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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
284/343

第284話「???-10」

「さて……」

 『クラーレ』某所。

 コンクリートが打たれたままの殺風景なその部屋の中に、白衣を着た水色の毛玉が……ドクターことナントウ=コンプレークスが一人佇んでいた。


「此処なら大丈夫そうじゃな」

 ナントウは部屋の中と周囲の安全を確かめるように辺りを見渡すと、懐から海月型の人形を取り出す。

 それは、かつてダイオークスの『ナントー診療所』に置かれていた物であり、今回のナントウの旅行にあたって、特別な許可を得て持ち出していた物だった。


「では……」

『ケイコク!シテイリョウイキガイデス!』

「緊急回線C21-R81-R05-710の使用を申請。通信の警戒及び隠蔽レベルは対上級神クラスの物を使用。許可証は……」

 ナントウが海月型人形の頭に触れると同時に、海月人形は甲高い声でもって警告を放つ。

 が、ナントウはそんな海月型人形の警告など意に介さぬかのように、淡々と告げるべき言葉を呟く。


「以上じゃ」

『……。ナントウ=コンプレークスの緊急回線使用申請を受理、許可下りました。緊急回線C21-R81-R05-710を申請通り最大警戒レベルの状態で開きます。接続先は諜報課のネイル=コンプレークスでよろしいですね』

「間違いない」

 やがて、全ての言葉を告げ終った時、海月型人形はナントウから少し離れた位置で、目から光を放ち、手近な壁に映像を投影し始める。


『緊急回線を使うだなんてどうしたのよ納豆爺。しかも、通信しやすいように整えられた自宅じゃなくて、適当な空き部屋を使っているみたいだし』

「まあ、少々事情があっての」

 映像の中に居たのは一人の女子高生風の女性。

 ネイル=コンプレークス。

 ただ、緊急回線を使ったためか、普段の彼女とは違い、ふざけた気配のような物は一切存在していない。

 諜報課の人間としてやるべき事にだけ、集中しているようだった。


「まず報告じゃ。社長からの依頼については無事に完了した。後はタイミングさえ合わせれば、計画は進められる」

『了解。社長の方には私から伝えておくから、安心しておいて。社長ならタイミングは勝手に計ってくれるだろうし』

「そうじゃな。社長なら正確なタイミングを掴んで、介入する程度は造作も無い事じゃろうし、その点については儂も心配しておらん」

 ナントウの報告に、ネイルは満足げな笑みを浮かべ、ナントウも誇らしげな雰囲気を漂わせる。


『で、緊急回線を使った理由は?今の報告だけなら、別に通常回線で問題ないと思うんだけど?』

 が、直ぐにネイルの顔は深刻そうな物に変化する。

 だがそれも当然だろう。

 今ナントウが言った事は、使用できる時間も回数も限られている緊急回線で報告するような事案では間違っても無いからだ。

 それどころか、もしもたったこれだけの用件で、相手が上級神でも傍受出来ないようなレベルの緊急回線を用いたりしたならば……それ相応の処分が下る可能性は非常に高い。


「それなんじゃがな……あー……」

『どうしたのよ』

「たぶんじゃけど、儂が異世界の存在だと言う事がC21-R81-R05世界の人間たちにバレておる」

『……』

 そして、非常に言いづらそうな顔をしながら言われたナントウの言葉にネイルは……


『はぁ!?ちょ、この納豆爺!?異世界バレ、それも不特定多数のバレてはいけない相手にバレるとか、一発で最上級懲戒処分の対象にも成り得るんですけど!?そうなったらパートナーである私もただでは済まないんですけどぉ!?』

 この世の終わりであるかの表情で、音割れしかけるほどの大きさの声で声を上げたのだった。


「う……すまん。じゃが、何でバレたのか、儂にもまるで分らないんじゃ。拠点の偽装は社内規則に則って、この世界の人間どころかハル・ハノイのような存在にだってバレないようにしておったし、事実今まで何度かハル・ハノイを拠点に招いたこともあったが、バレてはいなかったのじゃ」

『じゃあどうしてバレたのよ……と言うか、バレた理由も分からないとか、最悪の状況じゃないの……』

 追い打ちをかけるようなナントウの報告に、ネイルは堪らずその場で崩れ落ちる。

 恐らくだが、今彼女の脳裏には会社から今後下されるであろう処分の数々……始末書、減給、配置転換、強制趣味断ちが次々に思い浮かんでいるのだろう。

 崩れ落ちたネイルの身体は明らかに震えていた。


『こ、こうなったら、どんな手を使ってでも隠し……』

「あ……」

 そしてネイルがこの件については何としてでも隠蔽して見せようと決意した時だった。

 ナントウはその光景に思わずぽかんと口を開いてしまっていた。


『どうした……』

 と同時に、肩に置かれた人の手の感触にネイルも固まる。

 だが二人がフリーズしてしまったのは、誰かに自分たちの会話が聞かれたからではない。

 誰がそこに居るのかが分かってしまったからである。


「『……』」

 そう。そこに居たのは、身体の何処かを動かすたびに、脇やへそと言った部分がチラリと見える衣装を身に纏った一人の男性。


『何を隠すって?二人とも』

 多次元間貿易会社コンプレックス社長、チラリズム=コンプレークスだった。


「それは……」

『その……』

『んんー?』

 そして二人は間もなく折れた。

アイエエエ!?シャチョウ!シャチョウナンデ!?


11/30誤字訂正

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