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瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
257/343

第257話「能力検査-2」

「試す……ですか」

『そうだ。まずは……』

 俺がレッドさんの言葉に耳を傾けている間に、複数のサンドバッグと鉄の棒や板が運び込まれる。

 と言うか、俺の目が正しければ、板の方は瘴巨人の装甲版だよな。うん。


『では、始めるとしよう。まずは範囲を極端に絞ってみろ』

「了解」

 俺は右手を銃の形にすると、目の前に吊るされているサンドバッグに向けて人差し指を向ける。

 その上で【威風なる後】の圧力をかける範囲を可能な限り絞るイメージをする。


「……。発射!」

 【威風なる後】の力によってサンドバッグの表面に、針の孔ほどの面積で『クラーレ』の石柱を破壊するレベルの圧力が発生する。


『おお……』

『まずは上手くいったか』

 当然、正確な材質は分からないが、革製と思しきサンドバッグにそれだけの圧力を耐える力はなく、サンドバッグの表面は一瞬にして突き破られる。

 だが、破壊はそれだけに留まらず、中身である砂をそのままの勢いで押し込み続ける。

 そして、表面が破壊されてから一瞬経った後、圧力を掛けた側とは反対の面からサンドバッグが爆発するように砂が吹き飛び、大きな音と共にサンドバッグが吹き飛ぶ。


『よし次だ』

「了解」

 次に出てきたのは金属製の板。

 それに対して、俺は先程と同じように圧力を発生させる。


『穴が……』

『まあ、これぐらいは当然だろうな』

 すると、金属製の板には小さく綺麗な穴が生じる。

 まあ、綺麗なのはこちら側から見た場合で、反対側から見れば、引き伸ばされ、引き千切れた金属が見えるのだろうが。


「で、次が……」

『そうだ。次は点では無く、線にして放ってみろ』

「……」

 俺は右手を手刀の形にして、目の前に吊るされているサンドバッグに向けて真っ直ぐ伸ばす。

 そして、圧力をかける範囲を線状にした状態でセットする。


「はっ!」

 俺が腕を振るのと同時に圧力が発生。

 圧力が発生した場所を切り取り線として、サンドバッグが切られ、支えを失った下側は少し吹き飛ばされながら落下する。


『よし、よくやった』

 ちなみに、さっきからワザと腕を振るなり、指を向けたりした上で能力を起動しているが、別に【威風なる後】の狙いを付けるにあたって、両腕を動かす必要性は全く存在しない。

 【威風なる後】の狙いを付けるのに必要なのは、俺が認識できるかどうかだからだ。


『では次は……』

 ただ、レッドさんはその事に気づいているはずなのに指摘をせず、記録をそのまま続けさせている。

 その意図は……まあ、明白だな。


 一つは、俺が【威風なる後】発動前に手を振るなり、向けるなりすれば、その動きを見た俺以外の人間……仲間たちはその動きに合わせる事で様々な行動をとることが出来る。

 うん、前兆も何も無い行動ってのは、一緒に戦う仲間からしてみれば、射線上に入ってしまった結果起きる誤射の危険性に、攻撃が当たった敵が吹き飛ぶことによって狙いが外れる可能性を常に感じるものだからな。

 中々に怖い。


 もう一つは、逆に敵に向ける場合の話だな。

 この場合は、俺がモーションを起こしたら回避行動に出ればいいと思っている相手に対して一方的な奇襲を掛けられることになる。

 これをメリットと言わないで、他の何かをメリットと言う事は出来ないだろう。


『よーし、その調子だ』

 でまあ、わざわざこの場でレッドさんが誤った情報を残そうとしているのは……この誤った情報を流したい相手が居るからだろうな。

 その相手が誰なのかは考えるまでもない。

 『ノクスソークス』だ。


「ふぅ……」

『ようし。少し休憩にするぞ』

 俺が妙な感覚を感じた時、ダイオークスで多くの人が暴れ出した件。

 フィーファさんが言うには、実はあの時、ダイオークス以外でも同様の事件が発生していたそうだ。

 そのため、この事件の第一首謀者として挙げられたのは唯一被害が発生しておらず、そう言った事件を都市単位で起こす動機が有る都市であり……つまりは『ノクスソークス』だった。


「いやはや、恐るべき力だな。【威風なる後】」

「レッドさん」

 レッドさんが部屋の中に入って来て、その場に座って休憩している俺に近づいてくる。


「ハル。ボソッ……(そのままそこで聞いていろ)」

 俺はレッドさんの言葉に、一見すれば疲れがたまって項垂れたかのように頷く。


「ボソッ……(分かっているとは思うが、奴らが何処に情報を得るための網を張っているのか、どうやってあんな事件を起こしたのかは未だに分かっていない。そこであの事件の被害を著しく抑えたのがお前だとバレれば、奴らは確実にお前に対して仕掛けてくる。そして、その際にはお前に関する情報を可能な限り集めようとするだろう)」

 レッドさんは部屋の中をうろつきながら、俺にだけ聞こえる声量で話し続ける。


「ボソッ……(故に、いざというとき以外はさっきのように、手を振るのに合わせて力を使うようにしておけ。その方が何かと便利だ)」

「……」

 どうやら俺の推量は当たっていたらしい。

 なので、俺は素直に、けれどこっそりと頷く事とした。

11/03誤字訂正

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