第270話「崩落猿討伐作戦-9」
『こちら司令部。全員聞こえるか』
下手人の元に向かう俺の耳に、俺たちとは別行動をしているレッドさんの声が聞こえてくる。
一応、聞こえていると返事をしとこうか。
『よし、こちらでも確認した。それで目標……『崩落猿』についてだが、ファーティシド山脈の山中に入ったところまでは確認できたが、そこで完全に見失った。足跡含め、あらゆる痕跡が山の中に入ったところで突然途絶えてしまっている』
ふうん、『崩落猿』については完全に見失ったと。
突然途絶えたと言うのは気になる話だが、アチラ側には今回のメンバーでは最も調査能力に長けているダスパさんたちも居るはずなので、そのダスパさんたちでも追えなかった以上はどうしようもないだろう。
それに、見失ったと言うか、そもそも逃げられた原因についてはこの先に居るはずだしな。
そいつらだけは絶対に逃がさない。
『よって、『崩落猿討伐作戦』をこれ以上続行する事は不可能と判断。作戦は現時点を以て中止とする。作戦に参加したメンバーは、ファーティシド山脈麓の拠点に移動。そこで一度集合する』
レッドさんの言葉に、一瞬俺は奴らの事を見逃さなければならないのかと思い、思わず【威風なる後】の圧力場を強めてしまう。
『ただし、ハル・ハノイを始めとしたアラート3を追っている別働隊については、アラート3の確認……可能ならば確保か撃破。もしくは事前に規定した時間が過ぎるまでは自由行動を認める。聞くところによれば、既に位置の把握は済んでいるようだしな』
が、その後すぐに発せられたレッドさんの言葉に、俺ははっとなり、慌てて圧力場を先程までのレベルに戻す。
えーと、奴らは……うん、死んでないな。
脚の方の骨を何本か折った感触が有るけど、死んではいないし、これで少しずつ這って逃げる事も出来ないようにはなった。
まあアレだ。
綺麗に折ってやったから、きちんと治せば以前より丈夫になるんじゃね?
やったね、もっと強い力を掛けられるよ!
『それと、一応言っておくが、アラート3を確保するまではあらゆる手段を用いることを認めるが、確保後は出来る限り傷つけないように。拷問などもってのほかだと言っておく』
……。
釘を刺されたか。
まあ確かに、奴らの裏に居るであろう何者かを調べるためには、奴らが生きていた方が色々と便利なのは確かなんだよな。
殺されかけた身としては、【威風なる後】の実験台にしてやりたい気分ではあるが。
『ハル』
「分かってますって、きちんと拘束のレベルで留めてますよ。逃げようとしたんで、脚の骨は折りましたけど」
『ハァ……それ以上はやるなよ』
無線機からシーザのため息が聞こえてくる。
心配されなくても、これ以上はやらないって。
今のでちょっと溜飲も下がったし。
「と、あそこだな」
やがて俺たちの視界に地面に倒れている三人の男と、一機の瘴巨人が見えてくる。
近くには狙撃用のライフルを含めた複数の装備品が転がっており、こいつらがアラート3……俺を狙撃した犯人であることを如実に表していた。
で、男たちからは痛みに悶えているような声が聞こえているが……自業自得だ。
好きなだけ呻いていろ。
「よう、気分はどうだ?」
俺は後続のトトリたちが追いつき、男たちの周囲を取り囲んだところで、狙撃銃に一番近いところ居た男に向かってそう話しかける。
勿論、返事が出来るように男の頭部にかけている【威風なる後】の圧力だけ解除した上でだ。
で、男の返事だが……。
「ぐっ……化け物め……」
「はぁ?いい度胸してんなぁ……お前」
怨みに満ち溢れた視線で化け物扱いしてくれたので、頭を軽く踏んづけてやる。
ちなみにこいつら、身に着けている装備品はダイオークスの物でも、比較的この近くに在る『テトロイド』の物でもない独自の物であるが、その中には自殺用と思しき装置類も存在していた。
当然、【威風なる後】で抑え込むのと同時に全部破壊させて貰ったが。
と言うわけで、コイツの怨みに満ちた視線には、俺を殺せなかった事以外にももしもの為の備えを発動できなかった事への悔しさもあるのだろう。
ま、いずれにしてもざまぁとしか言うしかないが。
「ハル君。敵瘴巨人の制御権を奪ったから、もう解除してもいいよ。後、運びやすいように幾らか分解してくれる?」
そう言うトトリの『テンテスツ』の手は、地面に転がっている敵の瘴巨人の首裏を握っている。
どうやら、もう瘴巨人に対して圧力をかけておく必要は無さそうだな。
中のパイロットに対しては掛け続けておくが。
「了解っと」
「ありがと」
で、トトリの要請に応えるべく、俺は何度か手を振り、手の動きに合わせて【威風なる後】の圧力場を生じさせ、瘴巨人の四肢を引き裂く。
あ、フィードバックで中のパイロットの奴が気絶したな。
これは好都合。
「じゃ、後はこいつらを回収するだけだね」
「ガッ!?」
ワンスが手に持った電撃銛の出力を下げた上で地面に転がっている男たちに、防護服を傷つけないように気を付けつつ押し当て、気絶させていく。
そして、男たちが気絶したことを確認した所で、俺も男たちに掛けていた【威風なる後】の圧力場を解除する。
「よし、状況終了。麓の拠点に戻るぞ」
「「「了解」」」
そうして、俺たちは男たちをキャリアーに積むと、集合場所に向かうのだった。
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