表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瘴海征くハルハノイ  作者: 栗木下
第5章【シンなる竜頭の上オウ】
252/343

第252話「問題児-3」

「問題児……っすか」

 俺の言葉にライさんは妙なものを見るような目を俺たちに向ける。

 いやまあ、俺たち視点でも問題児って言うのはライさんにとっても予想外なんだろうけどさ。

 でもさぁ……


「風呂に入っていたら突撃を仕掛けられました」

「……」

 これは昨日の夜に俺が遭遇した事。


「リビングで寝ていたら、構造を調べたいと言う理由で解体されかけた」

「……」

 こちらはロノヲニトが昨日の深夜に遭遇した事。

 勿論、本体ではなく、外装であるガイノイド部分についての話である。


「頭のねじを締め……ゴホン、抱きつかれて頭をグリグリされた」

「?」

 で、これが今朝方シーザがやられた事である。

 まあ、傍から見ている分には、エイリアスさん視点でシーザの頭に見えている四本のネジを締めようとしているだけだった。

 本人にしてみれば、たまったものではないのだろうが。


「加えて、就寝中に一緒に寝ていたナイチェルが万力の様な締め付けを喰らって、怪我こそないですけど、酷く疲れている感じです」

「……」

「こういう時は、素直に別の家で良かったと思うのじゃ」

 そして、これらエイリアスさんの被害が現状一番近くに居るナイチェルに及ばないわけも無く……うん、かなりキツそうでした。


「……。一応聞いておくっすけど、取り押さえはしても、怪我とかはさせていないっすよね」

「今のところは何とか」

「手は?」

「この状況で出せるとでも?」

「うんまあ、そうっすよね」

 ライさんは頭を抱えていた。

 どうやら、ライさんの想像以上に俺たちの現状は拙い物だったらしい。


「何と言うか、どうしてエイリアス・ティル・ヤクウィードの住居が有った場所があんな複雑な迷路になっていたのか。どうしてあの家に他の住人が居ないのかが良く分かる夜だったな……」

「まあ、あのレベルの問題児と付き合うのは、それ専門の人間でないと無理だろうな。少なくとも、私は一対一で会いたいと思わない……」

「絵を描く道具とかを全部トキシードに置いてきたせいで、他にやる事が無いって言うのも問題の原因な気もするけどな。分かっていてもアレはきついが……」

 だがそんなライさんを尻目に、昨日エイリアスさんと一夜を過ごした俺たち三人は揃って遠い目をしながら、呟かずにはいられなかった。

 それほどまでにエイリアスさんと同じ家に居た一夜は厳しかったのだ。


「と言うわけで、ライさん」

「何すか?」

「エイリアスさんへの対応はどうなっていますか?こうして俺たちにエイリアスさんについて聞いてきたって事は、何かしらの話は有ったんですよね。と言うか、無かったら怒ります。ライさんには悪いですけど、流石に怒ります」

 俺はライさんに詰め寄る。

 と同時に、俺の後ろでは珍しくシーザとロノヲニトも同意見なのか、しきりに頷いていた。


「あー、エイリアス・ティル・ヤクウィードへの対応っすね……えーと……」

 ライさんは卓上のパソコンを操作すると、何かの資料を確認する。


「上から漏れ聞こえてくる話では、現状エイリアス・ティル・ヤクウィードは必要書類を忘れただけって事になっているっすね」

「密航が無かった事になっていると?」

「ふむ、どうやら上の方で今回の件については超法規的措置を取ったみたいっすね」

 シーザたちの乗ってきた飛行機に密航してやってきたエイリアスさんが、密航では無く、書類を忘れただけになっている。

 と言う事は、エイリアスさんがトキシードに強制送還される可能性は無くなったっぽいな。

 まあ、強制送還なら今朝の時点で引き取りに来ているだろうけど。


「まあ、今の時期にダイオークスと『ボウツ・リヌス・トキシード』の関係が悪化するのは、どちらにとっても避けたい事でやんすし、妥当な措置ではあるでやんすね」

「えと、それって問題は……」

「変な口を挟んでくる連中にばれなければ問題なんてないでやんすよ」

 で、超法規的措置と言う言葉通り、今回の密航に関しては本当に見なかった事にするらしい。

 まあ、超法規的措置ってのはそういう物だよな。

 バレたら大問題ってのは、ライさんの言うとおり、バレなければ問題はないって事なんだし。


「それで、今後についてはどうなっているのじゃ?」

「えーと、対応についてはでやんすけど……早ければ明日の朝一番で。遅くても明後日の朝までには必要書類を持った人物が『ボウツ・リヌス・トキシード』からダイオークスにやってくる事になっているっすね」

「「「……」」」

 この時。

 きっと、トキシードに行った俺たちの四人の脳裏には同じ人物の姿が思い浮かんででいたと思う。

 こう言う面倒な状況になった時、真っ先に任せられそうな気がするし。


「ご愁傷様……じゃないか」

「とりあえず頭は下げた方が良いと思う」

「我もそう思う」

 とりあえず彼女が来たならば、生贄役すみません的な意味で頭を下げるぐらいはするべきだろうな。うん。


「あっしの方に伝わってきている話は以上っすね。何か質問とかは有るっすか?あれば聞いておいて、メールで知らせるでやんすよ」

「いや、特には」

「じゃあ、これで終わりでいいでやんすかね」

「ああ、それで問題ない」

「では、失礼するのじゃ」

 そうして俺たちは行きの時よりも若干晴れやかな気持ちで、ライさんの部屋を後にするのだった。

10/31誤字訂正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ