第251話「問題児-2」
「以上がトキシードにおける活動の報告になります」
翌日。
予定通り、俺、トゥリエ教授、シーザ、ロノヲニトの四人は、ボウツ・リヌス・トキシードで何をしてきたのかについて口頭で報告するべく、指定された部屋にやって来ていた。
「ご苦労さまでやんす」
ただ、うん。何で指定された部屋にライさんが居るんだろうな。
しかも部屋の主っぽく。
「ん?どうしたでやんすか?」
「あと、えーと……」
どうやら、顔に出ていたらしく、ライさんの視線が俺の方に向けられる。
ああうん、こうなったらもう素直に聞く方が早いな。
「どうしてライさんがここに?」
「吠竜討伐に伴う部署転換の一環で、外勤部隊事務部門の副部長になったからっすけど」
ライさんは何とも無さそうにそう言うが……うん、シーザたちも驚いている。
誰も聞いた覚えのない話だから当然と言えば当然なんだけど。
「ああそう言えば、第32小隊は吠竜討伐の直後から、ずっと特殊な任務で出ずっぱりだったっすね。なら、あれやこれについても知らないのも仕方がないでやんすねー、きゅっきゅっきゅっ」
「あれやこれ?」
どうやら、俺たち第32小隊が『春夏冬』護衛の為の教習から、トキシードに行き、ダイオークスに帰ってくるまでの間に様々な出来事が起きていたらしい。
まあ、今まで俺たちがやってた任務の特性上、ワザと情報が制限されていたのだろうけど。
「ふむ。あっしの仕事にも今は余裕があるでやんすし、その辺について色々と話しておくでやんすよ」
「よろしくお願いします」
うん、折角ライさんが教えてくれるのだから、ちゃんと一から十まで疑問は氷解させておこう。
「まず、『吠竜撃退作戦』の後、26番塔外勤部隊は大規模な再編成を余儀なくされたでやんす。これは良いっすね」
ライさんがロノヲニトの方をチラリと見ながらそう言う。
どうやら一応当時吠竜だったロノヲニトの事を気にかけていてくれているらしい。
「で、その再編成に重なるタイミングで、レッドとオルガの二人が婚約したでやんす」
「はぁ!?」
俺は思わず目を見開き、驚きの声を上げてしまう。
いや待て、その二人が婚約って……。
「前々から準備はしていたらしいっすよー。きゅっきゅっきゅっ。まあ、尻に敷かれたくないあっしとしては、レッドの奴を称賛したいぐらいでやんす」
「は、はぁ……」
俺はレッドさんとオルガさんの二人の姿と言動を頭に思い浮かべ……ライさんの言葉に納得する。
うん、あの二人なら間違いなくオルガさんの方が上だ。
「それでまあ、丁度いいと言う事で、オルガは寿除隊。26番塔外勤部隊第1小隊の隊長にはレッド・アニュウムが就任したでやんす」
「なるほど」
「で、あっしもそれに合わせて異動になり、人数が足りない第1小隊と隊長を喪った第2小隊は合併。現状では大きな被害も無く、結構良い戦果を上げているでやんすね」
「へー……」
で、戦闘員が二人しか居なくなった第1小隊とサルモさんが居なくなった第2小隊が一つになったのか。
まあ、レッドさんの戦闘能力と、サルモさんの部下だった人たちの能力を考えれば活躍しているのも当然なのかな。
後何となくだが、その内オルガさんは第1小隊に帰ってきそうな気がする。
本当に何となくだが。
「それで現在の第2小隊はどうなっているんだ?」
「今は空席と言う事になっているでやんすね。なにせ他の小隊と違って外周十六塔外勤部隊の第1から第3小隊まではその塔の顔でも有るんすから」
「下手な人間を置くわけにはいかない……と」
「最低でも、ダスパの旦那より実力が有る人間でないと困るのは確かっすねー。あ、第32小隊が格上げになる事は無いっすよ。実力はともかく、面子が特殊すぎるっすから」
「まあ……それはそうだろうな」
うん、ライさんの言うとおり、俺たち第32小隊を26番塔の顔である第2小隊にするのは問題があると思う。
小隊員の半数以上が26番塔以外の人間で、俺、トトリ、ロノヲニトに至ってはこの世界の人間ですらないしな。
「でまあ、こっちは今後の予定って事になるっすけど……見てみるでやんす」
「これは……『崩落猿討伐作戦』?」
「ダイオークス-『テトロイド』間に在るファーティシド山脈を拠点としている熊級ミアズマント・タイプ:エイプ特異個体、通称『崩落猿』の討伐作戦っす」
「『崩落猿』……」
俺の頭の中に思い浮かぶのは『テトロイド』からの帰り道、命からがらその魔手から逃れた時の光景。
そして、彼我の実力差を理解してこちらを深追いしてくる事の無かった知能。
アレを討伐するのか……。
「どうにも吠竜が居なくなってから活動を活発化・広域化させていて、放っておく訳には行かなくなってきているんすよね。まあ、まだ計画は概要レベルなんで、実行されるのはもうちょっと先になるでやんすが」
「なるほど……」
概要とは言え、こうして俺たちに計画書を見せたと言う事は……そう言う事なんだろうな。
丁度いい、その時が来たなら、あの時のリベンジと行こうじゃないか。
「で、あっしからの話は以上になるっすけど、そっちの方はどうなんすか?」
「そっちと言うと……」
「『ボウツ・リヌス・トキシード』から連れ帰って来てしまった画家の事でやんすよ」
「あー……」
「エイリアスさんは……」
「……」
「ん?」
ライさんの言葉に、俺、シーザ、ロノヲニトの三人は思わず顔を見合わせる。
だって、エイリアスさんと言えば……
「凄く問題児です」