第274話「狙撃犯-4」
「では行きましょうか」
「そうだな」
さて、彼らを縛っていた物は破壊された。
と言うわけで、改めて狙撃犯の男たちへの尋問を行うべく、俺は赤髪の男性とダスパさんに付いて行こうと思ってたのだが……。
「が、ハル・ハノイ、エイリアス・ティル・ヤクウィード、ナイチェル・オートス、フィーファ・エタナ・アグナトーラス。申し訳ないが、君たち四人は此処までだ」
と、赤髪の男性から言われてしまった。
「理由をお聞きしても?」
勿論、俺たちとしては納得しがたい命令であるため、ナイチェルが代表として赤髪の男性に理由を問う。
「単純に君たちに聞かせるべきでない話も入ってくる可能性もあるから。と言うのもあるが、それ以上にハル・ハノイ」
「何でしょうか?」
「一応君は頭に銃弾を受けている身なのだ。部下から聞いている君の能力ならば問題は発生していないと思うが、君の上司にあたる身としては、万が一を潰すべく医務室に行くことを命じない訳には行かない」
「……」
ああうん、確定した。
間違いなくこの赤髪の男性は26番塔塔長にしてオルガさんの父親であるオルク・コンダクトさんだ。
でなければ、今の台詞を言えるはずがない。
ちなみに傷については【堂々たる前】の再生が有るので、絶対に大丈夫だと言い切れます。
ただの銃弾で俺のバックアップに影響を及ぼすのは無理だしな。
「そうでなくとも、君を心配している人間が第32格納庫には残っているし……『崩落猿』と直接対峙した君が私たちに報告する事は非常に多いのではないかと思うが?」
「あっ……」
が、うん、言われるまで忘れていたが、オルク塔長の言うとおり、今回の作戦の報告書で俺が書くべき事柄は多い。
しかも、『崩落猿』には逃げられているので、倒した時よりもより詳細に報告書を書く必要が有る。
おまけに……トトリたちや、この場に居るナイチェルたちはともかく、ミスリさんは俺がどうなったかを知らない。
これを放置しておくのは拙いだろう。
「なに、心配しなくとも、尋問の結果については後で必ず伝えるし、第32小隊の面々が相手ならば今回の件は話しても構わない。さ、行きたまえ」
「し、失礼します!」
うん、急ぐべきだ。
色んな意味で。
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で、検査の結果だが、当然何の問題も有りませんでした。
全身をスキャンされたけど、骨折どころかすり傷一つ無しです。
【堂々たる前】で再生したのだから、当然なんだけど。
そして、検査が終わったところでエイリアスさんたちを連れて第32格納庫に向かったわけだが……。
「ハル様!」
「ハル君大丈夫なの?」
「ハル、大丈夫かい?」
「無事に帰って来たか」
「あー、うん、大丈夫だから心配しないで」
この騒ぎである。
考えてみれば、今のタイミングで帰ってきたら、尋問中に何か有ったと思われるよな。
まあ、何かはあったのだが。
「それで、あの男たちについてはどうなったんだ?ハルハノイ」
「あー、それなんだけど……」
と言うわけで、一先ずは一通り俺の方で分かっている事について話してしまう。
で、その結果。
「なるほど、脅迫によって、本人が望まぬ命令の実行を強要し、己は高みの見物をする……か。ゲスの極みだな」
シーザの言葉に全員揃って頷いていた。
うん、俺もそう思う。
「でもそれなら、陸路であの場所まで移動するだけのやる気にも頷けるかな」
「陸路?」
「はい、僕の方で22番塔の方に確認を取ったんですけど……」
で、ここで幾つかの新情報。
まず、あの男たちだが、狙撃地点まで空路を利用して来たのでは無く、少なくともこちらの感知範囲内では陸路を使って狙撃地点にまで移動していたらしい。
これはダイオークス空港のレーダーに所属不明の飛行機や、飛行機からの落下物などが映っていない事からまず間違いないそうだ。
うん、あの濃い瘴気の中をミアズマントに注意しながら狙撃地点まで移動するとか考えたくも無いな。
そして、男たちの装備品……特に狙撃銃についてだが、瘴気の中でも使用できていた事と口径的に対人用である事から分かるように、特注品なのは間違いないそうだ。
それはつまり、それだけの物を渡せるほどに男たちの能力が高い事、そんな男たちに命令を強要できる何者かが居ると言う事である。
また、狙撃と言う方法の特性上、今回の『崩落猿討伐作戦』の概要が向こう側にバレていたのは間違いないとの事だった。
なお、これらの情報は既にライさんの方へと報告してあるとの事なので、情報共用はきちんとされているようだ。
「それでハル。『崩落猿』についてはどうだったんだ?一応、戦闘中にも口頭で幾つかの報告は聞いていたが」
「そうですね……」
で、話題は逃がしてしまった『崩落猿』に移るのだが……そうだな。とりあえず一言で称してしまうのであれば、こう評してしまうべきだろう。
「前評判を二回りか三回り、ヤバくしたぐらい強かったです」
と言うわけで、『崩落猿』にの能力について俺は一通り話す。
特にパイルバンカーの辺りは念入りに。
知らなければ奇襲に、知っていれば選択を、油断すれば不意討ちとか、あれだけでも『崩落猿』が悪魔級なんてものを遥かに超越した正しく特異個体と呼ぶにふさわしい相手である事を皆に認めさせるのには十分すぎるぐらいだ。
実際……
「あの轟音の原因はそれか……」
「ハルが居なかったら、何人でかかっても返り討ちに遭いそうだね……」
「ふ、不意討ちが成功して良かった……」
「うわぁ……ギリギリだったんだ。色んな意味で……」
安全と思われる距離から『崩落猿』と俺の戦いを見ていたシーザたちは揃って頬を引き攣らせている。
うん、俺も似た気持ちです。
「しかしそうなると、拙いですね」
で、そんな中でナイチェルが一言。
「拙い?」
「『崩落猿』を逃がした事がです」
それは、この先の事を考える上では、絶対に考えなければならない事の一つだった。