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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
260/343

第260話「相談-3」

「マーカー……か。確かにそう言う意見も狂調委員会の中では出ていたな。ただ、幾らなんでもあり得ないと言う事で、除外された可能性だったはずだ」

「有り得ない?」

「ああ、二つの物質間でやり取りされるものも無いのに、影響を伝えられるなんてことは物理的に有り得ない。それまでの検査では発見されなかったのに、吹き飛ばされた瞬間に出て来るなんて有り得ない。だそうだ」

 トトリの案にケチを付ける様に、アゲートさんはそう言う。

 いや、どちらかと言えば、その有り得ないと言う意見を出した人間に対して困っていると言った感じだな。これは。

 しかし有り得ないねぇ……。


「だが、現実的に考えて、一番可能性が高いのが、あの鱗はマーカーだったと言う案だろう。でなければ、狂暴化した人間全員の体内から出てくるなどと言う事はそれこそ有り得ないだろう」

「と言いますか、今までに発見されていなかっただけで、今回の事件を起こせるような性質を持っている瘴金属が存在している可能性だってありますよね」

「瘴気学含めて、そもそも科学と言うのは、現実に起こっている現象の方を優先して考えるべきものですしね」

「と言うか、有り得ないなんて言ったら、ハル様とかどうするのって言う話だよね」

「いやはや、痛い所を突かれた気分だが、確かにその通りではあるな」

 今のこの世界の事全てを知っている人間なんて、それこそ神と呼ばれる存在を含めても絶対に存在しえないのに、その有り得ないと言った人物は一体何を考えているんだか。


「でも本当にハルの鱗がマーカーになっているのだとしたら、腑に落ちない点があるね」

「と言うと?」

 と、ここでワンスが悩ましそうな口調でそう呟く。


「いやさ。狂暴化そのものはいつぞやの聖陽教会・自殺派の連中のように、精神操作を行える特異体質の保有者が居ればいいだろ。で、それを特異体質持ちから遠く離れた場所に居る人間に伝えるのには、ハルの鱗が有ればいい。でもさ、それなら今回の件の真犯人とでも言うべき人物は、一体どこからハルの鱗を手に入れたんだい?」

「それは……確かに妙ですね。ハル様の鱗の性質については偶然で片付けてしまうことが出来る範疇ですが、その点だけは確かにおかしいです」

「そう言えば、君の鱗は剥がれ落ちるような物ではないし、仮に剥がれ落ちても、能力を解除すれば一緒に消えてしまうんだったか」

「そうです」

 ワンスが出した疑問は、俺の鱗をマーカーと考えた場合、確かに解せない点だった。

 何せ、今回の事件が有ってから今までの二週間の間に、俺の鱗が剥がれ落ちた場合どうなるのかについて外勤部隊の仕事中に確かめてみたのだが、その結果はアゲートさんが今言った通りだったからだ。

 つまり、仮に【堅牢なる左】を初めて発動した時から今までの活動中に鱗が剥がれ落ちたとしても、その鱗は消えてなくなっており、間違っても今回の件の真犯人たちの手元に渡る事は有り得ないのである。


「となると考えられるのは……ハル様そっくりの誰かが向こうに居るか、ハル様の鱗の設計図のような物を向こうが持っているって事?」

「そうだな。我はハルハノイ以外に兄弟は知らないが、エブリラ様ならハルハノイ以外に似たような存在を送り込んでいてもおかしくないと思うし、設計図が有るのなら、鱗の一枚ぐらいは我にも作れると思う」

 では何故俺の鱗が向こうの手元にあるのかと考えたら……まあ、そう言う結論に至るしかないか。

 ただなぁ……俺の兄弟がいると言う線は薄いと思う。

 俺とロノヲニトは見ての通り、まるで似ていないし、仮に兄弟だと言うなら、そいつは双子どころではない程に俺に似ている事になる。

 なにせエイリアスさんの『真眼』でも差が見分けられない程なのだから。

 後、そもそもとして、あのイヴ・リブラ博士の性格からして、そんな瓜二つの個体を作るぐらいなら、もっと別の方向性を目指した俺とは全く違う個体を作ると思う。

 聖陽教会の教義からして出来る限りの多様性を持たせたがっている気もするし。


「設計図か……ハル。確かお前の能力は例のお前が見たら消えるUSBメモリを見ることによって発現するんだったな」

「です。なので、あのファイルが俺の能力の設計図と考えても別におかしくはないと思います」

「あれ、でも。あのUSBメモリって……」

「イヴ・リブラ博士の仕掛けによって、かなーり厳重に守られているだろうね」

 かと言って、設計図と言う線も割合微妙だったりする。

 と言うのも、例のUSBメモリは最初の一個を除けば、いずれも鍵が無ければとてもではないが、見つけられないような場所に用意されていたからだ。


「おまけに中身も中身だしなぁ」

「そう言えば、ハル様以外が見ようとしたり、解析しようとしたりすると、カウンターが来るんでしたね」

「そうそう」

 さらに言えば、その中身は暗号化され、なおかつ俺以外が見ると複数の罠によるカウンターが解析者に炸裂すると言う極悪仕様であるため、聖地で見つけた書類と違って解析できるような物でもないのだ。


「じゃあ、この線も無いって事?」

「でも現物は確かにあるし、この部分が偶然でどうにかなるとは思えないんだけどねぇ」

「ふうむ……」

 うん、こりゃあ手詰まりだな。


「すみません、アゲートさん。これ以上は思いつきそうにないです」

 正直これ以上の意見は出そうにない。

 そう俺が思ってアゲートさんに話しかけたら……


「いや、十分だ。一応でも筋道がきちんと通っている案が出たのだから、十分な収穫だよ。頭が固い連中に聞かせるべき言葉も出てきたしね」

 アゲートさんは笑ってそう返し、第32格納庫を去っていったのだった。

11/07誤字訂正

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