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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
290/343

第290話「M5-7」

「もういいぞハルハノイ。処理は完了した」

「分かった」

 ロノヲニトの言葉を受けて、俺は目の前の扉脇の壁から手を離す。

 これで、この先の区画の出入り口はここだけになり、外壁を破壊して脱出しようと思うのなら、俺の【苛烈なる右】のような能力か、『崩落猿』のパイルバンカー並みの破壊力を有する兵器が無ければ不可能になった。

 そして、ここの扉も俺が中に入り次第、封鎖される。

 奴らが転移装置のような物を保有している可能性?

 流石にそれは無いだろう。

 もしも転移装置を持っているのなら、奴なんていらないしな。


「で、中の状況の方は?」

「やはり分からなかった。どうやら、妙な力によって外部からの接続は阻害されているようだ」

「ふうん……」

 で、可能ならばロノヲニトの能力でもってこの先の施設を完全に制圧してしまいたかったのだが……流石にそうは問屋が卸さなかったか。

 これはもしかしなくても、俺のもう一つの能力が関わっているのかもな。

 それならロノヲニトの能力が通用しなくても納得はいく。


「ま、それなら入口から順に制圧していくか。ロノヲニトの方はそのままネットの方をよろしく」

「分かった」

 俺は【苛烈なる右】を目の前の扉に突き刺すと、鋼鉄製と思しき扉をまるで紙でも引き裂くように破壊する。


「瘴気!?」

「逃走防止用ってところか」

 破壊した扉の先から流れ出してきたのは大量の瘴気。

 なるほど、何も知らずにこの施設を攻略しようとすれば、カウンターとして瘴気が攻撃してきた人間を。

 中の人間が逃げ出そうとすれば、最後の壁としてその行く手を阻むと。

 まあ、瘴気をエネルギー源に出来る俺には関係ないな。

 このまま流れ出てノクスソークスの一般住民が巻き込まれても嫌なので、【威風なる後】の出力を上げて瘴気が漏れ出るのを抑えつつ、施設中の瘴気を吸い上げるぐらいはしておくが。


「ほいっと」

「「「!?」」」

 で、施設内の瘴気が尽きた所で正面の施設内に続く次の扉に向けて【威風なる後】の圧力場を発射。

 扉の向こうに控えていた兵士たちごと吹き飛ばす。

 兵装は……分からないな。

 全部潰れちまったし。


「まあいい、ロノヲニト。行けるか?」

「目の前の通路を封鎖するぐらいなら問題なく出来そうだ」

「じゃあ、よろしく頼む」

 そうして俺は分かれ道を入口の壁と同レベルの壁でロノヲニトに封鎖してもらいつつ、施設の探索を進め始めた。


-------------


「どこもかしこも酷いな……」

「ロノヲニトがそれを言うのか?」

 施設内を探索し始めて十数分。

 既に俺はこの施設がどのような場所か掴み始めていた。


「いや、酷いだろう。これは」

「まあ、酷いのは確かか。倫理観が欠片でも有れば、こんな状況になっているとは思えないしな」

 ここはノクスソークスの圧政に反抗した人たちを強制的に収容する施設であると同時に、USBメモリに収められた俺の能力を研究するための場所だ。

 そう、強制収容施設と未知の力の研究所。

 これほど一つにまとめてはいけない組み合わせも早々無いだろう。


「だがまあ、これで説明が付くな」

「奴らがハルハノイの力を極僅かにではあっても、使いこなしている事がか?」

 俺は襲い掛かってきたノクスソークスの兵士たちの首を、指の振りに合わせて発動させた【威風なる後】の圧力場で刎ねつつ、目の前の光景に軽く溜め息を吐く。


「ああ、ただの人間に俺の力を扱う事なんて出来るはずがないからな。だから、どうやってあれだけの人間に使わせられるだけの研究を進めたのかは多少気になっていた」

「……」

 そこに並んでいたのはホルマリン漬けにされた人間の内臓や脳。

 生きた人間の解剖写真と映像。

 その他諸々、各種研究資料と思しき物。

 まあいずれも、表には決して出す事は出来ないであろう代物だった。


「何てことは無い。何百何千と言う犠牲を重ねて、どうやれば使えるのか。どうなったら死ぬのか。そして、力を得たならば、どれだけの効果があるのかを研究していっただけの事だったわけだ」

「だが……」

 そして、得た力の試験対象として殺されたであろう人間の写真に、研究が終わった後に余った人間たちをどうしたのかと言う処分内容を綴った文章。

 こちらはもっと酷いな。

 平然と性処理に使ったとか、拷問して殺したとか言う文章も並んでいるし。


「許される事でないのは確かだな。だが、俺としてはだ。よくもまあ、この程度の犠牲で実用化して見せた物だと幾らか感心したくもなるんだよ」

「……」

 ロノヲニトは何か言いたそうにしている。

 が、この研究所の研究成果とその能力については素直に感心するべきだろう。

 それだけの研究成果がここには並んでいた。


「ハルハノイ。他に何か思う事は有るか?」

 と、こらえきれなくなったのか、ロノヲニトがそんな言葉を口走る。

 思う事……ね。


「そうだな……ここに在る研究成果を使って、奴らを潰してやったら、犠牲になった連中も多少は報われるんじゃないかとは思ったな」

「そうか」

 今となってはここに在る研究成果を使えるのは俺だけだ。

 となれば、俺が使うしかないだろう。

 奴らにイヴ・リブラ博士が造った兵器の真価がどれほどの物なのかを見せつけてやるために。

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