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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】

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第267話「崩落猿討伐作戦-6」

「ふぅ……ふぅ……」

『ウホォウ……オウ……』

 殴り合いは?

 既に十数分ほど続いており、今は小休止としてお互いに相手の様子を窺いつつ、距離を取って息を整えている。


「しかし堅すぎるだろ……」

 致命傷と言うか、手ごたえは?

 無い。

 文字通り、鋼鉄の塊を叩いているような物で、『崩落猿』の表皮には歪みすら殆ど生じていない。

 それでも【苛烈なる右】の物質分解能力持ちの爪が当てられれば、戦況をこちら側に大きく傾けられるのは間違いないだろう。

 ただ、肝心のその爪は『崩落猿』に常時最大限で警戒されているから、囮ぐらいにしか使えない。


『ヴホオオォォ……』

 ただまあ、それは『崩落猿』にとっても同じような物だろう。

 なにせ、『崩落猿』から見れば、俺は全力で殴っても殆どダメージを与えられず、しかも殴った傍から【堂々たる前】の効果で与えたはずの手傷が回復してしまうのだから。


「完全に千日手の状態だな」

『……』

 ぶっちゃけ、俺個人の火力と言うか能力でどうにかしようと思うと、相当のリスクを侵さなければ、『崩落猿』に十分な一撃を与えることは出来ないだろう。

 だがそれは『崩落猿』も同じこと。

 俺を倒したいのならば、最低でも【堂々たる前】の再生能力を上回る攻撃を連打するか、【堅牢なる左】を筆頭とした強固な防御壁を突き破って大ダメージを与える攻撃が必須なのだから。

 となればだ。


『こちら司令部。ハル・ハノイ。状況は優勢だが、『崩落猿』の取り巻きを排除し終わるのはもう少し先になりそうだ。ツラいだろうが、持ちこたえてくれ』

「こちらハル・ハノイ。了解した」

 勝敗を動かすのは周囲の状況。

 つまりはレッドさんたちと『崩落猿』の取り巻きたちとの戦いがどうなるかなのだが……うん、時間を稼いでいれば、俺側に状況は傾きそうだな。


『……』

「……」

 俺は『崩落猿』の様子を観察する。

 『崩落猿』は今の情報を知っているのだろうか?

 知っていてもおかしくは……ないな。

 時々だが、瘴気の向こう側からタイプ:エイプの鳴き声が聞こえて来ているし、それに何かしらの情報が含まれていれば、『崩落猿』が状況を察していてもおかしくはない。


『……』

「……」

 周囲の状況は?

 『崩落猿』が武器として扱えるような物はない。

 同時に、タイプ:エイプが保有する上下への移動能力を生かせるような地形も無い。

 そう言う場所を選んだのだから、当然なのだが。


『スゥ……』

「来るか」

 ……。

 総合的な状況から言って、『崩落猿』が生き残るには早急に俺を始末するしかない。

 となれば……うん、仕掛けてくるな。


『ヴボアアアァァァ!!』

「……」

 『崩落猿』が低い姿勢を保ったまま大振りの一撃を仕掛けてくる。

 重い。

 が、これだけならば何の問題も無い。


『ウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホ!』

 続けて『崩落猿』はラッシュを仕掛けてくる。

 やはり一撃一撃が重く、守りを崩す事は出来ない。

 だが、先程防げたのだから、これも問題にはならない。


『ウ……』

 何か仕掛けてくると言うのは杞憂だ……


「っつ!?」

 悪寒。

 その時感じた物を一言で表すのならば、そう称する他なかった。


『ホ……』

 時間の流れがゆっくりになったかのように、軽く飛んで後ろ回し蹴りの体勢に入った『崩落猿』の動きが酷くのろまな動きで持って視界の中で進む。


『ア……』

 色が失せる。

 臭いが失せる。

 音が失せる。

 地面の上に立っていると言う感覚すらも失せ、外部から与えられる情報が視覚によるものだけになる。


『ア……』

「……」

 【威風なる後】の圧力場を重ねた【堅牢なる左】に『崩落猿』の脚がぶつかる。

 【堅牢なる左】越しに俺の頭に向けられた『崩落猿』の足裏に有るのは?

 金属製の突起だ。


『ァ……』

「ぐっ……」

 その突起が伸びてくる。

 【堅牢なる左】も、【威風なる後】の圧力場も、【堂々たる前】の甲殻も貫いて、金属製の突起が金属製の杭になって真っ直ぐに伸びてくる。


『ァァァァァァァ!!』

「!?」

 俺は【不抜なる下】以外の全能力を解除して後方に倒れ込む。

 と同時に時間の流れが元に戻り、倒れ込んだ俺の眼前の金属製の杭が目にも留まらぬ速さで突き抜けていく。

 そして、その杭の動きが止まり、重力の働きに従って落ちて来る前に、俺は【不抜なる下】の尾を使って自分を『崩落猿』から離れた位置にまで撥ね飛ばす。


『ヴボッ』

「はぁはぁ……ぐっ……」

 俺は地面を何度か転がった後、立ち上がり、再び能力を発動する。

 それに合わせて杭に貫かれた左腕と胸を幻痛が襲う。

 痛みは耐えられるが……流石に腕を貫通させられるような傷となると、再生させるのには時間がかかりそうだな。


『ヴウウゥゥ……』

 『崩落猿』の姿を見れば、足の裏から出た杭を足の中にゆっくりと再収納している所だった。

 ああなるほど。

 『崩落猿』の使った武器の正体が分かった。


「まさかパイルバンカーとはな……」

 『崩落猿』が使ったのはパイルバンカーと俗に呼ばれるものだ。

 尤も、恐らくは『崩落猿』の能力を利用した特製品であり、低出力版とは言え、俺の能力による防御を難なく貫くほどの威力を有するパイルバンカーだが。

 まあ、いずれにしても……


「こちらハル・ハノイ。敵の切り札が分かった。敵はパイルバンカーを四肢に装備している。絶対に射程圏内には近づくな。瘴巨人の装甲どころか、専用の盾でも抜いて来るぞ」

『こちら司令部。ハル・ハノイの報告を受理』

 これで『崩落猿』の切り札がやっと分かった。

11/14誤字訂正

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