第276話「狙撃犯-6」
「一日自由!?」
「ダメ!それは絶対にダメ!」
「一日……自由……ボソッ(それってつまり……)」
「何を言っているのですかエイリアスさん!?」
エイリアスさんの爆弾発言にセブ、トトリ、ミスリ、フィーファさんの四人が真っ先に反応し、拒否の声を上げる。
「どうして反対するのね?」
「どうしてって……そんなの……」
「待てミスリ、それ以上は言うな」
そしてそんな四人とは対照的に、シーザがエイリアスさんの言葉に反射的に反応しそうになったミスリを止め、
「一応聞いておくけど、ハルを一日自由にして、何をしたいんだい?」
ワンスが表情は極めて冷静に、けれど行動としてはエイリアスさんの両肩を掴んで、迫ると言う冷静さの欠片も無い行動でもって質問に質問で返す。
でもまあ、この流れならワンスの行動で正解だな。
だってエイリアスさんだよ。
絵を描くのに集中し過ぎて、他のものはどうでも良くなるようなレベルの画家だよ。
そんなエイリアスさんが何を望んでいるのか。
そんなのお茶でも口に含んでゆっくりと考えれば直ぐに分かる事だ。
「んー、今のところ黒ドラゴンの絵はスケッチしかないし、とりあえず絵は描きたいのね」
「「「へっ……」」」
「つまりハルをモデルにして絵を描きたい……と」
「他に何が有るのね?」
うん、今までのエイリアスさんの積極性を変な方に曲解すると、妙な答えに行きついてしまうが、冷静にエイリアスさんの行動原理を考えれば、やはりそう言う事だったらしい。
と言うわけで俺は口の中のお茶を飲もうとし……、
「あ、でもフルヌードの絵も一枚ぐらいは描いておきたいのね」
「ぶほぉ!?」
「ハル君!?」
「ハル様!?」
「エイリアスさんんんんっっっっ!?」
続けて発せられたエイリアスさんの言葉に、お茶を噴き出した。
いや、え、てか、フルヌードって……全裸!?
これは拙い。
色んな意味で。
くっ……どうにかしなければ!
俺は口元を拭いながら、慌ててナイチェルの方を向く。
「どうなんだ?ナイチェル」
「……。単純な日程的な意味で言えば、明日と明後日の二日間、ハル様は休みです。また、今回のエイリアスさんの功績は、『崩落猿』の分だけで考えても、ハル様を一日自由にする権利を得ても問題ない程度にはあると思います」
「おおっ、流石は眼鏡なのね」
「勿論、ダイオークスの法に触れるような行為や、法には触れずとも危険な行為とされるような行動までは許されませんが」
「別に自宅の部屋の中で全裸になるのは法に触れる行為じゃないのね」
俺とシーザの問いかけに応じたナイチェルの答えは、俺としては残念と言わざるを得ない答えだった。
だが確かに、今回の『崩落猿討伐作戦』においては事前にエイリアスさんからの情報を聞いていて、『崩落猿』の四肢に何かしらの仕込みが有ると言う事を知らなければ、パイルバンカーの奇襲でもって即死していた可能性は十分に有り得る。
と言うか、少なくとも今この場に全員が集まっている事はないだろう。
だが、だがしかし……フルヌードだと。
しかも絵のモデルとして?
「ナイチェル……」
ない。本当に無い。
俺の裸の絵なんて見て喜ぶ奴は極々少数だと思う。
いや、エイリアスさんの事だから、純粋に芸術的な作品に仕上げてくる可能性も多々あるが、それでもない。
俺としては出来るだけ避けたいところだ。
と言うわけで、一縷の望みをかけて、この状況の打開策が無いかをナイチェルに視線で尋ねるが……。
「更に言えば、ハル様には申し訳ありませんが、26番塔塔長やレッドさん、ライさんと言った面々なら、エイリアスさんの申し出は普通に受け入れると思います。と言うのも……エイリアスさん、仮に今回の褒賞をハル様と一日過ごす権利以外でと言われたら、何を望みますか?」
「んー、黒ドラゴンと過ごす以外……お金は……いらないのね。画材……もう十分にあるのね。土地や建物も……貰っても困るだけなのね。んー……他と言われても思いつかないのね」
「とまあ、このように、エイリアスさんとダイオークス26番塔の関係をより良い物にすると言う事も考えると、絶対に支払うべき褒賞を除いた追加の褒賞と言うべき部分については、エイリアスさんの望みを叶えること一択になるのです」
「まあ、私たち26番塔としても、出して懐が痛む褒賞ではないしな」
「オウフ……」
何と言うか、トドメを刺された気分です。
と言うか、トドメを刺されました。
もう復活できません。
「ゴニョゴニョ……(ところで、エイリアスの要求は一体何が問題なんだ?ただハルハノイの絵を描きたいだけだろう?)」
「ゴニョゴニョ……(ハルとエイリアスの性格を考えろ。確実に問題が発生する)」
「ゴニョゴニョ……(一応恋愛関係は本人の自由に任せると言う事にはなっていますので、事が起きても国際問題には発展しないかと)」
「ゴニョゴニョ……(ならもう、流れに任せることにしましょう。これ以上は抵抗するだけ無駄です)」
「ゴニョゴニョ……(でも見張りは必要……だよね?)」
「ゴニョゴニョ……(確実に巻き込まれますが、それでも良いならどうぞ)」
……。
死体に鞭打つのは止めてください。
もう死んでますから。
「ハル君……」
「トトリ……」
「しっかり相手をしてあげてね」
と、ここでトトリが俺の肩を掴んで、俺にだけ見えるように二つの連続したジェスチャーをする。
うん、そのジェスチャーはどうかと思うよ。
トトリさん。
女の子とかそう言う話以前に。
「あ、鳥が黒くなったのね」
「トトリ……」
いずれにしても、俺に拒否権はないらしいです。
理性……保つかなぁ……。