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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第1章【堅牢なる左】
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第27話「試験終了-1」

「ここは……」

 俺が目を覚ました場所は医務室と思しき部屋に置かれたベッドの上であり、二方が布の囲いで覆われていた。

 まず間違いなく、模擬戦で気絶したためにこの部屋に運び込まれたと言うところだろうな。


「ん?」

「すーすー……」

 雪飛さんがベッドのわきの椅子に座っていて、俺の腹の上に乗っかるように倒れ込んでいる件については……心配して来てくれたってところか。


「おや、ハル君起きましたか」

「ニースさん」

 と、ここでニースさんが唯一囲われていなかった方から顔を出してくる。


「調子はどうですか?何処か痛むところなどあったら、遠慮なく言ってください」

「えーと、ちょっと喉が渇くぐらいですね。後は何処も問題なさそうです」

「なるほど」

 俺の答えを聞いたニースさんが手近なコップに水を入れて持って来てくれたので、俺はそれを一気飲みする。


「ふぅ……それでその……」

「試験についてですね。心配しなくても、ハル君の合格そのものについては問題ありませんよ」

「そうですか。よかったあぁぁ……」

 喉を潤わせたところで、試験についても聞いてみたのだが、その結果に俺は安堵して全身の力を抜く。

 いやうん。これで受かってないとかなったら、もう……ね。

 本当に受かってよかったわ。


「ただ、少々揉めている部分もありますけどね」

「へ?」

 ニースさんが苦笑しながら言ったその言葉に俺は首をかしげる。


「順を追って説明しましょうか。まずハル君の試験が終わった後、直ぐに合否を判断するための会議がダスパにオルガさん、サルモさん、塔長、その他試験官たちに有識者たち数名、それに監督官の一部を交える形で行われました」

「ふむふむ」

「その話し合いで、ハル君の合格そのものについては直ぐに認められました。方法はどうあれ、条件を満たしたのは確かですからね」

「なるほど」

「で、今は総合の試験が終わってからおおよそ半日経っていて、既に日付も変わっているのですが……、未だに入隊後のハル君とトトリさんの処遇や、実際に外に出るにあたっての条件などについての話し合いをしています」

「条件?」

 俺はニースさんの条件と言う言葉に訝しげな顔をする。

 それはどんな条件を付けられるのか分かった物ではない懸念からだ。

 尤も、そんな条件を検討する必要が出た原因については考えるまでも無く分かっているので、しょうがないとも思っているが。


「ええ、やはり模擬戦の最後にハル君が見せた、あの力が問題になっているようです。会議室に居るライ君が私の方に今も議事録を送って来てくれているのですが、条件の大半がそこに関係していますから」

「やっぱり……」

 で、やはりあの力……【堅牢なる(フォートレス)(レフト)】が問題になっているらしい。

 まあ、俺の世界にもないが、サルモさんの表情や反応から察するにこの世界でも未確認の現象だったみたいだしなぁ……揉めるのは当然か。


「と言うわけでですね。塔長の方からも命令されましたし、寝起きで疲れている所にこんな事をしてもらうのも悪いのですが、ハル君。君が分かっている限りで構いませんので、あの力について教えてもらっても構いませんか?議論の方もだいぶ堂々巡りをして、下手をすると妙な方向にも転びかねない感じなので」

「分かりました。こちらこそ願いします」

 と、ここでニースさんが以前も使っているところを見たノートパソコンを膝の上に置くと、俺に対して説明を求めてくる。

 当然、俺としても願っても無い事なので快く答えようとする。

 が、正直に言わせてもらおう。


「一応言っておきますけど、あんなのは俺の元居た世界にも無かったものですし、俺自身分からないことだらけですからね」

 俺の今までの人生であんな力はゲームや漫画の中……つまりはフィクションの世界でしか見た事が無かったものであるし、使えるようになった状況にしても模擬戦の負ける直前と言う余裕も何も無かった状況であったため、分かっている事は殆ど無い。


「それでも別に構いませんよ」

「では……」

 それでも分かる事と言えば……あの力の名前が【堅牢なる左】である事に、発動する少し前に頭の中で妙な声が聞こえた気がしたぐらいか。

 後は頭の中で数字と記号の羅列が高速でスクロールしていた気もするけど……あの数字と記号の羅列、どっかで見た気もするんだよなぁ……何処だったかなぁ……。


「なるほど。名前と、発動の直前に起きた現象の一部は分かっていると。ただ発動条件は分からない……と」

「ん?」

 そうして、俺が言った言葉をニースさんが手元のノートパソコンでまとめている時だった。


「どうしました?」

「あ……あああぁぁぁ!?」

「ほえっ!?」

 俺は気づく。

 あの数字と記号の羅列が、以前ニースさんのノートパソコンを借りて開いた赤と青の外装を持ったUSBメモリーの中身と酷似している事に。


「え?何々?何の話?」

「ニ、ニースさん!あのUSBメモリーか、その中身(データ)は有りませんか!?」

 俺の叫び声に雪飛さんが慌てて目を覚ますが、それどころでは無かった。

 俺は早急にあのUSBメモリーの中身を改めて確認したかった。

 だが……


「は?USBメモリー?何の話ですか?」

「え!?」

 ニースさんの返事は予想外のものだった。

 俺は慌ててニースさんに状況を説明するも、ニースさんの記憶にはそんなUSBメモリーが有った記憶はなく、そもそも俺がデータを見たと言ったその日は、ニースさんが一日かけてレポートを書いていたそうで、そう言う記録もパソコン内だけでなく、ダイオークス全体のサーバーの方にもしっかり残っているとの事だった。


「なんですかそれ……」

「ハル君の言葉を疑うわけではありませんが、レポートについては確たる物証が残っていますからねぇ……」

「ん?」

 まるで狐にでも化かされたような気分だった。

 ニースさんも訳が分からないと言った表情を浮かべている。

 そもそも話の筋すら分かっていない雪飛さんに至っては、困惑などと言う次元で済む状態では無かった。

 ただ一つ確かなのは、あのスピーカーの声の主にまたしてやられたと言う事実だった。


「一先ずこの件については、今は報告する事を控えておきましょうか。今伝えても、会議が困窮を極めるだけでしょうから」

「そう……ですね……」

「んんん?」

 結局、この話についてはまた後日と言う事になり、先に話した内容だけを会議場の方へと送ることになった。

 何と言うか、もし、元の世界に戻る前に機会が有ったなら、一度あのスピーカーの声の主に物申してやりたい気分だった。

03/19誤字訂正

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