第254話「問題児-5」
「ほんっとうにすみませんでした!」
「いえいえ」
翌日の昼過ぎ。
俺たちの家に予想通りの人物が現れると、開口一番で謝罪し、頭を下げた。
「密航の件については、フィーファさん……と言うより、トキシードには責任はないと思います」
「ですが……」
「まあまずは、そちらに座って、私たちの話を聞いてください」
「は、はあ……」
で、放っておいたら何時までも頭を下げ、謝罪をし続けていそうな感じだったので、ナイチェルがまずは席に着くように促す。
「それで話と言うのは……」
そして、その上で昨日一日使ってエイリアスさんから聞き出したとある情報……どうやって各都市の中でも特に警備が厳重なはずである空港の警備を抜けたのかについて話す。
「以上です」
「……」
で、その話を聞いたフィーファさんは一瞬放心し、その後すぐに頭を抱えだす。
うんまあ、そう言う反応をしたくもなるよな。
「魔力を目に集めることによって『真眼』を強化する……ですか……」
「ええ、それによって監視カメラを通した物含め、他者の視界がどこまで広がっているのかが分かるようになったそうです……」
なにせロノヲニトがトキシードで説明した魔力を利用する事によってエイリアスさんは警備を誤魔化していたのだから。
うん、そりゃあ、普通の人間じゃあどうやってもエイリアスさんを止められないよな。
恐らくだけど身体能力の強化や直観力の向上なんかも無意識でやっているだろうし。
でなければ、ダイオークス空港で俺たちの居場所を掴んでいた事に、【堂々たる前】を難なく回避して見せた事、そこに至るまでに存在していたであろう機械的な仕掛けに引っかからなかった事に対する説明が付かない。
後、ナイチェルを抱きしめた時の破壊力とかもな。
「あー、一応我の方から言い訳させてもらうとだ。こんな短期間でマーナを使いこなすと言うのは、我にとっても予想外だった。まさか目に見えていると言うだけで、此処まで進歩に差が出るとは思わなかったのだ」
「……」
ロノヲニトの言い訳は……まあ、真っ当な物だろうな。
ナイチェルたちの様子を見る限り、魔力の扱いは一朝一夕で身に付くような物ではなさそうだし、特別な世界とは言え、魔力を扱った経験を持つワンスでも、まだ初心者と言っていい次元なのだから。
だからと言って、責任が無いと言う事にはならないが。
「どうやって抜けたのかと言う理由については、後で母の方に直接報告しておきます」
「それでいいと思います。私たちもダイオークス政府の上の方のお方に伝えましたから」
まあ、この件のおかげで魔力と言う不可思議な物について説明しやすくなったのも確かではあるんだがな。
と言うわけで、ロノヲニトの責任についてはお上の判断を待つ方針で俺たちは一致している。
「で、私はこれからどうなるのね?」
「はぁ……そうですね。話を進めましょうか」
と、いつの間にかリビングの方にエイリアスさんがやって来ていた。
どうやらフィーファさんが来たことを何処からか聞き付けたらしい。
「まず、私は本日付で、エイリアス・ティル・ヤクウィードは二日前の日付でダイオークスに入っていたことになりました」
「それは俺たちも聞いたな。要するに今回の件は無かった事にするって事だろ」
「そうです」
俺の言葉にフィーファさんは静かに頷く。
「それで入都の目的ですが、私もエイリアスさんもダイオークス中央塔大学に留学するために来た。と言う事になっており、明日からダイオークス中央塔大学の方に赴く事になります」
「へー。でも、いきなり全く知らない場所に二人っきりって言うのは色々と問題なんじゃないの?」
「はい。その点については両政府でも問題だと見ました。なので、出来るだけ近くに知り合いがいた方が良いだろうと判断し、私もエイリアスさんもトゥリエ・ブレイカン教授の研究室に所属。と言う事になっています」
「「「……」」」
何だろう。
今、中央塔に在る自宅か研究室で、不意の悪寒に身を震わせているトゥリエ教授の姿が見えた気がする。
でもごめんね。トゥリエ教授。
俺たちも明日から外勤部隊の仕事が有るから助けに行くことは出来ないんだ。
だから頑張って!応援はしてるから!
と、そんな風に俺が思っていた時だった。
「へ、へー。ところで二人はダイオークスの何処に滞在する事になるの?何処かの塔のホテル?」
「いえ、留学生と言う身分を考慮すると、ホテルに宿泊し続けるのは良くないと母が判断したので、ホテルではありません」
「じゃあ、何処に泊まるんだい?」
「それなのですが……ナイチェルさん。これをどうぞ」
「拝見させてもらいます」
フィーファさんがナイチェルに書類のような物を手渡し、ナイチェルは直ぐにその中身を一読する。
書類の内容は……
「留学期間中、フィーファ・エタナ・アグナトーラス、エイリアス・ティル・ヤクウィードの二名をこの家に滞在させるように。です……か」
「「「!?」」」
「はい。そう言う訳なので、よろしくお願いしますね」
「おおっ、やったなのね」
フィーファさんたちがこの家に住むことを許可する物だった。