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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第29話「基礎訓練-2」

「監視員……まあ、そう言う役割も含まれてはいるでしょうけど、一応の名目上はそこに書いてある通り、貴方たちの知識や思想が26番塔のそれに片寄らないようにするための補佐役よ。この家に住むのも、複数人選出されるのもそう言う事情からね」

「「……」」

 驚いた俺と雪飛さんを諭すようにブルムさんは優しくそう言うが、そう言うブルムさん自身何処か諦観に似たものを表情ににじませていた。

 どうやら、無理矢理捻じ込まれたと言う言葉に間違いは無いらしい。


「それにまあ、今のダイオークス全体の方針として、貴方たちに協力する事になっているし。具体的な人員の選出についても殆どまだ未定だから、少しでもハル君たちに対して好意的な人物を選ぶようには働きかけては見るつもりだから、そこまで心配しなくても大丈夫よ」

「そうだと良いんですけど……」

「……」

 ブルムさんは胸を張ってそう言う。

 こうなると、ここはブルムさんたちを応援して頑張ってもらうしかないのかもな。

 それにだ。

 実際問題として、俺たちに監視役が付いても、今のところは煩わしいだけであって、何もやましいところが無い俺たちとしては、周囲が妙なちょっかいを出せない分だけ有益なのかもしれない。

 先々まで問題にならないとは言い切れないけれど。

 そうやって自分の頭の中で考えを纏めて、納得させようとしていた時だった。


「ただ、ハル君には嬉しいけれど、同時にきつい事になるかもしれないわね」

「へ?」

「いやね。たぶんだけど、補佐役として選出される子って女の子なのよね」

「え!?」

「……」

 ブルムさんからそんな言葉が出て来て、雪飛さんが大きく目を見開いて驚いたのは。

 そして同時に思い出す。

 外勤部隊の試験を受けた日の昼休みに出会ったワンスさんの言葉を。

 そうだ、あの時ワンスさんは……『『救世主』様()の異性に対する嗜好を知りたがっているようだった』と言っていたはずだ。

 そこから考えられるのは、俺と良い付き合いをしたいと言うのと同時に、俺を籠絡して自分たちにとって都合のいいように動かしたいと言う意図。

 いや、それだけじゃないな。


「知っているとは思うけど、特異体質って言うのは遺伝する事が多いものだから」

「あの……もしかして……」

 そう、確率は決して高く無いものの特異体質は遺伝する。

 現にオルガさんの怪力は母親から受け継いだものだと言うし、ダスパさんの特異体質も祖母から受け継いだものだと聞いている。

 つまりだ。

 俺の元に女性の補佐役を送り込む第三の意図は……


「つまり、俺の特異体質を受け継いだ子供が欲しいって事ですか……」

「ええ、そうなるわね」

「!?」

 間接的に表現すれば、瘴気を無効化できる人間を増やすためだ。


「そ、そんな事していいんですか!?そ、そんなの……」

 雪飛さんが机の天板を叩きながら、ブルムさんに詰め寄る。


「困ったことに、ダイオークスの法的には問題ないのよね……」

 そう言うとブルムさんはダイオークスの出産や人口に関する話の一部を俺たちに話してくれた。

 ブルムさんの話によればだ。


・ダイオークスでは食料生産能力の関係から、ある程度の人口抑止制度が設けられている

・そのため、通常は夫婦一組につき二人の子供で、花街のような特殊な場所を利用にするにしても、成人一人につき子供一人と言うのが基本となっている

・当然ながら基本的には重婚も禁止

・が、特別な功績が認められた。もしくは見込まれる人員については複数人の伴侶を持つ事も、大量の子供を作る事が許可されている


 そして、俺の場合はと言えばだ。


「で、当たり前と言えば当たり前だけど、ハル君の瘴気無効化はどう考えてもその特別な功績に入る……と言うか、ハル君の能力が広まれば、世界がひっくり返るぐらい重要な能力って言うのは分かるわね」

「はい」

「それで、補佐役って言うのはどうしても関係が深い存在になるから……まあ、多少でも目ざとい部分が有れば狙って来て当然でしょうね」

「ですよねぇ……」

「…………」

 モロに最後の特別な功績が見込まれるに入ってしまうらしい。


「ま、まあ、さっきも言ったように出来るだけハル君に対して好意的な子を選ぶし、そうでなくともこのダイオークスで嫌がっている女性に対して無理矢理子供を作れなんて言う事は絶対にまかり通らないから、そこは安心しなさい。それに、好みの子が居たら……ゴホン。据え膳だと思っちゃえばいいんだし、出会いがどうあれ、その後に愛が育まれるかどうかは本人次第よ」

「……」

 ブルムさん。女性である貴女がそれを言うのはどうなんでしょうか……。

 その言葉に対して俺としてははいともいいえとも答えられずに閉口するしかない。

 ちなみにだが、ダイオークスの中では女性に対する性的暴行に分類されるような事件は殆ど起きないらしい。

 と言うのも、何でもその手の事件を一度でも起こせば、広いとは言ってもやはり閉ざされたコミュニティであるダイオークスの全域に対してあっという間に情報が広がり、犯人は社会的に抹殺されることになるのだか。

 ついでに言えば、この手の事件は場合によってはダイオークス全体の存亡に関わると考えられるために、基本的な教育の一つとして小さいころから徹底的に教育されるそうだ。


「まあ、嫌なら嫌とはっきりと断りなさい。それもまた男気と言うものよ」

「じー……」

「……。はい」

 そうして俺は雪飛さんの何かを非難するような視線を受けつつ、若干項垂れた感じでブルムさんに返事をした。

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