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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
285/343

第285話「M5-2」

「さて、ようやく来たようだな」

 その日、ダイオークスの中央塔塔長、ボウツ・リヌス・トキシードの聖陽教会教皇を始めとした各都市の代表者たちはそれぞれの執務室を専用の回線で繋ぎ、首脳会談を開こうとしていた。


『ふん。ようやく、朕に従う気になったか?愚か者共め』

 そして、そんなトップクラスに重要なはずの会議にさも当然のように遅れてきたのは、ノクスソークスの現王。

 名をサルファー・ソークスと言う。


『流石は現存する唯一の王家の末裔。冗談がお得意のようですな』

『今ので場も和みましたなぁ。はっはっは』

『いやはや、現王の冗談のセンスは何時聞いても素晴らしい物だ』

 サルファーに向けられる他の都市の代表者たちの視線は一様に昏く、侮蔑や軽蔑と言った意味合いの感情を含んでいた。

 だが、普段なら決して表に出さないのが当然であるそれを出すのも当然だと言えた。

 サルファーが今までにやって来たことはそれだけの行いだったからだ。


「単刀直入に言おう。ノクスソークス王サルファー・ソークス。君の指示のもとに、ノクスソークスの人間が我々に対して攻撃を仕掛けて来ている。もはや看過できないレベルでな」

『ほう、朕が関わっていると言う証拠でもあるのか?』

「勿論あるとも」

 ダイオークス中央塔塔長の指示によって、画面上に今までノクスソークスの工作員が起こしてきた数々の事件をまとめたファイルが、その証拠品と共に表示される。

 その中には、


・『春夏冬(ノーオータム)』がダイオークス滞在中に起きた襲撃事件

・飛行機ごとハルたちと『アーピトキア』の面々を誘拐しようとした誘拐未遂事件

・ボウツ・リヌス・トキシードで発生したエイリアス・ティル・ヤクウィードの誘拐未遂事件

・『崩落猿討伐作戦』中に起きたハル・ハノイ暗殺事件


 が含まれており、末尾には『世界同時多発無差別狂暴化事件』が載っていた。


『これはまた随分と朕にとって不利な証拠ばかり集まったものだなぁ。ここまで綺麗に揃っていると、逆に不安になると言う物だ』

『今更しらばっくれるか!』

『知らぬとは言わせんぞ!』

『いい加減に認めたらどうだ!!』

 だが、明確な証拠品と証言が提示されたにも関わらず、サルファーは余裕の笑みを浮かべ続け、その態度に数名の代表者が思わずいきり立つ。


「自分は関わっていないと?」

『仮に朕が関わっていなくても、貴様等は朕に対して馬鹿な真似をするのだろう?ならば、認めても、認めなくとも同じことだ。で、今度は何をする気だ?既に朕と貴様ら愚物が治める都市の間に繋がりはない。これ以上何かをしようと言うのならば……戦争しかないぞ?』

『貴様……!?』

『恥を知れ!恥を!』

『愚物は貴様であろうが!!』

 サルファーは更に笑みを深める。

 その笑みは、この状況を楽しんでいるような感情すらも含んでいるようであり、その笑みによる挑発によって、場の空気は更に険悪なものになる。


「心配しなくとも、戦争にはならんよ」

 だが、ダイオークス中央塔長の一言で、場は一気に静まり返る。


『ほう……ダイオークスのは臆病風に吹かれたか』

「いいや、臆病風になど吹かれてはいないさ。と言うより、自分より圧倒的に格下の相手に何故怯える必要が有る?」

『何だと?今妙な冗談が聞こえた気がするが、気のせいか?』

「気のせいではない。私ははっきりとこう言ったのだよ。ノクスソークスの現王、サルファー・ソークスは私以下……いや、今までに存在してきた瘴気都市の代表者の中でも最も愚かな部類であるとな」

『貴様!自分が何を言っているのか分かっているのか!?』

「さて、最終通告だ」

 そして、続けて発せられた言葉によってサルファーは顔を真っ赤にするが、ダイオークス中央塔塔長はそんなサルファーの事など意に介した様子も無く、淡々と告げる。


「サルファー・ソークス。君に残されている道は三つだ」

『貴様!朕の言葉を無視するか!』

「一つ、このまま今まで通りの行いを続け、ガス室に送られるような状況に陥る」

『おい!聞いているのか!?』

「二つ、我々に対する干渉を止めるも政治を改めず、ノクスソークスごと飢え滅びる」

『朕を愚弄するか!ダイオークス!!』

「三つ、悔い改め、我々に許しを請うか。さあ選びたまえ、ここが分水嶺だ」

『貴様ああぁぁ……』

 サルファーの両肩は明らかに震えていた。

 多少の侮蔑には耐えられても、此処まであからさまな無視には耐えられなかったのだろう。


『ふふ、ふふふふふ……』

 そして、サルファーは自らが治める都市では無く、自分自身の尊厳を第一とする男だった。


『ふは、ふはははは……』

 故に選んでしまう。


『あーはっはっは!!』

 選ばされてしまう。


『いいだろう。ならば貴様等に見せてやる!本当の力と言う物を!世界の覇者になるべき者だけが持つ力と言う物をな!!』

「ほう……」

 死刑台よりもなお悪い道へと続く道を。


『このまま通信を繋いでいろ!シュウ!例の奴を持ってこい!!』

『かしこまりました』

 触れてはならぬものに触れる道を。

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