第271話「狙撃犯-1」
「さて……」
集合地点に着いた俺たちは、レッドさんたちと合流。
その後直ぐにダイオークスへと帰還した。
「今から幾つかの質問をする」
で、件の男たちについては箝口令が敷かれ、『崩落猿討伐作戦』メンバー以外には26番塔塔長とその周辺の人物、後は一部協力者にしか情報が行き渡らないように処置をした後、尋問を行う事となった。
「お前は質問にどう答えても構わないが、今後の事を考えれば、素直に喋った方が良いと言う忠告はしておく」
と言うわけで、現在は全面コンクリート張りで、監視カメラ一台、椅子二脚、机が一つだけ置かれた小部屋に、俺、レッドさん、ダスパさん、ライさんの四人と、俺を狙撃した男が椅子に縛り付けられた状態で居た。
ちなみに、男の脚の骨を俺が折ってしまったので、男の脚には添え木がされており、痛みを和らげるべく鎮痛剤も打たれている。
いやはい、余計な手間を掛けさせてごめんなさい。
あの時はちょっとイラっと来ちゃったんです。はい。
「じゃ、質問を開始するっすよー」
まあいずれにしても、尋問を主導するのはレッドさんとライさんの二人。
俺とダスパさんは男に不自然な様子が無いか見張るだけだ。
俺がやると、やり過ぎそうだしな。
「名前は?」
「……」
「年齢は?」
「……」
「所属都市は?」
「……」
「性別は?」
「……」
で、尋問が始まり、まずはお決まりの質問をライさんがするのだが……見事にだんまりだな。
後、性別を聞くのは……時々外見からは性別が分からない方がいらっしゃるからだろうな。うん。
「どうやってあそこまで来た?」
「……」
「他の連中の素性は?」
「……」
「柿食う客は?」
「……」
「どうしてハルを狙撃した?」
……。
途中、明らかにおかしい質問が有ったような……。
いや、気にしたら負けなんだろうけど。
負け?負けなのか?この場でする以上は何かしらの意図は有るんだろうが……うーん?
「手強いな……」
俺はダスパさんの呟きを聞き、その顔を見る。
すると、ダスパさんは俺が今の二人の質問の意図を察せていない事に気づいたのか、俺を手招きする。
そして、ライさんとレッドさんによるの尋問が続く中、部屋の外で警戒をしていたメンバーと入れ替わりで俺とダスパさんは部屋の外に出ることになった。
「えと、こうして外に出たって事は、今のライさんたちの質問について教えてくれるんですよね」
「まあな」
うん、予想通り教えてくれるらしい。
なら、今後の為にもしっかりと聞いておこう。
「まず名前や所属する都市なんかの情報を求める理由は分かるな」
「それが分かれば、一発で何処の誰か分かるからですよね」
「そうだ」
まず、聞いて当然な情報については、それが相手が何処の誰かを調べる上で基本的な情報になるからだ。
これは分かる。
分からないのは、一部のどうでも良さそうな情報についてまで二人が聞いている事と、そんな質問にまで男が真剣な表情で黙りつづけている事だ。
で、その点について何故かと聞いた所……。
「喋る事。それ自体からかなりの情報が得られるからだ」
ダスパさんからこんな答えが返ってきた。
なんでも、人の声と言うのは、調べる人間が調べれば言葉としての情報だけでなく、様々なデータ……年齢、性別、体格、場合によっては趣味嗜好、職業、出身地に至るまで調べることが出来るそうだ。
あの男はそれを知っている。
だから、くだらない質問に対しても何も喋らないし、同様のデータを得る事が出来る書くと言う行為も行わないのだろうとの事だった。
とんでもないな。
たったそれだけの情報からそこまでのデータを得られる技術者も、そう言う技術が有ると理解しているあの男も。
「だがまあ、妙ではあるな」
「妙?」
「ああ。それだけの知識と思考能力が有る奴なら、この場で黙っていても時間稼ぎにしかならない事ぐらいは分かっているはずなんだが……」
「……」
部屋の方に視線向けながら発せられたダスパさんの言葉で俺も気づく。
確かにこの場で黙っていても、あの男の身元を隠しきる事は出来ない。
なにせあの男の身柄はこうして抑えている以上は、顔の写真を撮る事も、DNAを調べる事も、指紋を調べる事も自由に出来る。
そして、今のこの世界の社会ならば、そうやって調べれば簡単に何処の誰か分かってしまうはずだし、それで分からないのであれば、逆に絞り込めてしまうのだから。
だから、今のあの男は時間稼ぎにしかならない。
それもこちらの怒りを買いながらのだ。
ちなみに、ダスパさん曰く、その気になって調べれば、糞便や胃の内容物、頭髪なんかからも色々な情報を得られるとの事。
技術が有るって怖い。
まあ、そんな事はさて置いてだ。
「……。ダスパさん。あの男は何か情報を吐くと思いますか?」
俺はこの状況に進展の可能性が有るかをダスパさんに尋ねる。
「正直、あの男自身から情報を得るのは厳しいだろうな。だがまあ……」
そう言うと、ダスパさんは通路の奥の方に視線を向ける。
すると、複数の人間がこちら側に向かって歩いてくるのが俺の目にも見えた。
「ライとレッドの奴に加えて、塔長も絡んでいるんだ。相手がだんまりでも問題は無いだろうさ」
そして、その中には俺の顔見知り……、
「呼ばれたから来たのね!」
「すみません。騒がしくて」
「御無事で何よりです。ハル様」
エイリアスさん、フィーファさん、ナイチェルの三人も居た。
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