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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
269/343

第269話「崩落猿討伐作戦-8」

「おらぁ!」

『ブボッ!?』

 俺の【堅牢なる左】が『崩落猿』の腹に入り、その巨体が少しだけ浮き、後方に向かって飛ぶ。


「ふん!」

『ヴ!』

 そして、『崩落猿』が着地する前に【威風なる後】の力でもって接近。

 【不抜なる下】の尾を『崩落猿』の身体に当てるのと同時に、【苛烈なる右】による攻撃も試みるが、こちらは回避されてしまう。


「まだまだぁ!」

 だが別に避けられても構わない。

 重要なのは『崩落猿』を一撃で倒す事でなく、最終的に勝利を掴む事。

 つまりは『崩落猿』をこの場から逃がさないと同時に、『崩落猿』が現状明らかにしている能力の中で唯一の遠距離攻撃であるパイルバンカーの杭を用いた射撃攻撃をさせない事こそが、俺がやるべき事となる。

 そして、俺のやるべき事を達成出来る可能性が最も高い戦い方が、今まで以上に『崩落猿』に接近し、間髪入れずに攻撃し続ける事だった。


『ヴホッ!』

「ふんっ!」

 『崩落猿』が右手の杭を振るう。

 が、『崩落猿』が得意とするであろう突き刺す動作では無く、振ると言う動作である事。

 懐に俺が居る以上、加速をするための距離がなく、最高速に達する前に俺の身体に接触すると言う事。

 この二点から、その脅威度は『崩落猿』が直接拳を振るうのと同じか、下手をすればもっと弱いかもしれなかった。

 故に、俺の【堅牢なる左】でもって容易に止めることが出来る。


『ウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホッ!!』

「何度も同じ攻撃が通用すると思うな!」

 『崩落猿』がラッシュを仕掛け、俺も対抗するように【堂々たる前】以外の能力でもって防御と攻撃を同時に行う。

 お互いに致命傷は与えられていない。

 だが、隙さえあれば、俺も『崩落猿』も相手に致命傷を与えられる一撃を撃つ気は満々だった。

 ではこの状況で俺が警戒すべきは?

 『崩落猿』の左腕パイルバンカーと口から放たれる咆哮だ。

 この二つだけは絶対に忘れてはならない。


『ハル君仕掛けるよ!』

『ハル・ハノイ。仕掛けるぞ!』

 そうしてしばらくの間、実質牽制にしかなっていない殴り合いを続けていた時だった。

 無線機からトトリとレッドさんの声が聞こえてくる。


『ヴボッ!?』

「よしっ!」

 と同時に、トトリの『ソードビット・テスツ』が『崩落猿』の側頭部を打とうとする形で飛来し、それを避けようとした『崩落猿』の頭が見えないハンマーで叩かれたように大きく弾かれる。

 なるほど、トトリの攻撃は牽制で、本命は長距離狙撃用の対ミアズマント用ライフルか。

 単純だが、良い手だ。

 いずれにしても『崩落猿』の体勢は崩れた。


「【苛烈なる右】!」

『ヴボウッ!!』

 俺は【苛烈なる右】の爪を『崩落猿』に向ける。

 が、『崩落猿』は左腕のパイルバンカーを【苛烈なる右】の爪に向けて射出し、その分解で僅かに爪の速度が落ちた隙に有効射程圏外に転がりながら逃げる。


『ヴ……』

 そして、『崩落猿』は転がる勢いを生かして立ち上がると、右手の杭を向ける。

 俺の方では無く、トトリの剣とライフルの弾が来た方向に向けて。

 狙いは?

 言うまでもない。


「させるか!」

 故に『崩落猿』のやろうとしている事を察した瞬間、俺は俺の切り札を切る事にした。


『ボ……』

「【堅牢なる左】【威風なる後】!」

 俺は【威風なる後】の力によって素早く『崩落猿』の懐に入り込むと、【堅牢なる左】と【威風なる後】の出力を同時に上昇させ、【堅牢なる左】の斥力場に【威風なる後】の圧力場を上乗せする。

 勿論、周囲の瘴気だけではエネルギーがまるで足りない。

 が、そこはこの一か月間の間に多少は習熟した俺自身の魔力でもって、ほんの僅かな間ではあるが、無理やり保たせる事に成功する。


「オラァ!」

『アアァァ!?』

 結果、俺の【堅牢なる左】は『崩落猿』の太く重い右腕を弾き飛ばし、パイルバンカーの射出口も上に向かって跳ねあげることに成功。

 と同時に、パイルバンカーは上空に向かって射出され、何処かに消えてしまう。


「決める!」

『ヴ……』

 そして、俺の行動は思わぬ副産物を生んでいた。

 予想外の方向に飛ばされてしまったためなのか、『崩落猿』の体勢は大きく崩れていたのだ。


「【苛烈なる(アサルト)(ライト)】!」

 俺は他の能力を低出力状態に戻し、普段通りの圧力場を張ると同時に、【苛烈なる右】の力場を全力で展開。

 『崩落猿』の肉体を切り裂くべく振りかぶる。


「消しと……」

『ボアァ……』

 絶対に避けられない位置だった。

 誰もが……それこそ『崩落猿』自身すら、逃げられないと理解していただろう。

 だが俺の爪が『崩落猿』の身体に当たる直前。


「べがっ!?」

『アァ?』

『えっ?』

 俺の側頭部に何かがぶつかるような感触がし、その衝撃で俺の身体は吹き飛ばされ、『崩落猿』の身体を狙っていた【苛烈なる右】の爪は『崩落猿』の左腕を両断するに留まる。


『ハル君!?』

『ハル!?』

『アラート1!アラート3!!』

「ぐっ……」

 そして、衝撃が有ってから一瞬遅れて聞こえてきたのはライフルの銃声、トトリたちの俺を心配する声、レッドさんの敵の逃走(アラート1)未知の敵の出現(アラート3)を告げる声だった。


「何が……起きた……」

 立ち上がった俺は周囲を見渡す。

 だが、アラート1の言葉通り、既に『崩落猿』の姿はない。

 音も聞こえないので、追う事も出来ないだろう。

 と同時に、俺の側頭部から金属の膜の様なものが落ちてくる。

 俺はそれが先程の衝撃の原因であると察すると同時に、一瞬フレンドリーファイアによって『崩落猿』を仕留めるチャンスを逃がしたのかと思った。


「……」

 だが、先程レッドさんはこう言ってなかったか?

 アラート3……未知の敵の出現。と。

 おまけに、対ミアズマント用ライフルにしては、俺の【威風なる後】の防壁を貫いたことを考えても威力が無いし、金属の量も少ないと思う。


「ふふっ……ふふふふふ……」

 つまり、今の攻撃は『崩落猿』を狙った物ではなく、俺を狙った物だったと言う事だ。

 その事に気づくと、俺の口から変な笑いが漏れ出てきた。


『ハ、ハル君?』

『ハル?』

 トトリたちが心配したような声を掛けてくるが、今は気にする事じゃあない。

 今気にするべきは……。


「【威風なる後】!」

 俺はライフルの弾が飛んで来た方向に向けて、強力な圧力場を発生させる。

 そう、今気にするべき事は、俺の邪魔をしてくれた何処かの誰かさんを誤って地面のシミにしてしまわないようにする事だ。


「舐めた真似をしてくれんじゃねえか……」

 さて、何者かを圧力場で抑え込んでいる感触もある事だし、下手人の正体を確かめに行くとしようか……。

11/15誤字訂正

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