」」

「ふん」

 ただ真っ直ぐ飛んでくるだけの弾丸なんて、押し返すだけなら【威風なる後】の圧力場だけでも十分すぎるほどだ。

 その上、今の俺には【竜頭なる上】がある。

 この両者を併用すれば、飛んできた弾丸の進路と速度を自由に変更し、銃を撃った当人の手足を着弾の衝撃でショック死しない程度の威力で撃ち抜くことなど造作もないことだ。


「熱い!?あぢゅいいぃぃ!?」

「げぼっ、がぼっ……」

「あぎ……ぎゃ……」

 さあ、精々苦しんで死ね。

 わざわざ高熱弾や有毒弾と言った瘴金属を利用した弾丸を使うんだ。

 自分たちにそれが向けられることぐらいは想定していただろう?


「さて……」

「う、うわああぁぁ!」

 恐怖心に駆られたのか、研究者の男の一人が俺に向けてラッパ型の銃口を向け、煙状の何かを放つ。

 正体は……まあ、毒ガスだろうな。


「畜生があぁぁ!」

「死ねエェェ!!」

「消し飛びやがれええぇぇ!」

 そして、その一人に触発されるように他の研究たちも、それぞれ手に持った者を俺に向けてくる。

 高周波ブレードに超高熱槍、高速回転する鉄球その他よく分からん物品多数か。

 まあ、屋内で使う以上、指向性ぐらいは持たせてあるだろうが、一斉に放つとは暴発が怖くないのか?


「ま、どれも効かないし、ついでに言えば……」

 毒ガスは【威風なる後】の圧力場で掻き集め、【苛烈なる右】の力場で分解してしまえば、どんな成分だろうと関係ない。

 高周波ブレードも【堅牢なる左】の斥力場で触れずに弾けばいい。

 残りの物品に至っては、そもそも今の俺の身体を傷つけられるような威力は有していないので、【不抜なる下】の尾で絡め捕り……、


「良い弾をありがとう。畜生共」

「「「!?」」」

 投げ返してやればいい。

 ただそれだけで俺に対して攻撃を仕掛けた研究者たちは、即死はしないが、致命傷となる傷を負う。

 勿論、ワザとそうなるように加減してやったのだが。


「さて……」

 俺は奴の方に顔を向ける。


「ひっ……」

 それだけで、奴は怯え震え、一歩後ずさりする。


「これで後はお前だけだな。さてどうする?灰汁シュウ」

 俺は敢えてその場から動かず、自身の顔に浮かべた笑みを禍々しく、狂気的なものへと変化させる。

 それこそ、かつて夢の中で見た『神喰らい』エブリラ=エクリプスの笑みのように。


「ひ……あ……」

 俺がしたのはただそれだけだ。

 だが、それだけで、奴は更に一歩二歩と後ろに向かって足を動かす。


「何も無いのか?」

「あ……え!?」

 やがて奴の背中は部屋の壁に着き、それ以上退く事は出来なくなってしまう。


「おいおい、わざわざこの施設に逃げ込んだって事は、俺に対抗できるような何かが有るから、逃げ込んだんだろう?早く見せてみろよ。真正面から堂々と、完膚なきまでにぶっ潰してやるからよう」

「ひあ……」

 威圧する俺から必死に視線を逸らしつつ、奴は懐からカードキーのような物を取り出す。

 ああそう言えば、この部屋には俺が入ってきた通路とは別に脱出用の隠し通路が有ったな。


「やっ……ひらかない……!?」

 そんなもの最初にロノヲニトが潰したに決まっているが。

 ついでに言えば、奴のカードキーはマスターキーのようだが、カードキー関係はとっくの昔にロノヲニトが権限を奪っているので、例え通路が無事でも開かないのだが。


「まったく……」

「何か何か何か何か何か……」

 奴はその場で蹲り、頭を抱え込み、何か手はないかと必死に考え始める。

 だがまあ、そんな考えてやっと出てくるような手を待っているだけの暇は流石に無いし、そもそもそうやって考えなければ手が出て来ないと言う事は、事前に考えて用意した手は既に尽きていると言う事だ。


「興ざめだな」

「ブツブツ……(俺は選ばれし者なんだ。何でも出来るんだ。この世界はゲームで、俺は主人公なんだ。だから何をやったって許されるし、出来ない事なんて何も無いんだ。出来る出来る出来る出来る出来る……)」

 やれやれ、威圧し過ぎたか?

 奴の目には完全に俺の姿が入っておらず、小声で痛い妄想を呟き続けている。

 まあいい、もう何も手が無いと言うのなら……


「ハッ!そうだ!俺にはこれが有ったんだ!」

「ん?」

「ヒャハハハハハ!残念だったなぁ!羽井!お前がどんな力を持っていようが、これに勝つ事は出来ない!絶対にだ!!」

 と、ここで突然奴が立ち上がり、懐から今度はゴーグルのような物を取り出す。

 ゴーグルに刺さっているのは……例の赤と青の二色で彩られたUSBメモリ。

 もしかしなくても、俺の能力が入っているUSBメモリだろう。


「見ていろ!羽井!俺は……俺は……」

 奴がゴーグルを頭に着け、起動させる。

 なるほど、そのゴーグルは俺が身に着けているのと同じ、高速でデータの内容に目を通すためのものか。


「おい!ハルハノイ!黙って見ていていいのか!?」

 ロノヲニトが警戒の声を上げる。

 まあ、心配する気持ちは分かる。

 此処の研究成果からして、部分的になら俺の力を奴らが扱えるのは確かだし、力の種類によっては俺に手傷を負わせられる可能さえもあるのだから。


「何の心配もする必要は無いな」

 だが俺からしてみれば、灰汁シュウが俺の力に……それも最後の力に手を出した事に対して抱く感情は哀れみしかなかった。

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