表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
279/343

第279話「ドクターナントウ-1」

「ドクターが行方不明?」

「うん、そうみたい」

 昼食が終わった後、俺はトトリから思わぬ情報を得ることとなった。

 それは、『ナントー診療所』院長であるドクターことナントウ=コンプレークスが行方不明であると言う話だった。


「どういう事なんだ?」

 ただ、俺の記憶が確かならドクターはおおよそ一ヶ月の間旅行に出かけていると言う話だったはず。

 それが行方不明?

 一体どういう事なんだ?


「えーとね」

 と言うわけで、トトリに詳しい事情を窺ったところ、こういう話だった。


 まずドクターは俺たちも聞いていたように、旅行に出かけていた。

 期間は一ヶ月。

 加えて、ドクターは何時旅行に出かけ、いつ帰ってくる予定なのかを事前に26番塔の方に通達していたそうだ。

 だが、その期限が過ぎてもドクターは帰って来ず、その性格と年齢、技量、その他諸々の事情を鑑みて、26番塔ではドクターが現在何処に居るのかの確認を取ろうとした。

 問題が起きたのはここだ。


 この世界では、出入都の記録は何処でも採っており、何処かの都市から別の都市に移動する際には、出都記録と入都記録を付きあわせ、それが一致しなければ、特殊な事情が無い限りは入都が認められない。

 それがこの世界での都市間移動における最も基本的なルールだ。


 だが、ドクターの出入都記録はどのような手段を用いたのかは分からないが、てんで出鱈目なものになっており、現在ドクターが何処に居るのかが分からないようになっていたのである。

 結果、ダイオークスでは記録の詐称辺りの罪状でもってドクターを捜索を開始。

 俺たちダイオークス26番塔外勤部隊第32小隊もドクターと親しい間柄と言う事で、ドクターを見かけた時には通報と足止めを要請する知らせが来たのだと言う。


「ふうん……」

「ちなみにドクターの家にはアタシたちが『崩落猿討伐作戦』に参加している間に、捜査が入ったみたいだね。怪しい物や、行方を示すような物は何も無かったらしいけど」

「なるほど」

 何と言うか、行方不明は行方不明だが、この場合は何かの事件に巻き込まれたと言うよりかは、行方を晦ませたと言った方が正しい気がするな。

 診療所の方に手がかりになる様なものが何も残っていなかった点からして余計に。


「しかしそうなると、ちょっと困った事になるな」

 ただそうなると一つ問題が発生する。


「ああ、例の件についてか」

「ドクターに魔力の件について聞く。だったね」

「そうそう」

 俺はドクターが帰ってきたら、魔力についてドクターに尋ねたいと思っていた。

 と言うのも、以前の訓練で、俺は室内で通常出力版の【堅牢なる左】を起動するも、エネルギー不足で倒れると言う事態に遭遇したことが有った。

 そしてその際に、ドクター特製の納豆でもって俺はエネルギー不足から解放、助かったわけだが……今考えてみれば、これはおかしいのだ。


「何処がおかしいんだっけ?」

「俺の能力は『虚空還し』の魔力か、俺自身の魔力を利用して発動している。これはエイリアスの『真眼』でも調べて貰ったから間違いない。で、あの時の俺は魔力を失い過ぎた結果として、動けなくなっていた」

「ふんふん」

「そして、ロノヲニトが言うには、この世界には魔力を扱う技術は無い。となれば当然、失った魔力を急激に回復させる技術なんてものも存在しているはずがない」

「が、ナントウ=コンプレークスなる人物は、その存在しないはずの技術を有していた……か」

 そう、如何にドクター特製の納豆と言っても、普通に考えて出来るのは失った物理的なエネルギーの回復までなのだ。

 なのに、ドクター特製の納豆には失った魔力を回復させる効果があった。

 それもかなり強力な効果がだ。


「そう。だから、ドクターは魔力について何かしら把握しているはずなんだよ。どうにもあの納豆は大量生産も一応可能だったみたいだしな」

「なるほど。筋は通っているな」

 なお、ドクターが魔力について知っている事自体に関しては、別におかしいとは思わない。

 噂が本当なら、ドクターは三百年前の瘴気が世界を覆う前から生き続けているわけだしな。

 それならば、何処かで魔力に関する知識を手に入れていてもおかしくないだろう。

 と言うか、魔力に関する知識なしに、普通の人間が三百年も生きられるとは流石に思えない。


「そうやって考えると、どうにかドクターに話を聞きたい所ではあったね」

「だな。でもまあ、居ないんじゃあどうしようもない」

 だがまあ、何を論じ、考えようとも、聞く相手が行方不明では、この場合どうしようもない。

 本当に残念だ。


「うーん、三百年生きている人間……気になるのね」

 後、個人的にはエイリアスにドクターを見せたらどういう姿で見えるのかもちょっと気になっていたりもする。

 が、その計画も頓挫だな。

 本当に、ほんとおおぉぉうに残念だ。


「コンプレークスか……何か引っかかるな」

 なお、ロノヲニトが何か引っかかっているようだったが、本人も思い出せない事のようだし、まあ、聞く必要は無いだろう。

 さて、本当に何時になったらドクターは帰ってくるんだろうな……。

11/25誤字訂正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ