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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
265/343

第265話「崩落猿討伐作戦-4」

『『『ギィギィ!?』』』

『『『キャウキャウアアァァ!!』』』

『奇襲成功!』

 【苛烈なる右】の爪を先頭として、俺の身体が瘴気の海の中に飛び込む。

 と同時に、俺の進行方向……地面が有る方からはタイプ:エイプたちの鳴き声と金属同士がぶつかり合う音が聞こえてくる。


『戦果鼠3、狼1!』

 トトリの声が無線機から聞こえてくる中、俺の身体は重力も味方に付け、更にその速度を増していく。

 そして、徐々にではあるが、暴れまわる猿型のシルエットと剣型のシルエットが見えてくる。


『ウホッ!?』

 行ける。

 数ある猿型のシルエットの中でも特に大きい物……『崩落猿』の頭上からその身に迫る俺はそう感じていた。

 だが……


『ウホォウ!?』

「何っ!?」

 【苛烈なる右】の爪が『崩落猿』の脳天に突き刺さると思ったその瞬間。

 『崩落猿』は自身の後方に飛び退き、紙一重のところで俺の爪を回避してみせる。


『「……」』

 【苛烈なる右】の爪が地面に突き刺さり、飛び退いた『崩落猿』が地面に着地するまでの僅かな時間の間、俺と『崩落猿』の視線が交錯する。

 そして理解する。

 コイツは地中から飛び出したトトリの『ソードビット・テスツ』が陽動だと気づいていた。

 だから、他のエイプたちと『ソードビット・テスツ』が戦い、激しい騒音が発生している中でも、俺が急降下する事によって生じていた音に気づき、回避することが出来たのだと。

 やはり、コイツ相手に気を抜くことは許されない。

 それがほんの僅かなものであってもだ。


『スゥ……』

「全部位起動!【堅牢なる左】出力強化!」

 『崩落猿』が吸気行動を行い、その胸を膨らませる。

 と同時に、俺も地面に刺さったままの【苛烈なる右】を軸として身を翻し、全ての能力を発動。

 特に【堅牢なる左】は通常出力にして俺の前に構える。


『ーーーーーーーーーーーー!!』

「っ!?」

 『崩落猿』がその通称の由来にもなった咆哮を放つ。

 その咆哮は全能力を発動し、大幅に防御能力が引き上げられている俺でも十分な脅威と、全身が激しく揺さぶられる感覚を覚えるほどの威力を有していた。


「お返し……」

 だが耐えられる。


「だ!」

『ッ!?』

『『『キキィー!?』』』

 故に俺は『崩落猿』の咆哮が途切れた瞬間に【不抜なる下】の片足を軸としてその場で回転。

 両腕で『崩落猿』に攻撃を仕掛けると同時に、周囲に居るエイプたちの位置を把握。

 通常出力に引き上げた【威風なる後】の力によってエイプたちを可能な限り遠くまで吹き飛ばす。


『ヴボウゥ……』

「ふん」

 そんな俺の行動を【苛烈なる右】の爪を躱す事に専念していた『崩落猿』は当然止める事は出来なかった。

 だが、『崩落猿』に飛ばされた仲間たちの様子を気にした様子は無い。

 恐らく、俺相手には仲間が居ても殆ど役に立たないと理解しているのだろう。


「こちらハル・ハノイ。目標と取り巻きの分断に成功。目標は無傷」

『こちら司令部。ハル・ハノイの報告を受理。フェイズ4-Bへの移行を宣言する』

 だがまあ、仲間を呼び出さないなら、そちらの方が俺としてもあり難い。

 なにせフェイズ3は『崩落猿』への奇襲と、『崩落猿』と取り巻きを分断する事を目的としているのだから。

 そして次のフェイズ4は……


『各員、奮戦せよ!』

『『『了解!!』』』

 分断したエイプたちと『崩落猿』をそれぞれが各個撃破することである。


「さて、人間の言葉が理解できているとは思わないが、お前なら状況は分かっているよな」

『……』

 俺は【不抜なる下】の座標固定を解除すると、何時でも動き出せるように油断なく構える。

 と同時に、以前チラりと見た時よりも明らかに巨大化している『崩落猿』の身体を観察する。

 身長はおよそ4m。

 ギリギリ悪魔級として扱われるレベルだ。

 だが、以前よりも更に逞しくなったその肉体と、新たに得た四肢に関係するであろう能力が有る可能性、それらを組み合わせた結果の総合的な戦闘能力を考えれば、ただ大きいだけの下手な竜級よりも脅威であるかもしれない。


「お前の相手は俺。俺の相手はお前だ」

 故に、間違っても『崩落猿』を俺以外の誰かと直接戦わせる訳には行かない。

 事前のミーティングで言われた通り、俺が最低限果たすべき役割は『崩落猿』をこの場に留め続けることで間違いなかった。


『……』

 そして『崩落猿』も分かっている。

 以前に会った時の俺ならば、危なくなったなら逃げだせばいいだけだったが、今の【威風なる後】を得た俺から逃げるのは至難の業である事に。

 己が生き残るためには、最低でも俺を行動不能にさせる必要が有る事に。


『スゥ……』

「また咆哮か?」

 『崩落猿』が息を吸い、俺は身構える。

 俺はまた咆哮が来ると思っていた。


『ウオォウウオォウウォウゥ!!』

「!?」

 だが『崩落猿』が発したのは咆哮では無く、狼の遠吠えのように良く響き渡る声だった。

 そして、その行動がもたらしたのは……


『こちら第1攻撃隊!アラート2!鼠10、狼3、熊1!』

『第2攻撃隊!アラート2!鼠8、狼2、熊1!』

『第3攻撃隊アラート2!鼠9、熊2!』

「てめぇ……」

『ニィ……』

 アラート2、敵の増援発見の知らせだった。


『やはり、余剰戦力を秘匿していたか……こちら司令部。敵余剰戦力に遭遇した班は、耐えることを第一に考えろ』

『『『了解!!』』』

『ハル・ハノイ。悪いが、お前の援護に回るのは最後になる。気を付けろよ……』

「了解……」

 レッドさんの指示を頭の片隅に置きつつ、俺は笑みのような物を浮かべる『崩落猿』を正面に捉える。

 そして、改めて『崩落猿』の危険性を感じ取ると共に、どう『崩落猿』を倒すかを思案していた。

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