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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第28話「基礎訓練-1」

「だぁー……やっと終わったぞおぉぉ……」

「「ダスパさん」」

 翌日。

 外勤部隊への入隊試験の結果を待つべく、俺と雪飛さんが自宅で待機していたところにダスパさんと見覚えのない黒髪の女性がやってきた。

 ただダスパさんは、衣服も含めて全身が妙にくたびれており、目の下にははっきりと隈が刻まれていた。


「ハル。トトリ。これがお前らの外勤部隊に入るに当たって必要な事を書き込むための書類や、入隊に当たっての各種条件を記載したものになる」

「あ、ありがとうございます」

「その……ダスパさん大丈夫ですか?」

 微妙にふらふらとした動きでダスパさんは机の上に分厚い書類を置くが、そのあまりにも危うい動きは思わず雪飛さんが心配して声を掛けてしまうほどだった。

 何と言うか、今にも本当に倒れそうな感じである。


「大丈夫じゃない。たくよう……俺は本来前線で切ったはったすんのが専門で、こう言う細かい条件を話し合うような会議には慣れてねえんだよ……なのにあいつ等ときやがったら、こっちが少しでも隙を見せたらネチネチネチネチやりやがってよう……オルガもライも頼りにはならねえしよう……」

「「……」」

 で、そうしたら何だか思いっきり愚痴り始めた。

 何だか目も座っているようだし……うん。俺たちの為に頑張ってくれたのは確かなんだし、早いところダスパさんにはゆっくり休んでもらおう。

 これをそのままにしておくのは拙すぎる。


「ダ、ダスパさん。俺の部屋があっちに有るんで、まずは寝てください、目の下とか本当に酷い事になっているんで」

「そうかぁ?」

「は、はい。そうですよ。ダスパさん。ハル君の言うとおり、早く寝た方が良いですって」

「分かった……じゃあ、後は姉貴。頼んだわ。眠気がヤバくて自分でも止まんねえ感じがするし」

「ええ、任されたわ」

 と言うわけで、俺と雪飛さん二人でダスパさんに眠る事を勧めると、俺の部屋のベッドで寝てもらった。

 ふう。これで一安心だな。


「それで貴女はその……」

「私の名前はブルム・フォクシィ。ダスパの姉で、ダスパたち外勤第三小隊の事務を務めさせてもらっているわ」

 見た目二十代後半から三十代前半な黒髪の女性……ブルムさんはそう言うと、リビングの適当な椅子に腰かける。


「今日私がこの家に来たのは、この書類に関する貴方たちからの質問に答える為よ」

 そう言うとブルムさんは俺たちにも椅子に座るように促し、資料を読むように要求してくる。

 正直な話として、この量の書類を読むのはかなりきつい物が有るが……


「質問……ですか」

「この量だと大変そうですね」

「ええ。ちょっと大変よ。でも、読み違いをすると大変な事になったりもするから、読み飛ばしをしたりせずにきちんと読んで頂戴ね。後、分からない事が有ったら直ぐに聞いてちょうだい。その為に私は来たわけだし」

「「分かりました」」

 どうやらしっかり読んで、おかしな点などが有ったら正直に指摘しないと拙い事になりそうだったので、俺も雪飛さんも素直に読むことにした。

 で、読んでいて思ったのだが……


「まず、これからの一月で、基礎訓練と俺と雪飛さん個人の装備を製作するんですね」

「ええ。だけど、それについては当初の予定通りよ。外勤の部隊が身に着けている防護服を始めとした各種装備品は個人個人の身体能力や戦い方に合わせて作られるオーダーメイド品だから、どうしても時間がかかるの」

「なるほど」

 やはり外勤部隊と言うのはダイオークスの中でもエリートと言っていい集団らしい。

 まあ、かすり傷一つが致命傷になりかねない外での活動を考えたら、これぐらいは当然なのかもしれないが。


「あれ?ブルムさん。特別訓練と言う物が記されているんですけど、これはどういう事なんですか?」

「あ、本当だ」

 書類を読み進めていくと、これからの訓練予定のところに特殊訓練と言う項目が有るのを雪飛さんが見つける。

 しかも、その特殊訓練の所には、これが終わらない限りは実際に外に出ることを許さないと言う文言も書かれていた。


「そこは貴方たち二人の特殊性を鑑みた結果として追加された条件で、具体的に言えばトトリちゃんは特異体質の詳細について明らかにし、自分でもきちんと把握すること。ハル君については例の【堅牢なる左】について、最低でも発動条件をしっかりと把握する事。これが外に出る許可が下りるための条件になっているの」

「どうしてそんなものが……って言うのは一応聞いておいた方が良いですよね?」

「まあ、簡単に言ってしまえば、貴方たち二人と26番塔にとって貴重な戦力でもあるダスパたちの安全を少しでも確保するためと言ったところね。ここの条件については会議でも割とすんなり決まったって話だったわ」

「なるほど」

 まあ、考えてみれば当然の話ではあるよな。

 【堅牢なる左】が暴発したりしたら、周囲の状況次第では大惨事になる可能性だって普通に有り得るわけだし。

 会議ですんなり決まったと言うのも、この件についてはダスパさんたちの側も、塔長の側でもほぼ同じ意見だったからなんだろう。


「で、問題なのはここね。ここに関しては監督官たちに無理やり捻じ込まれたって話だったわ」

「どれどれ……」

「えーと……」

 俺と雪飛さんはブルムさんが示した部分の文章に目を通す。


「「!?」」

 そして、その内容に俺も雪飛さんも大きく驚いた。

 だが、驚くのも当然の話だった。


「え!?公私にわたって補佐を行うための人員を26番塔以外から選出するんですか!?」

「完璧に監視員じゃないですか!?」

 なにせ、その内容と言うのが、俺と雪飛さんに対して常時複数人の監視員が付き、しかもその監視員たちもこの家に住むと言う物だったからである。

03/27誤字訂正

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