第291話「M5-8」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
研究所の探索は順調に進んでいる。
「イヤアアァァ!来ないでぇ!来ない……で!?」
勿論、探索が進むうちに目標である奴以外にも、ノクスノークスの兵士や、施設に囚われていた住民と遭遇することもあった。
「死……ねぎゃ!?」
が、何の問題もない。
「あー……」
今の俺を止められる人間などまず居ないのだから。
「あ、あの、付いて行っても……」
「邪魔だから来るな」
加えて、遭遇した人間への対応も既に定めてあるので、その分だけ探索のペースは上がっていた。
具体的な対応としては……ノクスソークスの現王側と見られる人間が現在進行形で誰かに向けて刃物や銃器を向けているなら、【威風なる後】の圧力場でもってノータイムで潰して始末。
それ以外の人間については、ノクスソークスの兵士の服装をしていても気絶させるか、何処かの部屋の中に時間で解除されるロックを掛けた上で閉じこもっておいてもらう。
「実際、シュウ・ハイジルだったか。奴相手に普通の人間が居ても、操られて寝返るのが関の山だろうな」
「そうでなくとも、捕えられていた側に化けている敵と言う可能性が排除できないからな。居ても探索の危険性が上がるだけだ」
そうして探索を進めている内に出たのは、研究所に働く研究員の私室と思しき部屋が並ぶエリアだった。
「うっ……今まで以上に酷いな」
「そうだな。確かに酷い」
そこは今までのエリアが可愛く見えるような酷さだった。
なにせ、何処の部屋にも最低一人はそこに住む研究員の玩具にされていたであろう人間が放置されており、マトモな姿と精神状態で部屋の中に居たのは片手で数えられる程度の人数だったのだから。
いや、放置で済んでいるのなら、まだマシか。
中には少女の剥製を何体も飾ってある部屋とかもあったしな。
しかも、使用した痕跡も残ってた。
「これは前言を撤回しないといけないかもな」
「と言うと……」
「ここの研究者たちは狂ってる。だから、あんな研究を成功させることが出来た」
「……」
「この施設の狂気が元からなのか、研究対象に影響されたのかは知らないけどな。だが、仮に研究対象に影響されたのだとしたら、コイツらはただ利用されたって事だ。イヴ・リブラ博士にな」
「……。確かに……エブリラ様ならこれぐらいはやるかもな……」
俺の言葉に渋々と言った様子でロノヲニトは肯定する。
実際、かつてかなり大規模な人体実験を行っていたイヴ・リブラ博士なら、この施設と同等かそれ以上の非道な振る舞いは平気でするだろう。
それが必要な行いであるのならば。
「で、ここが最後か?」
「あ、ああ。我がマッピングした限りでは、ここが最後の部屋だ」
さて、そうこうしている内に、俺は施設内最後の部屋に辿り着く。
今まで始末した連中や、部屋の中に留まってもらっていた人間たちの事を考えるのなら、この研究所内に残っている奴に与する人間は全員この部屋に集まっていると考えていいだろうな。
ついでに言えば、痕跡として誰かが居たのは間違いないのに、その姿が見えなかった人間たちも……まあ、集められているだろうな。
壁として。
「俺の能力については?」
「痕跡は有ったが、念入りに消されていた。今この場で復旧させるのは難しいな」
「分かった」
で、ここに来るまでの間、研究所内のネットをロノヲニトに調べて貰っていたのだが、どうやら状況は芳しくないらしい。
だが、痕跡があったのであれば、この研究所で【竜頭なる上】とは別に俺の能力が研究されていた事はまず間違いないと思っていいだろう。
そして、その成果と、成果から予想される残された能力の内容は……まあ、何となく想像が付くな。
上下左右前後と揃ってるし。
「さて、行くか。念の為にロノヲニトは自分の身を守る事に専念しておいてくれ」
「分かった」
いずれにしても、ここで待機していても状況は動かない。
俺はそう判断して、目の前の扉に手を掛ける。
「……」
俺はゆっくりと扉を開け、部屋の中に足を踏み入れる。
「動くなあぁ!羽井!!」
部屋の中に居たのは?
奥から順に、仮面を外した灰汁シュウ。
妖し気な笑みを浮かべて妙な道具を構えている数名の研究員。
対人用と思しき銃を構えた十数名の兵士。
そして、一糸纏わぬ姿の少女が数名。
その中には赤紫色の瞳をした顔見知りの少女も混ざっており、いずれの少女にも酷い暴行の跡が見られ、その目には生気の欠片も無かった。
「……」
「動くんじゃねえぇぞ!羽井!動けば、こいつらがどうなるか分かってんだろうな?」
ああなるほど、自分の能力で操った少女たちを人質にしているつもりなのか。
「さあまずは、お前の身を守っているその能力を解除してもらおうか?ひひひひひ……」
確かに有効な策ではあるな。
「はぁ……馬鹿かお前は?」
「なっ!?」
俺に少女たちを助ける能力が無いならばの話だが。
「お前はこいつらが……」
「ふん」
「なっ!?」
「「「!?」」」
俺は【威風なる後】の圧力場で少女たちの周囲に圧力場を張って保護すると同時に、彼女たちの体内に仕掛けられていた各種仕掛けを破壊。
その後、部屋の外に追い出すと、ロノヲニトに合図を出して扉を堅くロックする。
「さて、これで人質は居なくなったな」
俺は撃ってみろと言わんばかりに両腕を広げ、男たちに格の差を見せつけるように一歩踏み込む。
「そんな……馬鹿な……」
「スイッチが反応しない!?」
「く、くそっ……」
そして、その上で言ってやる。
「次はどうする?さあ見せてみろよ。全部撃ち破って、じっくりと理解させてやるよ」
「「「ひっ……」」」
「お前らが何をしてきたのか、何に挑んでしまったのかをな」
お前らに残っているのは絶望する権利だけだと。
12/08誤字訂正