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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
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第275話「狙撃犯-5」

「『崩落猿』を取り逃がしたのは拙い……か。確かにそうだな」

 そう、『崩落猿』は左腕を失ったが、決して死んだわけでは無い。

 今も何処かで自らの傷を癒しているはずだ。

 俺たち人間への殺意を募らせながら。


「人に傷つけられたミアズマントは狂暴性を増す……だったよね」

「『崩落猿』の場合、狂暴化と言うよりかは凶悪化と言った方が正しい気がするけどな」

「アレがもっと強化されるのかい……」

 おまけに、自らの能力の応用系として、四肢にパイルバンカーを仕込んできた『崩落猿』の事だ、左腕の修復が完了すれば、どんな機能が追加されていてもおかしくはないだろう。


「ええ、ですから、早急に『崩落猿』の行方を突き止め、討伐する必要はあるはずです」

「そうだね。あまり長い間は放置していられないかも」

「ただなぁ……」

 と言うわけで、『崩落猿』の行方をどう追うかを考え始めたわけだが……


「ダスパさんが言うには、途中で完全に痕跡が途切れ、それそこその場でワープしたと言った方が説得力があるぐらいの状況だったらしいんだよなぁ」

「ワープ……ですか」

「ワープって……」

「……」

 俺がダスパさんから聞いた情報に、ナイチェルたちは揃って顰め面をする。

 だがそれはワープと言うのが荒唐無稽な案だったからではない。


「イヴ・リブラ博士ならワープぐらいは出来ますよね」

「まあ、異世界からハルたちを送り込めるわけだしね」

「同じ世界の中なら、きっともっと楽に送り込めるよね」

 イヴ・リブラ博士程の存在が『崩落猿』の傍に居るならば、普通に有り得る現象だからだ。

 そして、そんな存在が最低でも一体は間違いなくミアズマントの側に居る。

 そう、『虚空還し』だ。


「しかし、本当にワープだとすると、後を追うのは厳しいな」

「私たちにはそんな技術は無いもんね」

「仮にこの世界の何処かに飛んだのだとしても、果たして普通に行ける場所に飛んだのかすらも怪しいですしね」

 しかし、本当にワープだとすると、『崩落猿』は最悪ワープ以外の方法では行けない場所に居る可能性すらある。

 そうなった場合には、何らかの方法で『崩落猿』がワープした先が分かっても、完璧にお手上げの状態である。


「……。『崩落猿』が本当にワープをしたのだとすれば、もう一つ別の問題が発生するな」

「ロノヲニト?」

 と、ここで、ロノヲニトがすこぶる不味そうな顔をしながら口を開く。


「以前の『吠竜撃退作戦』の折、我の身体を囮として、『虚空還し』にはハルハノイは死んだものと誤認させていた。だが、今回『崩落猿』に逃げられたことによって、『虚空還し』はハルハノイが生きている事に気づいたはずだ」

「「「あっ」」」

 ロノヲニトの言葉に、当時作戦に参加していた面々は思わず声を上げる。

 そう、あの作戦の時、ロノヲニトはイヴ・リブラ博士の命令を果たすべく、『虚空還し』をワザと発生させ、俺が死んだように見せかけたのだった。

 だが、今回『崩落猿』は推定ではあるが、『虚空還し』の助力でもって逃げ延びた。

 そしてそれが正しければ、絶対に『虚空還し』は尋ねるだろう。

 誰と戦ったのかを、どうしてそんな手傷を負わされたのかを。

 そしたら、『虚空還し』の思考能力がマトモなものならば、間違いなく気づくはずだ。

 俺をあの時消すことが出来ていなかったと言う事実に。


「……。ロノヲニト」

「心配しなくとも、もう一度ハルハノイの身代わりになろうとは思っていない。今更身代わりになったところで、『虚空還し』を騙せるとも思えないからな」

 俺は念のためにロノヲニトに尋ねる。

 が、どうやらロノヲニトにもその気はないらしいので、一先ずは安心と言ったところである。


「しかしそうなると、迂闊にハル様をダイオークスの外に出すわけにはいかなくなるかもしれませんね」

「んー……今までの傾向からして、瘴気が有るところでも、ある程度なら力を使っても大丈夫だとは思うけど……」

「確証は……持てないよね」

「まあ、駄目だった時には、もう手遅れになる話だもんね」

 ただ、俺が外に出れないとなると、色々と困るな。

 『崩落猿』のような特異個体を俺以外の人間が相手取るのは、少々どころでなくリスクが大きいと思うし、それ以外にも俺が外に出ざるを得ない状況と言うのは普通に有り得るはずだ。

 そうやって俺たちがどこまでなら大丈夫で、何処からが駄目なのかという、答えの出しようがない悩みに頭を抱え始めた時だった。


「んー……黒ドラゴンの周囲の瘴気が無くなるほどに力を使わなければ大丈夫のはずなのね」

「エイリアスさん……その根拠は?」

「突然瘴気が無くなるって言うのが、『虚空還し』にとっては最大の異常で、黒ドラゴンと瘴気の気配は割合似ているからなのね」

「「「……」」」

 エイリアスさんが胸を張ってそう言ったのは。

 うん、たぶんだけど、また『真眼』の力だな。

 でも、理論としては筋道が立っている気がする。

 だれだって、突然自分の皮膚の一部がごっそり無くなったりすれば、気づくよな。そりゃあ。

 逆に言えば、少しずつ表皮だけを削るなら、そこに感覚を集中して調べられたりしなければ、案外ばれないものの可能性もあるが。


「まあ、今までを考えれば、信頼もしても大丈夫……かな?」

「他に指針も無いし、妥当だとアタシは思うよ」

「うん、私もそう思う」

 うん、今のところは周囲の瘴気を基準にする。

 これしかないな。

 いざとなれば、【威風なる後】を全力で起動して、周囲に居る仲間ごと『虚空還し』の範囲外にまで逃げればいいんだしな。


「ありがとう、エイリアスさん。『崩落猿』の件も含めて助かった」

「ふふん、どうもなのね」

 と言うわけで、ここは素直に礼を言っておこう。

 『崩落猿』の件では冗談抜きに助かったし、『虚空還し』の方も基準を決める根拠としてエイリアスさんの『真眼』はありがたいものが有るからな。

 これはその内、ライさん辺りと相談して、公的に何かしらの褒賞をエイリアスさんに出すべきかもしれない。


「あ、でも、どうせならアドバイスの報酬として、一つお願いが有るのね」

「お願い?」

 そうしてこの場での話し合いが終わるかと思った時だった。


「明日一日黒ドラゴンを私の好きにさせてもらいたいのね」

「「「!?」」」

 エイリアスさんが爆弾発言をしてくれたのは。

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