第258話「相談-1」
さて、俺たちがダイオークスに帰って来てから二週間ほど経った。
慣れとは恐ろしい物で、既にエイリアスさんとフィーファさんの二人は我が家にも、ダイオークスにも馴染んでしまっている。
勿論、エイリアスさんが居る事によって様々な問題が発生する可能性はあったのだが、今のところは特に問題は起きていない。
「ふう、今日の訓練は終了っと」
で、現在地は俺たちダイオークス外勤部隊第32小隊に割り当てられた第32格納庫であり、そこで俺たち第32小隊は全員集まって、休憩と今度の作戦概要を読み直していた。
「お疲れ様です。ハル様、トトリ様、ワンス様、シーザ様、セブ様」
「ありがとうナイチェル」
「ありがとー」
「ありがとうね」
しかしまあ、やっぱりと言うべきか、『崩落猿討伐作戦』はかなり大規模な物になって来ているな。
『崩落猿』の居る場所がファーティシド山脈の山中である事と、調査班の報告から推察する限りではあるが、俺と戦った時よりも『崩落猿』が強くなっている事を考えれば当然の規模なのかもしれないが。
「ん?」
「どうぞ」
「失礼する」
と、ここで扉がノックされ、珍しい人物が部屋の中に入ってくる。
「ああよかった。全員揃っているようだね」
「アゲートさん。どうして此処に?」
部屋の中に入ってきたのは中央塔の役人であるアゲートさんだった。
うん、アゲートさんがここに来るなんて本当に珍しい。
と言うか、電話もあるから、塔外の人物がここを訪れること自体が至極珍しいんだけどさ。
「連絡と相談……と言ったところだね」
「はぁ……?」
で、そんなアゲートさんがわざわざ第32格納庫を訪れたのは、当然雑談に興じるわけでは無かった。
「まず連絡の方は、君たちが『ボウツ・リヌス・トキシード』の聖地で発見した暗号についてだ」
「解読できたんですか?」
「部分的に。だそうだがね」
そう言ってアゲートさんが見せたのは、一枚の何か図面のような物が描かれた紙だった。
「これは……船ですか?」
「そうだ。と言ってもまだ分かったのは外装の概略図程度で、エンジンや各種配管と言った部分についてはまったくの手つかず状態だと思ってもらって構わないらしい」
図面に描かれていたのは船だ。
ただ、その形状が俺の良く知る船とは微妙に違う事を考えると、船は船でも浮瘴船の方かもしれない。
「でも、これをどうして私たちに?」
トトリの質問にアゲートさんの目が細くなる。
「全てが解読されるのにはまだ時間がかかるそうだが、解読が完了し、計算上は安全であることを確かめられたら、この船は建造されることになる」
「それはまあ……、そうだろうね」
「ただそうなれば、この船はイヴ・リブラ博士が残した暗号に基づいて造られた船と言う事になる」
「?」
「となれば必然、我々の技術だけでは建造出来るか怪しい部分もあるだろうし、運用の際には最高クラスの戦力で護衛をするべきだと判断されるだろう」
アゲートさんの視線が俺、ロノヲニト、トトリの三人に向けられる。
ああなるほど。
何で俺たちにこの話が来たのか分かったわ。
「なるほど。ハルとトトリは戦力として、ロノヲニトは製造が難しいパーツの製作者として、予め声を掛けておこうって言う訳だね」
「まあ、そう言う事だ。ああ勿論、この三人を引き抜く以上は、他の面々も一緒に来てもらう事になるとは、この場で明言させてもらおう」
「ふうん」
まあ、他の皆も一緒に来るんだったら、俺から言う事は特にないかな。
実際、連携の事を考えても、それ以外の事を考えても、第32小隊の皆と一緒の方が良いに決まっているし。
「いずれにしても、この件についてはまだまだ先の話だから、今は目の前の任務に集中してくれ。聞くところによれば、近々……確か二週間後だったか。大規模なミアズマントの討伐作戦が有ると聞いてるしね」
ん?どうしてアゲートさんが『崩落猿討伐作戦』の事を知っているんだ?
基本的にこの手の話は外部に出さない……と言うか、出してはいけないものなんだが。
職務規定とか、機密保持とかで。
「あれ?どうしてアゲートさんがその作戦のことを?」
「ん?私は普通に上司から聞いただけだが?」
セブの質問に、特におかしいと思った様子も無く、アゲートさんは返答する。
失言をしたとか思っている様子はない。
うーん、もしかしなくても、誰かがわざと漏らしたか?
となると問題は、誰かがわざと作戦が行われると言う情報を流す事によって、その誰かさんが何をしたいのか何だけど……。
うん、全く分からん。
意図がまるで読めない。
とりあえず後で一応ライさんに報告と相談だけはしておこう。
そうすれば、何かしらの進展はあるはずだ。
「それで、作戦が行われる話を知っているのは脇に置いておくとして、相談と言うのは何だ?」
「ああそうだった」
シーザの言葉に自分のやるべき事を思い出したのか、アゲートさんが別の書類を出す。
その際に、「やれやれ何で私が彼らの事情聴取をしなければいけないんだか……」という声も聞こえた気がするが……きっと、一応でも俺たちとの繋がりが有るからだと思いますよ。ええ。
「相談と言うのは、およそ二週間前に起きた『世界同時多発無差別狂暴化事件』についてだ」
そしてアゲートさんの口から出てきた相談事は、二週間前の事件についてだった。